岩屋安全保障調査会長、左藤国防部会長らと、小野寺防衛大臣に対し、わが国の防衛生産・技術基盤を如何にすべきかをテーマとした「防衛省・新戦略への提言」の申入れを行いました。提言の全文を紹介します。
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わが国の防衛生産・技術基盤を如何にすべきか

~防衛省・新戦略への提言~

                       自由民主党 政務調査会
                            国防部会・防衛政策検討小委員会


これは、国内企業の保護を目的とする類のものではなく、国家の安全保障に帰結する。まずはこの共通認識を、本提言の出発点としたい。

防衛装備品のユーザーは防衛省・自衛隊であるが、国防の受益者は国民一人一人であるとすれば、その国防を支えている防衛生産・技術基盤の問題は、国家の取り組むべき課題として捉えるべきである。

防衛省では平成26年に新しい防衛生産・技術基盤の戦略を策定しようとしており、これは、昨年末に策定された「国家安全保障戦略」及び「防衛計画の大綱」に明記されている。また、防衛装備移転三原則が閣議決定されるに至ったが、これらは国産の技術があって初めて可能となるものである。新たな方向性に向かおうとしている今だからこそ、国産技術の安定した確保を図ることが求められている。

 この認識のもと、自由民主党政務調査会国防部会・防衛政策検討小委員会においては陸海空自衛隊、経団連防衛生産委員会、日本防衛装備工業会、日本造船工業会及び日本航空宇宙工業会と協力し、また、元防衛省防衛生産・技術基盤研究会委員の桜林美佐氏の助言も踏まえて平成26年2月よりわが国の防衛生産・技術基盤の維持・強化についての検討を精力的に行ってきた。
本提言は、今後の防衛生産・技術基盤戦略の方向性を示すため、わが党としての考えをとりまとめ、明らかにしたものである。

1 わが国の防衛生産・技術基盤の特性と現状
 わが国には工廠(しょう)(国営工場)が存在しないことから、生産基盤の全てと技術基盤の多くの部分を企業(防衛産業)が担っている。
 例えば米国は、大半の兵站機能を軍の中で完結させるが、わが国の場合は、兵站部分を民間企業に任せていることから、これらのいわゆる防衛産業は自衛隊の戦力の一部であり、互いに支え合うことで初めて十分な防衛力たり得るのである。ゆえに、国家として防衛産業の安定的な保持に努めなくてはならない。
 「防衛産業」とひと言で表現しても、装備品の生産には多数の中小企業が携わっており、たとえば、戦闘機関連企業は約1,200社、戦車関連企業は約1,300社、護衛艦関連企業は約2,500社ともいわれ、そこには大手企業から町工場までが含まれている。
 わが国の防衛産業の規模は大きくなく、国内の工業生産額全体に占める防衛省向け生産額の割合は1%以下となっている。また、「防衛産業」といえど、ほとんどが企業の1部門にすぎず、防衛装備品生産に従事する企業における防衛需要依存度(防衛関連売上/会社売上)は平均で4%程度である。防衛部門は民需部門に比べ低利益であり、国の安全保障を担う責任感により維持されていると言っても過言ではないが、そのことは経営会議や取締役会では意味をなさない現実もある。
他方、比較的小規模な企業の中には防衛需要依存度が50%を超える企業も存在し、そのような企業は、そこでしか作れない「オンリーワン」技術を保持している場合も多いが、防衛省からの調達が変動すると、設備の保持や技術の継承が困難となり、撤退・倒産企業が相次いでいる(これを防ぐためにプライム企業が補填することになる)。
 また、防衛装備品は市場が防衛省による少量の需要に限定されていることから、量産効果は期待しにくい状況にあり、さらに、防衛装備品の開発・製造には特殊かつ高度な技術や技能が不可欠なため、そのような技術や技能の育成・
維持には多くの努力を必要とする。

2 国内に防衛生産・技術基盤を保持する意義
なぜ、国内基盤が必要なのか。まず、わが国の場合は、世界的に見ても特殊な安全保障環境にあることに留意しなくてはならない。日本国憲法、専守防衛、非核三原則その他、特有の国情に鑑み、わが国の防衛装備品は、原則として自衛隊による国内運用を想定したものであり、そのような特性を持つ装備品は諸外国にはないと考えられる。
 また、昨今は、自衛隊の国際平和協力活動等に対する期待も高まっていることから、国内運用向け装備品の速やかな海外仕様への改修ニーズが発生することが考えられ、その場合、国内防衛産業の協力が不可欠である。
 さらに、自衛隊は道路交通法やディーゼル規制などをはじめとする各種国内規制の数々に従う必要があり、ミルスペック(軍仕様)と国内の諸条件の双方を満たす装備品製造は、国内企業以外に成し得ないものである。
 かつて、「制服を輸入に」といった検討がなされたようであるが、これについては、「事に臨んでは危険を顧みず、身を以て責務の完遂に努める」とする服務の宣誓の下、一朝有事には納棺服になるかもしれない制服は自国で製造するという原則理念を、再認識することになったと思料する。
 一方、その他の着衣等についても、難燃性や長時間の装着による耐ストレス性、日本の気候、日本人の体型や臓器の位置等や、あらゆる運用状況を考慮して開発・製造されていることにも注意を払わなければならない。
 自衛隊においては、弾薬を一つ紛失するようなことがあれば、訓練などは長期停止され、社会問題化する。そのため、装備品の徹底した管理体制が製造側にも求められ、これに応えられるのは国内企業をおいて他にない。
当然、自衛隊の隊員によって、高い運用レベルを維持しているものであるが、部品の交換や整備等、各部隊では限界がある作業については、関連企業が、例え契約外であっても責任感の範囲で負っていることは、部内関係者においても周知の事実である。これは、兵站分野の多くを軍で担っている米国等とは異なる特質と言える。
以上の態勢により、わが国の防衛装備品は概ね高い可動率を維持している。これは装備品という国有資源の効率的活用であると思料する。また、こうした基盤の保持は、海外から装備品を調達する場合や国際共同開発・生産へ参加する際に、相手国との交渉力(バーゲニングパワー)を確保できるといった意義も有している。さらに、国内企業が装備品の開発を通じて獲得した新技術を、民生品に応用できる波及効果も期待できるところである。
他方、 輸入装備品が増えるほどに多額の国税が国外に流出するが、国産であれば国内を還流する。そうした経済的利点や、防衛技術力が他国の侵攻やテロリスト等の攻撃を阻ませ、安全保障上も国の抑止力となり得ることからも、自国で作れない場合は、まず輸入し、ライセンス国産した上で完全国産化を目指すのが世界の通例となっている。

3 わが国の防衛産業が直面する課題
 (1)生産・技術基盤の弱体化
 わが国の防衛関係費については、わが党が政権をとり戻して以降、平成25年・平成26年と連続して対前年度増となっているところであるが、為替差損や消費増税分等の防衛費への影響も加味すれば、依然として厳しい状況が続いていると言わざるを得ない。
それに加え、昨今の装備品の高性能化・複雑化により、維持・整備にかかる費用が増加し、平成17年度から平成25年度までは、維持・整備経費が主要装備品の購入にかかる経費を上回るいわゆる逆転現象が起きている。この傾向は今後も続くことが考えられ、主要装備品の新規調達はますます困難となることが予想される。
(2)研究開発経費の削減、FMS等のリスク
研究開発経費の削減が著しい。平成24年度の当該経費は、20年前と比べて約20%減となるなど厳しい状況におかれている。このことは、わが国における国産装備品の将来性に暗い影を落としている。現在、諸外国が日本の装備品に関心を持ち、熱視線を送られているのは、過去の研究開発の成果物であり、現状からすれば、次世代に残るような魅力ある開発案件が消滅する可能性がある。
一方で、海外からの輸入やFMSによる装備品調達は増加傾向にある。これは、現時点では相対的に低価格でかつ高性能である物を選択するという、昨今の日本をとりまく安全保障環境からすればごく当たり前の選択であるが、供給者任せの需給関係が続けば価格高騰リスクは常にあり、実際に2~3倍の上昇例なども発生している。大幅な納期遅延等も生起しており、その場合、長期の訓練停止など運用上の影響が大きい。
 また、同盟国間においても、いずれの国であれ、あくまでも自国兵士が優先であることは前提としなくてはならない。必要な時にスムーズに提供される保証はない。
 現在の政治・安全保障上の事情だけで国内研究開発への投資を怠れば、将来の運用現場のみならず技術力の喪失という国力低下を招きかねない。政治が20年、30年以上先を見据えなければ、その負担を次世代に負わせることになる。

(3) 契約制度の問題
A.契約制度と原価
公共調達においては、市場によって決定された価格(市場価格)をもって契約することが最も合理的かつ効率的とされており、防衛装備品についてもその適正価格の決定、すなわち予定価格の算定には、市場価格によって計算する「市場価格方式」を採用することを原則としている。しかし、防衛装備品には、その特殊性により、市場価格の存在しないものが多数存在するため、そのような場合には、当該装備品の製造において実際に必要となる原価・費用を積上げた原価に適正利益を加算して計算する「原価計算方式」を採用している。
 原価計算方式では、必要なコストを一つ一つ計上して価格を計算するため、防衛省側にとっては、防衛装備品の価格の妥当性を容易に説明しうるメリットを有する。
原価計算方式によって予定価格を算定している防衛装備品のうち、特に研究開発や量産初期の段階にあるものについては、契約の締結当初に原価を確定することが困難なため、契約の履行完了の前後に実際にかかった原価(実績原価)を確認し、実績原価が当初予定していた原価より少なくなったことで企業の受け取る利益が大きくなった場合には、当該利益を「超過利益」として契約金額から減額しまたは返納させる「原価監査付契約」の契約形態をとっている。この原価監査付契約では、減額または返納の対象となる超過利益に、企業がコストダウンを行って得た利益が含まれる。つまり、企業努力分を返納する仕組みとなっている。
 その上、このような契約形態は、実績原価が当初予定していた原価を超過した場合でも当該超過額を補填する制度とはしていないため、企業が他の契約で発生した工数(直接工員の人数と作業時間の積によって表される作業量)を、別の契約に付け替えることによって、実績原価を見かけ上水増しする過大請求を誘引する要因ともなっている。平成24年1月以降に相次いで発生している過大請求事案は、こうした制度上の問題に依拠していることが明らかとなっている。
 このように、防衛装備品の契約においては、仕様の明確化に伴う追加費用や経済の変動による追加費用発生など、各種リスクが民側に偏っていることや、防衛省が試みていたインセンティブ契約においても、コストダウン努力が民側にのみ求められる一方でその成果は防衛省と折半せざるを得ないといった片務性があること、さらに防衛省が価格算定に際して使用している加工費率等の経費率については、実情を反映したものへの見直しを求める声が業界から上がっていることに留意しなければならない。企業は片務的な契約の下、常にコスト超過による赤字リスクを抱えているのが実情である。

 なお、平成24年の三菱電機過大請求事案を受け、防衛省の報告書では、以下のような見解を示している。
・「(原価計算方式について)必ずしも企業で実際に発生する原価や経費をそのまま反映するものとはしていない。」
・「実際に履行に要した費用に適正利益を加えた額を下回る契約案件が発生する。」
・「防衛事業を担当する部門にとっては、事業の継続――ひいては部門存続の観点や、現に固定費を負担している事業の操業度を保つ必要から、受注の断念を覚悟してまで条件の改善を求めることは現実には行われていない。」
・「しかし他方で、当然のことながら全社的な立場から見れば、そのような形での損失の受入れを許容する土壌はなかったとされ、また、これに対応して赤字原因となる目標を超過した工数を単純に計上しないこととすると、その分、見かけ上マンパワーに余裕がある形となり、実際には必要な人員の削減を招くとの懸念があった。」
・「原価監査付契約では実際に要した費用に見合った対価が契約金額を上回る傾向にあり、受注者がこれを負担していることが、費用が下回った契約の利益を補填に回しても構わないという発想につながり、工数付替えに対する心理的抵抗を弱める原因になった」

 以上の防衛省報告から、官側と企業側の制度上の片務性を防衛省自らが認識していることが分かる。防衛省には同様事案の再発防止策を実施することを求めるが、その際、最優先すべきは、企業側の声を傾聴するとともに、同報告書にあるような過大請求事を誘発するような制度の根本的な見直しであると思料する。
いわゆる「過大請求事案」が後を絶たないことは、国民の防衛装備品調達に対する不信感を招き、防衛生産・技術基盤維持についての理解をますます困難にしていると考えられる。

B.防衛装備品における競争入札の弊害
 平成18年以降の一般競争入札の過度な拡大によって、粗悪な装備品が導入される結果を招くなど部隊に悪影響が生じている。一例として、一般競争入札で安価に自衛隊に納入された手袋が一度の洗濯で色落ちしてしまい使い物にならなかったことなどの事例がある。このように不良品が納入され、再公募をかけるも、すでに安値の前例があることから入札が不調となり、従来企業に頼み込み、赤字必至で受注することになる。また護衛艦等の建造についても1番艦建造の際の過剰な価格競争により、2番艦以降の予算が削減され、赤字受注となるケースもある。
安値で落札された装備品の中には、隊員の生命に関わる事故につながりかねない物もあり、最悪の事態となれば計り知れない損失を招くことになる。
また、防衛省と企業が共同して開発した装備品にも競争入札を実施することは、企業リスクをますます高めている。さらに2回目以降の契約においても毎年、入札を行うことにより手続き等の経費が多大となることや、価格競争に陥りがちなことなどから、技術審査での評価を望む声が多い。現状では、企業として受注できるかどうか分からない開発を請け負う構図になっている。いずれにしても、全く予見可能性がない状態での先行投資は困難であり、高品質な装備品製造を阻害している。

(4)不十分な海外移転体制
 平和貢献・国際協力において、自衛隊が携行する重機等の防衛装備品の活用や派遣先国・被災国等への供与(以下「防衛装備品の活用等」という。)を通じ、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、防衛装備品の高性能化を実現しつつ、費用の高騰に対応するため、国際共同開発・生産が国際的主流となっている。こうした中、国際協調主義に基づく積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用等による平和貢献・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品等の共同開発・生産等に参画することが求められている。
こうした状況を踏まえ、防衛装備品移転に関し新たな安全保障環境に適合する明確な原則が定められた。同時に諸外国と我が国との協同運用・整備といった防衛装備協力や対話が増加していることも踏まえつつ、共同開発・生産や今後の防衛装備品の海外移転に備え、民間任せではないオールジャパンの体制強化が必要となる。
装備品輸出及び民間転用については、市場の拡大により国内基盤の維持を助けるものと捉えられる傾向にあるが、もとより体力を失った企業(防衛部門)にとって、これを民間任せで行うことは困難であり、将来性が不透明であることからも、積極的に進出する企業はそう多くはない。まず国内基盤を盤石にすることが、海外への展開を進展させるために欠かせない要素である。また、国産装備品は、従来、国内向けに限定し製造してきたことから、国際競争を意識したものではない特徴についても留意すべきであろう。
現在、インド海軍に対する民間転用に向け進行中のUS-2の事例では、国内各省庁への手続きやインドとの交渉に費やされる労力が大きくなっている。通常、世界的な装備品取引では、オフセットなど民間企業だけでは対応しきれない条件が要求されることからも、民間任せではなく政府間交渉としなければならない。

4 具体的な提言
・「国産」あっての国際共同開発――「国内生産基本方針」の政府方針化
 国産と国際共同開発は相反するものではない。安全保障上革新的な分野において、他国を上回る先端技術と完成品の製造能力を保有することで、はじめて強いバーゲニングパワーとなる。つまり、わが方が国際共同開発・生産に参画する意志を持っていても、魅力ある日本の防衛装備技術がなければ引き合いがなく、仮に参入できても技術貢献度が低くなり、資金創出ばかりの存在になりかねない。
防衛省において進行中か、または今後進めようとしている防衛装備品調達等についての取り組みの多くは、昭和45年の事務次官通達「装備の生産及び開発に関する基本方針」(「国産化方針」)において言及されている。そのため、この理念を踏襲することを前提として、当時と比べ国産化が多く実現されてきたこと、また安全保障環境の変化や国際共同開発、防衛装備移転三原則等を踏まえ、自国に技術がないものについては輸入を活用するが国内企業が関与することを促すなど、時代に適合した「国内生産基本方針」として新たな「防衛生産・技術基盤戦略」に明記し、それを政府方針とする。

・「防衛大綱」期間にとらわれない長期の防衛技術戦略の策定
 「防衛計画の大綱」は10年の括りであり、防衛生産・技術基盤戦略は期間限定の概念ではなく、その特性からある程度の普遍性を加味するべきである。喫緊の安全保障に対処する装備体系のみならず、20年、30年以上先までの長期ビジョンを併せて見据えた取り組みが求められる。そのため、現在、諸外国と比べ相対的に小規模な「研究・開発」分野へも力点を置くことは極めて重要である。
国内企業を活性化することにより、将来にわたる国土防衛のみならず外交面でも国力を高めることに繋がる。工廠を持たず、生産基盤の全てと技術基盤の多くを民間企業が担っているわが国としては、国家として防衛産業の安定的な保持に努めなくてはならない。


・調達偏重からの脱却、技術交流体制の新設
 従来、防衛省は装備行政が主に調達に偏重されていたが、今後は、技術交流や装備品移転、産業の育成についての専門部署の設置が求められる。我が国としては購入に限られている、輸出としてのFMSの活用についても検討を進められたい。このほか、キャパシティビルディングとの連動、ODA的な形での装備品移転により、外交・安全保障に資する制度作りは、諸外国からのニーズがある現在急がれる課題である。商社等の知見も活かされるべきである。
 一方で、防衛装備品の特性上、技術交流や装備品移転が安全保障に関わる技術流出にもなりかねず、情報管理・保全体制を同時に構築することが必要である。

・新たな安全保障環境に適した、防衛装備に関する組織体制の強化
 上述の防衛装備品の技術交流や海外移転への諸課題に応えるとともに、わが国の防衛装備面での技術抑止力を強化し、さらに、装備品のより充実・効率的な取得を図っていくためには政府における組織体制の強化が必要不可欠である。
 このため、防衛装備の海外移転推進・国際協力機能、技術管理機能、プロフェッショナルな人材を育成する機能、そして、構想段階から研究開発、取得、維持整備段階に至る一貫したプロジェクト管理機能などを有する強固な組織(防衛装備に関する外局(庁))を早期に防衛省に設置することを求める。


・契約制度の問題
(1)防衛装備品の特性に見合った契約制度の柔軟な採用(随意契約、長期契約、総合評価方式)
一般競争入札制度による不良品の納入、あるいは運用上の不安要素については調査を徹底し、かえって国費の流出を助長していないかどうか検証する必要がある。防衛省で検討されている契約制度見直しにおいても、随意契約の対象について検討が進められているが、「請負企業が一者に限られる」ものだけではなく、安全保障上の基盤維持の観点から一者以上の拠点が必要であることに、理解を求める施策が必要である。防衛装備品においては競争入札方式では国の安全保障を担保できないものがあり、随意契約や総合評価方式の採用を拡大すべきである。また、将来予見性を持たせるため、5年を超えて国庫債務負担行為が出来ないと規定されている財政法等の改正を図るなどの措置を推進すべき。

(2)経費率や商議の透明化、利益率そのもののアップ(適正化)
防衛部門を赤字事業にしてはならない。研究開発費を含む各種コストが適正に評価されるようにするとともに、企業が抱えている「工期厳守のリスク」「下請企業の技術を守るリスク」等まで含めた「企業リスク」についても利益率に反映すべきである。企業の持ち出し分が多いことは、過大請求事案などを誘発し、このことがかえって国民の不信感を生む要因になっている。企業において、防衛装備品製造を担うことが会社の不採算事業にならず、事業を誇りにできるよう、経費率や商議の透明化、及び利益率そのもののアップ(適正化)等への配慮を求める。

・防衛関連研究開発の国家プロジェクトとしての位置づけ
 防衛技術が国家のトップレベルに位置するという意識を持つ必要がある。具体的には内閣府に発足した「革新的研究開発プログラム」(ImPACT)などの仕組みを活用し、将来にわたる我が国の防衛技術力向上に努められたい。ImPACTは、米国のDARPAの日本版とも言えるが、DARPAにおける最先端技術を軍事に転用するという目的意識や、固定観念に縛られない研究ができるといった特徴についても踏襲されることが望ましい。また研究開発は従来、企業が負っていた部分が多いが、今後は大学との連携強化を図るべく、防衛分野の魅力化・DU(デュアルユース)の拡大などについても検討する必要がある。
わが国の防衛研究開発予算は、比率でみても、実額でみても先進諸外国に比して極めて少ない。少なくとも主要国並みの防衛研究開発費を確保すると同時に、防衛関連研究開発からのスピンオフが広く経済社会にイノベーションをもたらすことに着目し、防衛省外のリソースとの連携を深化すべきである。国力という観点から、その規模や予算においても防衛枠にとらわれず追求すべきである。

・税制優遇、補助金制度の導入
 米国では重要なサプライチェーンの維持のため、補助金も活用している。研究開発や設備投資に対する税制優遇、会計法その他、関係省庁が複雑に絡む案件が多数存在することから、防衛生産・技術基盤維持に係る取り組みには、省庁横断的な検討が欠かせない。各種手続きや制度により防衛基盤の崩壊を招いては元も子もない。
わが国においても、税制優遇・補助金の活用や、戦略的に重要部分を担うサプライチェーンを維持するためにも、この現状調査及びアライアンスの有効性などを含め、防衛省による積極的な問題提起が求められる。

・専門家の育成と国民理解への広報
 官民関係は適正であることが厳に求められるが、公正性を追求するあまり、対話機会が極めて限定的で、なおかつ官側の担当者が短期間で交代するなどでは、双方向の問題認識の上での調達・契約制度の改善は困難と思料。当該分野における専門的知見を有する人材を育成し配置するとともに、開かれた議論の場を創出すべきである。
一方で、官民癒着といった事案が生起し、国民が防衛事業に対し不信感を抱くようなことになれば、この信頼を回復するには多大な労力を要することになり、防衛省・自衛隊が負うダメージは計り知れない。対話機会と癒着とは異なるものであるという国民理解に向け、防衛生産・技術基盤維持の意義についての広報を推進すべき。
 また、そもそも防衛装備品は、自衛隊員がこれを用い命を預け国防の任に当たるものである。その任務の本質、組織の特性を鑑みれば、昨今のコストダウン偏重は防衛力そのものの質的低下を招くことになる。「削る」ことにのみ注力し、自衛隊員や国民の安全性が損なわれることがあってはならない。防衛装備品は、自動車のようにスペックを見直して価格を抑えればいいというものではなく、侵略目的を持った相手を抑えかつ勝るものでなければならないという特質を、広く国民に知らせることが重要である。




おわりに
今年は、防衛省・自衛隊が創設されて60年という節目の年となる。わが国は先の大戦の敗北により全てを失い、いわばゼロからの再出発をした。先人達の血のにじむような努力により我が国は独立を回復し、また奇跡の復興を遂げることができた。現代に生きる我々は先人達の苦労を忘れることなく、この美しい国・日本を更に発展させていく義務を負っている。
 国家の独立は何にも増して重要である。この独立を担保するのは防衛力である。防衛力は侵略を排除する国家の意思と能力を表す最終的な担保であるが、この防衛力を支えるのが車輌・艦船・航空機をはじめとする防衛装備品であり、それを支えるのが防衛生産・技術基盤である。かつて大山巌元帥は「兵器の独立無くして、国家の独立なし」の言葉を残している。
 しかし、大山による国産化の推進は必ずしも運用側に受け入れられなかった。当時はまだ輸入武器がはるかに高性能であったからだ。しかし、その中で批判と孤独に耐え、国産共通装備にこだわった大山の方針が、継戦能力保持に帰結し、日本を欧米に肩を並べる国家たらしめたのである。
 わが国は米国やEU諸国などとは、地政学的にも安全保障環境も異なる。それゆえ、防衛力については独自の施策が必要である。例えば、フランスは核武装により防衛費の大幅削減を実施したが、我が国は現時点で非核や専守防衛を国是としており、通常戦力で多様な装備を広く保持するという方針は、わが国自らの決定にほかならない。
そうしたことからも、防衛生産・技術基盤維持の国としての政策の明確化は当然であり、また、北朝鮮が弾道ミサイル発射や核実験を強行し、中国がわが国周辺海空域で活動を活発化させていることなどを原因とする「たった今の必要性」とは異なる次元で、この問題は議論されなければならないのである。