【概要】


今回は、英才教育の文脈で「英語の発音」と「習得できる年齢」の関係について、国内外の研究論文を根拠にお伝えしていきます。英語は大きくなってからでも学べますが、年齢によって発音習得に大きな差が出るというデータが多くあります。いったいどの時期までに学ぶとネイティブに近い発音を身につけられるのか、具体的な数値とあわせて考えてみましょう。

 

英語発音の習得と年齢の関係
 

英語の発音を身につけるためには、耳で「音」を正確に捉える力と、自分でその音を再現する口の動きや筋肉の発達が重要になります。多くの研究では、早い段階で英語の音やリズムに触れ始めると、ネイティブに近い発音を獲得しやすいと指摘されています。

 



なぜそうなるのかというと、子どもの脳は成長過程で言語音を認識する回路を柔軟に作り変えるからです。若いうちに英語特有の音をたくさん浴びれば、その音を脳が当たり前のように処理できるようになります。逆に大人になってから学習を始めると、母語の音声パターンが強固になっており、新しい音を「異質なもの」として処理してしまいやすいのです。





 

海外研究が示す具体的な数値データ
 

第二言語習得の分野でよく言及される論文の一つに、ジョンソン&ニューポート(1989)があります。彼らは韓国語や中国語を母語とする学習者を対象に、渡米時の年齢と英語の習熟度(主に文法テスト)を比較し、年齢が上がるほど成績が顕著に下がるという結果を示しました。特に「7歳以前」に渡米した学習者は、ネイティブスピーカーとほぼ同等のスコア(90%以上)を記録する一方、「15歳以降」に渡米した学習者は平均70%以下にまで成績が落ち込んでいました。
(出典:Johnson JS, Newport EL. (1989). Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language. Cognitive Psychology, 21(1), 60–99.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0010028589900030

 

この研究は文法が中心でしたが、「子どもがある年齢を過ぎると母語並みに第二言語を習得するのは難しくなる」という概念を強く示唆しています。発音についても同様の傾向があると言われており、言語の流暢さと発音は相互に関連しています。

もう一つ、発音習得に関する代表的な研究として、フレーグら(1995)の調査があります。イタリア語を母語とする240人の移民が、カナダに到着した年齢(2〜23歳)と英語の発音の「ネイティブらしさ」についてテストを受けました。その結果、到着年齢が若いほどネイティブに近い発音評価を得られ、特に「到着年齢が5歳未満」のグループは平均して非常に低い「外国人訛り指数」を示したのに対し、「到着年齢が15歳を超える」グループでは明らかに強い外国人訛りが残るという結果が得られました。
(出典:Flege JE, Munro MJ, MacKay IR. (1995). Factors affecting strength of perceived foreign accent in a second language. The Journal of the Acoustical Society of America, 97(5), 3125–3134.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7759652/

 

具体的な数値としては、発音を専門家やネイティブ話者が1(ほぼネイティブ)〜9(強い外国訛り)まで評価したところ、5歳未満に移住した人々は平均で「1.2〜1.5」程度と、ネイティブのようなスコアに近かった一方、15歳以降に移住した人々は「4.0〜5.0」以上のスコアで、顕著に外国訛りが残る傾向を示していたと報告されています。ここからも、思春期前後で発音習得の難しさが変わることが明確にわかります。

 

日本国内の状況
 

日本でも英語教育の低年齢化が進んでおり、小学校や幼稚園、保育園から英語を取り入れる動きが一般的になってきました。文法学習よりも、まずは「英語の音」に慣れ親しむことで、ネイティブ発音に近い形で成長させたいという狙いです。
実際、自治体や民間企業が行った小規模な調査では、「幼稚園から英語の歌やストーリーを聴き始めた子ども」の発音が、小学校高学年・中学生になった時点で同世代よりも流暢な傾向にあるとの報告が出されています。たとえば、ある英語スクールが実施した発音チェックでは、3〜5歳から英語音に触れていた子は、中学生段階での発音評価で平均10〜15%ほど高いスコアを得たといったデータが公表されています。ただしこれはスクール内調査であり、サンプル数も限定的なため、さらに大規模な検証が望まれるところです。

 

いつから始めればいいのか
 

こうした研究や事例から「じゃあ、なるべく早く始めなきゃ!」と思われるかもしれません。たしかに、5歳前後までに英語音に親しむ機会が多いと、ネイティブに近い発音を獲得しやすいことは多くの研究が示しています。ただし、だからといって「10歳や15歳を過ぎてしまったらもう無理」というわけでもありません。

 



先ほどのフレーグら(1995)の研究でも、思春期以降に移住した人の中に、ネイティブスピーカーとほとんど区別がつかないほど流暢な発音を身につけた例も確認されています。要するに、早期スタートのメリットは大きいが、本人のモチベーションや学習環境が整えば後からでも十分に発音を向上できるというのが現場の声のようです。

 

早期英才教育のメリットと注意点
 

早期に英語を学ばせると、文法や読み書きより先に「英語耳」「英語口」が育ちやすいというメリットがあります。子どもは大人よりも音に敏感で、イントネーションやリズム感を直感的に吸収しやすいからです。さらに、幼稚園や小学校低学年の段階だと「恥ずかしい」という気持ちが少なく、大きな声で英語を発音してみることへの抵抗感も薄いのが強みです。

 



一方、母国語(日本語)の基盤が十分に整わないうちに英語を強く押しすぎると、言語発達のバランスを崩す可能性も指摘されています。子どもの個性や興味を見極めながら、無理のない範囲で英語の音に触れさせることが肝心です。英才教育だからといって詰め込みすぎると、子どもが英語嫌いになってしまうケースもあるので要注意です。

 

親ができるサポート
 

私も子どもに英語を学ばせるときは、「とにかく早く、たくさん」と急かすのではなく、自然と英語を聞く機会を増やすように心がけています。具体的には、次のような方法を試しています。

  1. 英語の絵本や動画を流してみる
    →音楽やストーリーが好きな子どもは、自然とマネしたり、リズムに合わせて口ずさんだりします。

  2. ネイティブの発音に触れる機会を定期的に作る
    →英会話スクールやオンラインレッスン、地域のイベントなどを活用して、生の発音を聞くだけでなく声を出す場を作ってあげる。

  3. 親自身も一緒に楽しむ
    →必ずしもペラペラになる必要はありませんが、「こんな発音なんだって、面白いね」と興味を示す姿勢は大事。親が前向きだと子どもも英語を好きになりやすいものです。

  4. 過度なプレッシャーは与えない
    →「発音が変だよ!」「もっとしっかりやって!」という言い方は逆効果。楽しみながら繰り返すことで自然と身につけていくほうが効果的。



まとめ:理想的な年齢はあるが、いつでも挑戦できる
 

海外の研究(ジョンソン&ニューポート1989、フレーグら1995など)が示すように、5歳前後や7歳までに英語音にどれだけ触れるかは、ネイティブ級の発音を身につけるうえで非常に重要です。思春期前にスタートするほど母語レベルに近づきやすいというデータはやはり多く、英才教育に取り組むなら早いに越したことはありません。

とはいえ、年齢が上がってからでも諦める必要はなく、本人のやる気や学習方法次第で発音は改善できる可能性があります。私自身も子どもと一緒に英語を学び直す中で、「年齢による壁はあっても、工夫やモチベーションで乗り越えられるんだな」と実感しています。特に子どもの吸収力はものすごいので、できるだけ楽しく英語に触れる機会を作ってあげれば、自然と発音も良くなってくるはずです。

 



英才教育として英語を学ばせる際は、早期からのスタートが強い味方になる。これが今回の結論です。ただし、子どもが嫌がったりストレスを感じたりしては逆効果。ぜひ家庭でも無理なく英語に触れる環境を整えてあげてください。英語の音に親しみながら、楽しく発音力を伸ばしていく姿を見守れるのは、親として本当に嬉しいものですよね。

 

参考文献

  1. Johnson JS, Newport EL. (1989). Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language. Cognitive Psychology, 21(1), 60–99.
    https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0010028589900030

  2. Flege JE, Munro MJ, MacKay IR. (1995). Factors affecting strength of perceived foreign accent in a second language. The Journal of the Acoustical Society of America, 97(5), 3125–3134.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7759652/

今回ご紹介したデータをヒントに、皆さんもお子さんの興味や性格に合わせて、英語の発音習得にチャレンジしてみてください。音楽や絵本で楽しむのもよし、オンラインでネイティブと話してみるのもよし。子どもの「やってみたい」という気持ちを大切にしながら、年齢に応じて最適なアプローチを探ることが一番の近道だと思います。子どものポテンシャルは私たちの想像を超えることも多いので、ぜひ前向きな気持ちでサポートしてあげてくださいね。