自著絵本の道しるべ
 

見えない蝶をさがして

いせひでこ著、平凡社 刊、定価:本体1600円+税
 

 本書は、月刊俳句誌『岳』の表紙絵として、年2回(半年ごとに)描かれた作品を収録し、ほかにも数点の絵を加えた詩文集である。

 絵も詩文もいい。しかし、わたしが最も嬉しかった文は、あとがきの「見えるまで」だった。

 著者は書く。

旅する絵描きの、記憶の確かさと不確かさを/絵と文でつないだ本ができる。/ささえてくれたのは、俳句誌『岳』の表紙絵だった。

 著者は、私には俳句を詠む素養はないが、スケッチ帖をたずさえてさまよい、「写生」という吟行を何十年もやってきた。だから、十年間も表紙絵をまかしてくれた、句誌主宰者の支援は、おおいに励まされたと感謝し、つぎのように続ける。

ひとつの旅の終わりは、一冊の絵本か一枚のタブローになる。/やがてまたスケッチ帖の「白」が、かならず次の旅に駆り立てる。/絵本『絵描き』には、そのエンドレスの旅が描かれている。

旅も絵本もモチーフでつながっていく。/『チェロの木』の男の子は、『あの路』の少年と同じ服を着ている。/『ルリユールおじさん』の女の子は、『大きな木のような人』で/植物学者になってそっと現れる。…(後略)…


 上掲ふたつのパラグラフ中にある、『〇〇…』は、すべて著者の絵本の書名である。…(後略)…として割愛した部分にも、『最初の質問』や『幼い子は微笑む』などの書名が並ぶ。

 

 


 

 こういう「自著紹介文」を読まされると、愛読者は、次々と目を通したくなろう。もちろん、自著宣伝のために書いた文ではない。しかし、並べられた書名を見れば、当ブログで、『ルリユールおじさん』などの名作を採り上げていないのは、われながら不自然、かつ片手落ちのような気がしてしまうから不思議(いずれ帳尻は合わせます)。

 いせひでこは、今や日本を代表する絵本作家となった。古くは、武井武雄、初山滋から、いわさきちひろ、瀬川康男、安野光雅…等と、比肩していいと思う(私好みの選別)。とにかく、子どもの動き、表情を描くのが達者で、樹木の存在感を際立て愛おしくさせる色彩センス。色使いが図抜けて好ましい。

 著者は小学生のころから漫画が得意で、手塚治虫や石ノ森章太郎、ちばてつや等、何人もの漫画家のタッチを真似て上手に描きわけ、友達の注文に応えて山ほど「作品」を配布していたそうである。幼くして、注文が舞い込む売れっ子絵描きだったのだ。このエピソードは、『風のことば空のことば』の挿画(カット)を見れば、「さもあらん」と納得できる。

 

 

 表題の「見えない蝶」は、台湾の「渡る」蝶、マダラチョウの話。蝶好きなら、だれもが一度はたずねたくなる著名な谷への、思いのたけが募った詩文であり、絵である。