2021.5.9修正 

 

農薬がハチにどのような影響を与えるか、日本ではあまり研究がされていないと思っていたのですが(そう聞いてもいました)、J-StageGoogle Scholarで検索したところ、全くないわけではありませんでした。

ちゃんと調べないとダメですね。。。

 

特にニホンミツバチは「野生なので研究が難しい」と一蹴する人がいるそうですが、セイヨウミツバチやハナバチなどを対象とした研究結果は(一概に当てはめることはできませんが)十分参考になると思います。

また2017年の論文では「トウヨウミツバチは農薬に対してセイヨウミツバチよりも10倍敏感」という結果も報告されています。

 

なので、ここでは参考になりそうな論文や発表資料を集めていきます。

やはり主要なものは英語論文が多いです(泣。グーグル翻訳大活躍)

リンクと解説があるものは確認済み(Abstractのみの確認もあり)です。リンクがないものは、タイトルが気になったものの未確認です。

 

 

 ◎ EUでネオニコ系農薬が規制されるきっかけとなった(らしい)論文

 

Penelope R. Whitehorn et al (2012) Neonicotinoid Pesticide Reduces Bumble Bee Colony Growth and Queen Production.

「ネオニコチノイド系農薬はマルハナバチのコロニーの成長と女王の生産を減少させる」

→マルハナバチの群れをイミダクロプリド(ネオニコ系農薬)に曝露させたところ、汚染されていない群れと比べて成育率が著しく落ち、新女王蜂の成長も低下した。

 

Henry et al (2012) A Common Pesticide Decreases Foraging Success and Survival in Honey Bees.

「一般的な農薬はミツバチの採餌の成功と生存を減少させる」

→ミツバチがチアメトキサム(ネオニコ系農薬)に曝露されると、非致死量でも巣に帰ることができなくなって死に至り巣が崩壊してしまう。

 

 

 ◎ 環境省の報告書で引用されている論文(上記以外)

 

環境省「農薬の花粉媒介昆虫に対する環境影響調査業務報告書」(2019)のp88から、関連のありそうな論文タイトルを抜き出して、Google先生訳(をちょっと手直し)をつけました。

 

■Koch H, Weisser P (1997) Exposure of honey bees during pesticide application under field conditions.
「野外条件下における農薬散布中のミツバチの曝露」(1997)
Apidologie 28:439-447

■Candolfi MP, Barrett KL, Campbell PJ, Forster R, Grandy N, Huet MC, Lewis G, Oomen PA, Schmuck R, Vogt H (2001) Guidance document on regulatory testing and risk assessment procedures for plant pretection products with non-target arthropods.
「非標的節足動物を含む植物保護製品の規制試験およびリスク評価手順に関するガイダンス」(2001)
SETAC, Pensacola

■Decourtye A, Devillers J, Cluzeau S, Charreton M, Pham-Delegue MH (2004) Effects of imidacloprid and deltamethrin on associative learning in honeybees under semi-field and laboratory conditions.  
「セミフィールドおよび実験室条件下でのミツバチの連想学習に対するイミダクロプリドとデルタメトリンの効果」(2004)
Ecotoxicol Environ Saf 57:410-419

■Smodis Skerl MI, Velikonja Bolta S, Basa Cesnik H, Gregorc A (2009) Residues of pesticides in honeybee (Apis mellifera carnicaÄi0) bee bread and in pollen loads from treated apple orchards.ミ
「ミツバチの蜂パン(ミツバチが花粉から作る保存食)と、処理されたリンゴ園からの花粉負荷中の残留農薬」(2009)
Bull Environ Contam Toxicol 83:374-377

■Laycock I, Lenthall KM, Barratt AT, Cresswell JE (2012) Effects of imidacloprid, a neonicotinoid pesticide, on reproduction in worker bumble bees (Bombus terrestrisÄi0).
「マルハナバチの働き蜂の繁殖に対するネオニコチノイド系農薬イミダクロプリドの影響」(2012)
Ecotoxicology 21:1937-1945

■Derecka K, Blythe MJ, Malla S, Genereux DP, Guffanti A, Pavan P, Moles A, Snart C, Ryder T, Ortori C, Barrett DA, Schuster E, Stöger R (2013). Transient exposure to low levels of insecticide affects metabolic networks of honeybee larvae.
「低レベルの殺虫剤への一時的な曝露は、ミツバチの幼虫の代謝ネットワークに影響を与える」(2013)
PLoS One 8:e68191.

■EFSA (European Food Safety Authority) (2013) Guidance on the risk assessment of plant protection products on bees (Apis melliferaÄi0, Bombus Äi0spp. and solitary bees).
「EFSA:ミツバチの植物保護製品のリスク評価に関するガイダンス」(2013)
→ハチへの農薬曝露リスクにおいて、世界で初となる詳細な評価方法についてのガイダンス。
EFSA Journal 11:3295

■Lewis K, Tzilivakis J (2017) Development of a data set of pesticide dissipation rates in/on various plant matrices for the Pesticide Properties DataBase (PPDB).
「農薬特性データベースのさまざまな植物マトリックス内およびマトリックス上での農薬散逸率のデータセットの開発」(2017)
Data, 2(3): 28. (IUPAC FOOTPRINT pesticide properties Database)

Sanchez-Bayo F, Goka K (2014) Pesticide residues and bees–a risk assessment.
「残留農薬とミツバチ–リスク評価」
→農作物に散布された農薬がミツバチに悪影響をおよぼしていることは明らかだが、今までのリスク評価は農薬のスプレードリフト(スプレーで空中に漂っている農薬?)による直接の急性曝露がほとんど。ここでは花粉や蜂蜜に含まれる残留農薬調査とハチミツとマルハナバチに対する農薬の毒性に関するデータからリスクの包括的な評価を行った。
その結果、ピレスロイドおよびネオニコチノイド系殺虫剤の残留物が最も高いリスクをもたらされることが示された。エルゴステロール阻害殺菌剤とこれら2つの殺虫剤との相乗効果により、残留物の有病率が低いにもかかわらず、リスクがはるかに高くなることがわかった。全身性殺虫剤、特にイミダクロプリドとチアメトキサム、クロルピリホス、およびシハロトリンとエルゴステロール阻害殺菌剤の混合物によって汚染された花粉と蜂蜜の摂取によるリクスが懸念される。特定の残留混合物にもっと注意を払う必要がある。
PloS One 9:e94482

Yasuda M, Sakamoto Y, Goka K, Nagamitsu T, Taki H (2017) Insecticide susceptibility in Asian honey bees (Apis cerana Äi0(Hymenoptera: Apidae)) and implications for wild honey bees in Asia.
「アジアのミツバチの殺虫剤感受性とアジアの野生ミツバチへの影響」(2017)
J Econ Entomol 110:447-452

→アジア全体に広く分布するアジアのミツバチについての毒性データは不足しており、本論文はそのギャップを埋めることを目的とする。

 ネオニコチノイド、フィプロニル、有機リン、合成ピレスロイド、カーバメート、アントラニルジアミドなどのさまざまな農薬に対するトウヨウミツバチの急性接触毒性を測定した結果、トウヨウミツバチはジノテフランに最も感受性が高く、次にチアメトキサムおよびフィプロニルが続いた。ジノテフランはアジアで広く使用されており、重大な危険を引き起こす可能性がある。またトウヨウミツバチは、農薬に対してセイヨウミツバチよりも約1桁敏感だった。すべてのミツバチを単一のグループと見なすべきではなく、セイヨウミツバチよりもトウヨウミツバチの個体数を保護するために、より慎重な管理戦略が必要である。

 

 

 ◎ 上記以外で気になったもの

 

■山田敏郎「ミツバチの失踪とネオニコチノイド系農薬の関係」2013年度「日本奥山学会」第2回研究発表会特別講演資料、2013年8月25日
→農薬の歴史からネオニコ系農薬について、海外と日本の動き、蜂群崩壊症候群(CCD)の説明、国際自然保護連合(IUCN)での活動、ネオニコ系農薬の日本での使用についてわかりやすくまとめられている。
 2010年7月18日~11月21日には長野県で野外実験を行い、ネオニコ系農薬投与によりCCDに極めて類似した蜂群状況となることが示された。
 すごくわかりやすい。最初にこの資料に出会えればよかった。

 

→「ネオニコ農薬はヒトには安全」とする言説は誤りであり、人の脳に悪影響を与えることを指摘。ネオニコ系農薬はミツバチだけでなく、人の脳のアセチルコリン情報を撹乱して神経回路(シナプス)形成を阻害するため、発達障害やADHDの原因となる可能性が高いことを示した調査結果などを紹介し、「科学的データにもとづけば、いずれ欧米のようにネオニコ農薬は使用禁止にせざるを得ないであろう」とした。
 
■中村 純(2015)「ネオニコチノイド系農薬の使用規制でミツバチを救えるか」『日本農薬学会誌』40巻2号, 日本農薬学会, pp.191-198
 
続く(たぶん)。