(あとがき)
書き終えた後にここを書いています。
今回の更新はちょっとした読み物です。
それなりの文章量がありますので、長い文章読みたくない人はスルーしてください。
2時間ほどで一気に書いたものなので穴などあるかもしれません。
だが、今読み返して直す気にはならん!疲れたんだよ!
後ほど修正などはいるかもしれません。
よろしくお願いします。
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葬式の夢を見た。
参列者は数えるほどしかいなく、とても・・・とても淋しい葬式だなと感じた。
その場で涙を流す数少ない参列者は皆、知っている人たちばかりだ。
お母さん、お父さん、弟の慶太に、親戚の俊雄おじさん、親友の知美も涙を流していた。
この時は夢だと思っていない。
自分もこの数少ない参列者の一人として悲しみを感じ、涙を流していた。
涙?
誰のために・・・?
誰の・・・?
誰が・・・?
誰が死んだの?
ふと頭をよぎった当然の疑問が私の視線を祭壇へと誘った。
祭壇に飾られた遺影を見た瞬間に、泣くことも悲しむことも忘れ、同時に恐怖が心を埋め尽くした。
その遺影に写る人物は紛れもなく私だった----。
そこで明子は目を覚ました。
思い出したかのような悲しみの余韻とともに、明子は恐れていた。
祭壇に飾られた自分の遺影・・・
ただの写真とは言えど、白黒の自分が写るそれを見た時はなんとも言えぬ冷たさと絶対的な無をそこに感じ恐怖した。
悲しみに暮れ涙を流す参列者たちとは別世界に連れて行かれたことを、その写真は静かに表現し、やけにリアルに感じられたのだ。
そして、もうひとつ、明子が恐れる理由があった。
明子は感じ取っていたからだ。
この夢は『あの夢』である、と。
『あの夢』というのは簡単に言えば『正夢』のことである。
ただそれは、「完全な」ものではなかった。
明子自身が捉えている正夢とは、100%それが現実となることのことである。
本人がそれを望んでいようが望まないものであろうがその仮の未来は確実に現実のものとなって起こる。これが正夢の定義だと考えている。
それが明子の見る夢は「避ける」ことができた。
大抵が現実には起こって欲しくないことであったため、意識的にそうならないように明子自身が行動すればその夢が『正夢』となることはなかったのである。
ただ、避けようと行動しなければそれは『正夢』にもなったし、しばしば外れることもあった。
言ってみれば、『半正夢』といったところか。
それほど詳細には知ることもできないし、100%現実となるものでもないが、『予知夢』という言い方もできるのかもしれない。
明子にはその『半正夢』と『普通の夢』を感じ分けることができた。
言葉で表現するのは難しいが、ちょっとした違和感を感じる。
そのちょっとした違和感を今回の夢でも感じていた。
そして恐怖する。
何もしなければ・・・私は死ぬ・・・と。
明子は死ぬわけにはいかなかった。
先月に結婚式を済ませ、来週にはハネムーンの予定もある。お腹の中には最愛の人との子供もいる。
まさに幸せの真っ只中に明子はいた。
愛する人と結ばれ、寿退社をし、新しい人生が始まりだしたばかりだ。
愛する夫・忠志のためにも、産まれてくる子供のためにも、そして自分のためにも明子は死ぬわけにはいかなかった。
しかし、未来が少しばかり見えたからといってどーすればいいのだろうか。
自分の死が近いことを知ったからといって、それを避けるためにはなにをしたらいいのだろうか。
明子にはわからなかった。
ただ不安と恐怖が明子を押しつぶそうとしていた。
その日の夜、目の前で忠志が、「おいしいね、これ。」といって野菜炒めを食べている。
そんな忠志の言葉も上の空で、適当に相槌を打っていた。
ふと、忠志が話題を変えた。
「そーいえばさ、飛行機のチケット届いたんだよ。」
「え?」
「え?って。チケットだよ。新婚旅行の。」
「ほら。」といってテーブルの脇にある封筒を手渡してきた。
『成田-ロサンゼルス』と書かれたチケットを受け取った明子は何も言うことができなかった。
目の前で見え隠れする『死』と、今現実に手に持つチケットの『生』とがぐるぐると渦巻いている。
全く現実のものとして考えることができず、明子は言葉を発することができなかった。
何も言わない明子を忠志が不思議そうに見つめている・・・ような気がしていた。
その夜、明子は再び『あの夢』を見る----。
明子は新聞を読んでいる。
日付は来週のものだ。7月17日。
1面記事に目をやる。
『飛行機墜落事故!!』
瞬間、鈍器で頭を打たれたような眩暈が襲う。
記事を読もうとするが見えない。
見えない・・・!
ミエナイ・・・っ!!
夢から覚めてしまう刹那、目の端で捉えた文字はこれだった。
「死亡者・・・横尾忠志 横尾明子」
明子にとってこれほど目覚めの悪い朝がかつてあっただろうか。
自分と夫がこれから死ぬ夢。最低だった。
ただ、これで確信した。
自分が死ぬのは、飛行機墜落事故によってだということ。
それも、新婚旅行へ向かう飛行機だ。
最低だ、と明子は声に出した。
ラスベガスのガイド本を微笑みながら読む夫の姿を横目に、明子は困惑していた。
『あの夢』・・・明子自身は確信を持てるほどであったが、それを夫に話したところで信じてもらえるだろうか。
自分が見る不思議な夢についてはこれまで誰にも話したことはない。それは夫である忠志も例外ではなかった。
突然、「飛行機が墜落する夢を見たから行くのやめましょう。」なんて言ったら忠志はどう思うだろう。それも新婚旅行の、だ。
激怒するに違いない。
そして、明子に失望するだろう。こいつは頭がおかしくなった。
明子にとって忠志に見放されることは、死ぬことと同じくらい恐ろしいことだった。
夢のことは言えぬまま、日々が過ぎていった。
出発当日―――
明子は成田空港にいた。
結局、忠志に何も言えぬまま運命の日を迎えていた。
もしかしたら今回の夢は外れるかもしれない、と淡い期待を抱きながら時を待っている。
おそらくは現実のことになるだろうと感じながら。
忠志もここ数日の明子の様子の変化には気がついていた。
これまで見たことのない明子の様子にただならぬ気配を感じつつも、いらだっている自分がいた。
そんな二人の間にはよどんだ空気が流れ、とてもこれから新婚旅行へ向かう二人には見えない。
「15:30発、ロサンゼルス行き、○○便にご搭乗されるお客様は・・・」
二人が乗る飛行機の搭乗案内がアナウンスされる。
忠志が、「行こう。」と声をかけ立ち上がろうとすると、意を決したように明子が言った。
「やめよう・・・。行くのやめようよ!ねえ!やめよう!!」
忠志には理解できない、言葉の意味はわかるものの、理解することができない言葉を明子は叫んでいた。
その目には涙を浮かべ、これまで見たこともない表情で訴えている。「やめよう!」と。
まさに明子にとっては「命がけの」訴えだった。
明子はすべてを話した。
自分は不思議な夢を見ることがあるのだということ。そして、最近みた恐ろしい夢のこと。
言葉になっていなかったかもしれない。
それでも、全てを吐き出すように明子は言った。
忠志に失望されることよりも、自分の死よりも、愛する人の死が怖かったから。
周囲が何事か?と視線を送る中、明子はその場に泣き崩れた。
忠志はそんな明子の肩にすっと手をかけると、真剣な眼差しでこう言った。
「わかった。やめよう。」
何も理解できていないであろう忠志は、ただ明子のことを信じてくれたのだ。
その言葉を聞いて、死から逃れることができた安堵からと忠志のやさしさに対する喜びとで再び泣き崩れた。
死ななくてよかった・・・と。
愛した人がこの人でよかった・・・と。
15分遅れで二人が乗るはずだった飛行機が出発したことを告げるアナウンスがされた。
空港の窓から涙でにじむ滑走路を見ながら明子は、「今度は乗ろうな。」という忠志の言葉を聞いた。
二人の前を飛行機が離陸する。
5m・・・10m・・・徐々に陸から離れていく飛行機を二人が目で追っていた。
忠志はどんな気持ちでこの飛行機を見ているのだろう、明子は思っていた。
そして明子は知っている。
これからあの飛行機が堕ちることを。
完全に離陸し、旋回しようと機体が傾き始めていた。
・・・・その時!
右の翼が根元からぐにゃりと曲がり機体が傾いたっ!
呆然とその光景を見る二人。
まるでスローモーションのように機体から翼がもげ、火を噴きながら堕ちてくる。
空港施設の影に姿を消した数秒後、ドーン!!!という大きな物体が落ちる音を二人は聞いた。
その音は紛れもなく飛行機が墜落する音だった。
翌朝、この飛行機墜落事故は1面を飾る。
『飛行機墜落事故!!』
7月16日、15:30発、ロサンゼルス行きの飛行機が原因不明の事故により墜落。
目撃者によれば右翼が根元から折れバランスを失った飛行機がそのまま空港内に墜落した模様。
奇跡的にこの墜落による犠牲者は一人もいなかったものの、折れた右翼が空港施設に落ち、施設内で死傷者を出した。負傷者の数は未だ定かではない。
死亡者は次の通り。
死亡者・・・横尾忠志 横尾明子
(Bad End)