滋賀県草津市のコミュニティバスの視察レポートに続いて
大阪市の視察レポートもアップします。

「大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」について
                    
                                  さとう ゆみ

平成27年7月24日、くらし建設委員会の視察で大阪市役所を訪れた。「大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」について学ぶためである。いわゆるごみ屋敷に対応する条例である。

この条例を制定するきっかけとなったのは、平成24年10月に大阪市内のある区で、どうしようもなく困ったごみ屋敷の状況が発生し、平成25年3月議会で議員が「市としてごみ屋敷の問題をどう考えるか」と質問したところ、副市長が「環境局が中心となって条例を制定し、ケアは福祉局で行う」と答弁したことであった。

すでにごみ屋敷に対応する条例を制定している東京都足立区、荒川区、富山県館山町などを参考にしたという。足立区と荒川区では、条例の名称が「良好な生活環境の確保に関する条例」となっているが、大阪市では「物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例」とし、ごみや廃棄物を「堆積物で不良な状態にする」と定義している。また、憲法29条2項で守られている財産権を侵害しない、裁判になっても耐えうる内容の条例にしている。大阪市の条例では、人が住んでいる家のみを対象とし、倉庫、空き家は対象外としている。

大阪市内のいわゆるごみ屋敷の認知件数は、平成25年3月時点で77件、平成26年8月時点で95件となっている。当時はごみ屋敷の定義がなかったため、この中には店舗や空き家も含まれている。平成26年8月時点で大阪市全24区のうち17区でごみ屋敷を認知、7区では認知していないという状況である。

大阪市の実態調査によると、ごみ屋敷となる家は、60~70才代の中高年が多い、一戸建てに住む人が多い、独居で地域との関わりが無い人や生活保護を受けている人が多いといった特徴があった。

ごみ屋敷の状況が発生した場合、まずは区役所の職員が対話と説得を重視した対応を行う。区長は、地域住民、各種関係機関の代表者から意見を聴く「対策会議」(条例第11条参照)を開催することもでき、ごみを堆積させている本人に指導、勧告を行う。それでも改善しない場合は、市長が審議会(条例第12条参照)に「行政代執行」や「経済的支援」を行うべきか諮問し、審議会からの答申をもらう。審議会が必要と判断すれば、最終的に行政代執行を行うことになる。行政代執行の費用は原則ごみを堆積させた本人に請求するが、支払いが困難な場合は100万円を限度に市から支援を受けることができるとされている。大阪市では、今のところ行政代執行に至ったケースはない。

≪まとめ≫
大阪市の職員の方が「条例を制定したことで最終的に条例に基づいて行政代執行まで持っていける環境を整えたことがよかったと考えている」と言っていたように、条例がないと対処が困難であるのがごみ屋敷の問題である。長久手市では、今のところごみ屋敷の問題は発生していない。しかし、長久手市に隣接する名古屋市、豊田市で最近ごみ屋敷の問題が発生しており、長久手市内でも起きる可能性がある。憲法第29条の財産権を侵害しないよう、2人の弁護士のアドバイスを反映させていたが、他人から見るとごみだと思っても、本人にとっては財産権があるものであり、十分に配慮すべき点だと理解した。条例中ごみ屋敷を「物品等の堆積による不良な状態」としていることや、条例第2条3で「自然人に限る」という表現を使い法人と区別するなど、明瞭であった。ごみ屋敷となる家は、高齢者、独居の人が多いという結果からも、ただごみを片付ける体制を整えるだけにとどまらず、精神的、経済的なケアも同時に考える必要があることが分かった。「長久手市議会基本条例」で条例づくりを経験したこともあり、必要に応じて議員提案でこのような条例をつくっていくことも検討したい。

≪資料≫
大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する条例
(目的)
第1条 この条例は、市民が居住する建物等における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関し必要な事項を定めることにより、市民の安全で健康かつ快適な生活環境を確保することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において「不良な状態」とは、物品等の堆積によりごきぶり、はえその他の害虫、ねずみ若しくは悪臭が発生すること又は火災発生のおそれがあること等のため、当該物品等が堆積している場所の周辺の生活環境が著しく損なわれている状態をいう。
2 この条例において「堆積物」とは、堆積することにより不良な状態の原因となっている当該物品等をいう。
3 この条例において「堆積者」とは、物品等を堆積することにより不良な状態を発生させている者(自然人に限る。)をいう。
4 この条例において「建物等」とは、本市の区域内に存する建物(共同住宅その他これに類する多数の人の居住の用に供する住宅にあっては、居住の用に供する各部分及び当該各部分の周辺の共用部分)及びその周辺の土地をいう。
(本市の責務)
第3条 本市は、市民が居住する建物等が不良な状態にあり、又はそのおそれがあるときは、地域住民及び関係機関と協働して、その原因、経緯等の検証に努め、第1条の目的を達成するために必要な対策を総合的に講ずるものとする。
(市民の責務)
第4条 市民は、その居住する建物等を不良な状態にしてはならない。
2 市民は、近隣の住民と相互に協力して、その居住する地域に存する建物等が不良な状態になることのないよう努めなければならない。
3 市民は、第1条の目的を達成するため、本市が実施する活動に協力するよう努めなければならない。
(所有者等の責務)
第5条 建物等の所有者又は管理者(当該建物等に係る堆積者を除く。以下「所有者等」という。)は、その所有し、又は管理する建物等が不良な状態とならないよう努めなければならない。
2 建物等の所有者等は、その所有し、又は管理する建物等が不良な状態となった場合においては、当該建物等に係る堆積者と協力し、不良な状態を解消するよう努めなければならない。
3 建物等の所有者等は、第1条の目的を達成するため、本市が実施する活動に協力するよう努めなければならない。
(調査)
第6条 市長は、建物等が不良な状態にあり、又はそのおそれがあると認めるときは、この条例の施行に必要な限度において、その職員に、当該建物等に立ち入り、その状態を調査させ、又は当該建物等に居住する者、当該建物等の所有者等その他関係人(以下「調査対象者」という。)に質問させることができる。
2 前項の規定による立入、調査又は質問(以下「調査等」という。)を行う職員は、その身分を証明する証明書を携帯し、調査対象者から請求があったときは、これを提示しなければならない。
3 調査等の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
4 市長は、調査対象者が堆積者であることが明らかである場合であって、当該調査対象者が正当な理由なく調査等を拒み、妨げ、又は忌避したときは、その旨及び当該調査対象者の氏名を公表することができる。
5 市長は、前項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該公表されるべき者にその理由を通知し、意見を聴くとともに、有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。
6 市長は、次条、第8条及び第10条の規定による指導及び勧告、命令並びに経済的支援の実施に関し必要があると認めるときは、調査等のほか、官公署に対し、調査対象者の資産、親族関係、居住関係、保健福祉に関する制度の利用状況並びに当該建物等の所有関係に関して、必要な書類の閲覧若しくは資料の提供を求め、又は銀行、信託会社その他の機関に対し、必要な事項について報告を求めることができる。
(指導又は勧告)
第7条 市長は、第4条第1項の規定にもかかわらず、建物等が不良な状態にあると認めるときは、当該建物等に係る堆積者に対し、堆積物の適切な保管、堆積物の処分その他の不良な状態を解消するための措置(以下「改善措置」という。)を行うよう指導することができる。
2 市長は、前項の規定による指導をしたにもかかわらず、なお建物等が不良な状態にあると認めるときは、当該建物等に係る堆積者に対し、改善措置を行うよう期限を定めて勧告することができる。
3 市長は、建物等が不良な状態にあると認める場合であって、必要があると認めるときは、当該建物等の所有者等に対しても、改善措置を行うよう指導することができる。
(命令)
第8条 市長は、前条第2項の規定による勧告をしたにもかかわらず、なお建物等が不良な状態にある場合であって、当該建物等に係る堆積者の近隣の住民の生活環境が著しく損なわれていると認めるときは、当該堆積者に対し、期限を定めて改善措置を行うよう命ずることができる。
2 前項の規定による命令については、第1条の目的を達成するために必要な限度において実施しなければならない。
3 市長は、第1項の規定による命令をしようとするときは、あらかじめ第12条第1項の規定による大阪市住居における物品等の堆積による不良な状態の適正化に関する審議会(以下「審議会」という。)の意見を聴かなければならない。
4 市長は、第1項の規定による命令をするときは、当該命令を受けるべき堆積者に対し、市規則で定める事項を記載した命令書を交付しなければならない。
(行政代執行)
第9条 市長は、前条第1項の規定による命令を受けた堆積者が正当な理由なく当該命令に従わない場合において、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認めるときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところにより、自ら改善措置をなし、又は第三者にこれを行わせ、その費用を当該堆積者から徴収すること(以下「代執行」という。)ができる。
2 市長は、代執行をしようとするときは、あらかじめ審議会の意見を聴かなければならない。
(経済的支援)
第10条 市長は、建物等が不良な状態にあると認める場合であって、当該建物等に係る堆積者の近隣の住民の生活環境が著しく損なわれており、かつ、当該堆積者が経済的理由により自ら不良な状態を解消することが困難であると認めるときは、当該堆積者の申出に基づき、当該堆積者に対し、不良な状態の解消のために必要な経済的支援を行うことができる。ただし、第8条第1項の規定による命令を受けた堆積者が正当な理由なく当該命令に従わない場合にあっては、この限りでない。
2 市長は、前項の規定により経済的支援を行うときは、あらかじめ審議会の意見を聴かなければならない。
(対策会議)
第11条 区長は、市長の命を受け、区内の建物等の不良な状態の適正化のために必要があるときは、地域住民、関係機関の代表者その他関係者から多角的な意見を聴くために対策会議を開催することができる。
2 対策会議の開催に関する事項は、区長が定める。
(審議会)
第12条 この条例の規定によりその権限に属するものとされた事項について、諮問に応じて審議を行わせるため、市長の附属機関として審議会を置く。
2 審議会は、前項に定めるもののほか、不良な状態に関する専門的な事項について、調査し、又は審議するとともに、市長に意見を述べることができる。
3 審議会は、委員7人以内で組織する。
4 審議会の委員は、学識経験者その他市長が適当と認める者のうちから市長が委嘱する。
5 審議会の委員の任期は、2年とし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。ただし、再任を妨げない。
6 前各項に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、市規則で定める。
(守秘義務)
第13条 対策会議に参加した者は、対策会議の業務に関し知り得た秘密を漏らしてはならない。
2 審議会の委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
(施行の細目)
第14条 この条例の施行に関し必要な事項は、市規則で定める。
附 則
この条例は、平成26年3月1日から施行する。
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