水筒の底に水鳴る登山かな

ふりてとる指のしびれや山清水

満天の星に乾かす登山靴

山小屋の戸締り早し天の川

山下由理子句集『風の楯』より。

 年に何回かお会いする方の句集。昨日届いたのでまだ読んでいない。夏のページを開いてみた。山の句が見開き並んでいる。むかし山登りをしていた頃を思い出した。私が登山をしていた頃の水筒はポリタンだった。水場で満タンにした直後は当然冷たいのだが、時間が経つと生ぬるくなってポリの匂いがした。それでも乾いた体には大のご馳走だった。キスリングザックの上の方にあるポリタンの水の音が懐かしい。「指のしびれ」は重いザックを背負っていたせいだろうか、山清水の冷たさのせいだろうか。ほっと一息。満天の星はなかなか見られない。単独行だと心地よい淋しさに浸ったりするが、仲間と一緒だと夜遅くまで会話が尽きない。私の学生の頃の登山はほぼ幕営だった。体力のある仲間が布製の重いテントを担いだ。句に喚起されて個人的な感慨を書いてしまった。しかしながら、私は腰痛で当分山を歩けそうにない。

 それにしても四句とも素直な句だ。こんな句を読むと類想句だとか、季語の本意だとか、俳句の新しさだとか、そんな議論が馬鹿らしくなる。

 

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