鎮守の森の老木に呼ばれ
まつり
いせひでこの絵本、「木」シリーズ3部作の第三作である。
この絵本は、『大きな木のような人』の続編。
扉のページめくると、最初の見開きページの左側上に、
3月──
とあって、以下に
親愛なる さえらへ
きみとパリの植物園で出会ってから、まもなく1年がたちます。
という、「大きな木」の先生からの手紙ではじまる。だから、事前に、『大きな…』を読んでおくことを、おすすめする。
いせひでこ自身も、本書の宣伝コピーに、次のように書いている。
人と木は、ずっといっしょに生きてきた。
まつり――。わたしたちが知と技で伝えてきた、「日本のこころ」の結晶。
パリの植物園を舞台にした『大きな木のような人』のあと、身体が「描きたい」と要求するものをなかなか見つけることができないでいた。そんなとき、私は何かに呼ばれるようにして秋祭りに出かけた。私を呼んだのは、鎮守の森の1本の老ケヤキだった。お囃子にさそわれてか、子どもたちが湧くように現れては、大樹の根やこぶこぶに抱きついたりのぼったりしはじめた――。その中にさえらがいた。私は一気に「まつり」にのみこまれていった。(いせひでこ)
この「まつり」、どうやら栃木県鹿沼市にある、今宮神社の秋祭りを取材しての作品らしい。
さえらの祖父が、木の先生を案内する、見事な杉並木の場面は、日光街道なのであろう。芭蕉が歩いた道だと紹介されている。
「あらたうと青葉若葉の日の光 芭蕉」の句が入る箇所は、様式化された切り口でレイアウトされ、ちょっと小粋である。
前二作に比べると、ちょっと物足りない。しかし、絵本に描かれた、この秋祭りを一度は見てみたくなった(コロナ禍で今秋は中止)。