世の中デジタル時代。身の回りにある様々なものにコンピューターが組み込まれ、アナログのものの方が少ないんじゃ?と思うほどだ。

そんな流れは確実に舞台にも影響してきている。映像・音響などを筆頭に更に舞台の仕掛けまでコンピューターに頼る時代。ディズニー・ミュージカルの舞台などはほぼコンピューターでオートマチックに転換したりする。奈落には大きなコンピューターがありそれで全ての機構を管理しているのだ。つまり大きな道具の裏についたおじさんたちがエッサホイサと汗水たらしながらその大道具を押して転換する、なんてことはない。舞台監督の指示でボタンを押せば、山だろうと海だろうとたちまち現れるというわけだ。なんとスマートな!考えられるのはロングランをするときの膨大な経費・人件費。これをカットできるわけで、初期投資は相当かかるものの何年かすれば逆転するという発想だ。実際ディズニーのミュージカルは2年以上のロングランになることが多い。逆に言えば初期投資を賄うにはそれだけのロングランが必要となるわけで、1ヶ月や2ヶ月ではこれだけのシステムは組めないのかもしれない。


最新鋭のコンピューターシステムとはいえ機械は機械。使っているうちに不具合がでる。コストカットでは優秀だが、これに頼れば頼るほど大きなトラブルに見舞われるのだ。

実際あの『ライオンキング』では舞台センターに床下から登場する「プライドロック」(山ですよ)が途中で止まってしまいなんともならなくなったり、吊り下げられた背景が上がらなくなったり、床にできた穴が塞がらなくなったりと、上演が止まるほどのトラブルが起きた。


舞台上だけではなくピットもかなりデジタル化が進んでいる。つまりシンセサイザーの多用だ。これもまた人件費削減とスペース削減のための方策なんだろう。しかも最近はそのシンセにパソコンを繋いで音源を管理するのだ。たしかにその方が音色も幅が広がるし管理もしやすい。しかしこのシステム、やっぱり信用ならない。一旦コンピューターがバグればまったく音が出なくなるわけで、舞台上と同じく、頼れば頼るほど壊滅的なトラブルとなる。ソロのピアノが鳴らなかったりするともうピット内はてんやわんや。当たり前だが鍵盤を押す瞬間まで音が出るか出ないかわからないわけだ。その部分が来て緊迫する中、僕は棒を振り下ろす。すると…カタカタカタカタ…あれ!?鍵盤奏者が僕の顔を見ながら泣きそうな小声で「音が出ません…」

誰も悪くないのだ。いや、よく考えるとこんなシステムを信用している人間すべてが悪いのかもしれない。

昨日の 『I'm from Austria』。打楽器にも通称パッドといわれている打楽器バージョンのシンセが使われている。あるシーンでそれを叩くとチューブラベル(のど自慢の時に鳴るキンコンカンコンのやつ)の音が鳴りそれを合図に歌い出すことになっている。そのシーンになりいつも通り棒を振り下ろすと「ボコ」?慌てて奏者の方を見ると泣きそうになりながら口パクで「鳴りません…」え!ど、どうする!?他に使える楽器は…とか考えてる間があるはずもない。うー!と、機転を利かせたジェンヌさんが思い切って歌い出してくれた!助かりました…

もちろんすでにその音は生楽器に替えました。アナログはアナログなりに心配はある。しかしこの手のコンピュータートラブルは誰も責任を取れないので怒りの持って行きどころがない。でも起こると結構インパクトがあるトラブルになってしまうわけ。


その後の調べで原因はどうやらパソコンのバッテリーの不調。なんだそりゃ?人ならお腹空いたくらいで「この音演奏できません」なんてことはない。やはり人間は偉いのだ!

ちなみに宝塚の大道具はおじさんたちがエッサホイサ運んでいるのでそういう問題は起きないのではないかと思います。