変節した先輩への祝歌

写真は山田案山子さん提供。キャプションに「『新田の大イトザクラ』、

花の下には黙々と絵を描く画伯が2 組、春である(山梨県北杜市)。」とある。


 旧年11月、年賀欠礼の挨拶状を出した。それに対する返信には、心あたたまるものが多かった。

 そんな中で、印象に残った一つが、長く独身で居つづけた先輩(老友)の「一人暮らしもいいもんですよ」の一言。

 じっさい、一人暮らしになってみると、わがままし放題。あれこれ指図や意見をはさむものがいないから、家の中では何をしようが好き勝手。朝目覚めて、「幸せだな」と呟いてしまう日もあるくらいである。



写真は山田案山子さん提供。キャプションには「桜の下でしばしの酒盛り、

村の婦人会の面々らしい。桜の季節が終われば、間もなく農繁期に入る。

ここでは昔ながらの花見の習慣が生きているのだろう(長野県飯綱町萬霊寺)。」とある。

 

 この春、わけあって、その一人暮らし男にメールを打った。そうしたら返事が来て、「じつは、この3月に結婚したんだ」という。

 後期高齢者になろうかという男の結婚である。驚いた。そして、裏切られた感じも一瞬したが、めでたいことではある。

 すぐに、お祝いの一句を贈った。

 妻得しの朗報賀すや櫻南風(さくらまじ)  (ひとみ)

 妻女となられる方は、以前作句をなさっていたそうで、「櫻南風」という季語にいたく感激されたという。たった一人だけであっても、感激してくださる方がおられるのは、実作者冥利に尽きるというものである。

 このメールのやりとりをした直後、地元の素人句会があった(コロナ禍で、じっさいには句会は開けず、投句を文書で集め、師匠が講評した)。

 この句会、五月の兼題は「新茶」である。

 そこで、若干の創作シーンを加え、この老先輩をネタに一句ひねることにした。

 わたしの腹には、「老先輩は、やはり裏切者、変節漢というべきではないか」と揶揄し冗談を言いたくなるような陽気さが溜まっている。それが、句になった。

 娶りぬとはにかむ老爺新茶淹れ   (ひとみ)

 この句に付された師匠の講評は、以下。

「老爺とは、おいくつくらいでしょうか? 爺で十分歳をめしている人だと想定できますが……。本人が照れている様子、読み手の羨ましさも感じられます。」




写真は山田案山子さん提供。キャプションに「桜は人生のさまざまな場面で、

日本人に決断の場所を提供してきた(栃木県日光市)。」とある。
 

 老先輩とのやりとりは、山間では桜が咲いていた時期である。そこで、季節外れではあるが、桜の写真を掲載した。元写真は解像度が高い。山田案山子さんのHPはこちらをクリック。案山子さんに大いなるサンクス。