山口百恵を絶讃した著名人は数多くいる。:其の中の一人に野坂昭如がいる。
野坂昭如と云えば、幅広い活動をしている。“阿木由紀夫”の筆名で放送作家をやったり、“クロード野坂”の名でシャンソン歌手をやったり、作詞家として『おもちゃのチャチャチャ』の作詞、ハウス・バーモントカレーやハトヤのCMソングの作詞を手がけたりもしている。
他にも、タレントとしてテレビに出たり、CMに出演したり、キレてとんねるずの石橋を叩いたり、大島渚の顔面をグーで殴ったり、本当に幅広い活動をしている。
『火垂るの墓』の作者が野坂昭如だと知った時は驚いたが、山口百恵の熱烈なファンであると知った時も一寸驚いた。
1978年4月4日にNHKで放送された 『ビックショー』で二人が共演している。
当時、山口百恵19歳。野坂昭如47歳だった。
- 野坂は終始、山口百恵に対して敬語で接していた。
ゲストとして紹介された野坂の第一声は、「僕は今日、歯を磨いて来ました」だった。
野坂は「戦後ずっと歯を磨いた事が無い」 「山口百恵の傍に身を置くとなったら、其の点も考えなくては」と歯を磨いて来たと話す。更に、抜ける恐怖感もあって一切櫛を入れる事の無い髪に敢えて櫛を入れ、髭も剃って来たと話した。
そして、山口百恵に会えた事を「光栄の至りだ」「漸く想いが適った」と想いを熱く語った。
野坂の山口百恵に対する賞賛は猶も続いた。
山口百恵が歌うと作詞作曲家の才能を乗り越え、何を歌っても山口百恵のものとなる。
精神的に骨太の印象があり、見た目寂し気な感じがありながら、華やかさを持っている。
山口百恵がステージに立つと他のスターが霞んでしまう。 と山口百恵本人を前にして大絶賛の言葉を贈った。
そして、「おんじょろ節」と「オー・シャンゼリゼ」の2曲をデュエット。
「おんじょろ節」は野坂の持ち歌である。
山口百恵はこの曲に興味を持ったと話す。
「おんじょろ」の「おん」は「御」、「じょろ」は「上臈(じょうろう)」を意味する。
「上臈」は身分や地位の高い女性、貴婦人を表す言葉。
「あでやかで、品があって、つややか、あなた(山口百恵)にぴったり」だと野坂が話した。
「おんじょろ節」が収録されている
残念ながら、山口百恵とのデュエットではなく、野坂のソロである。
野坂昭如が当時19歳の山口百恵に向かい、「山口百恵は戦後、初めてのスター。華やかさを持った15代羽左衛門以来だ」と賞讃している。一寸解り難い譬えだが…。
山口百恵はカリスマ性を持ったスターだった事に間違いないだろう。
現在、日本にスターがいるだろうか?と考えると、出てこない…。今や、スターと云ったら、錦野 旦(にしきの あきら)の渾名でしかない。
安室奈美恵が出て来た時も、宇多田ヒカルが出て来た時も、山口百恵を超えるスターになるかと期待したが、及ばなかった。10代で若くしてデビュー、ヒット曲を連発し、人気絶頂で結婚と、共通点がある。
明暗は矢張り、結婚、引退にあると感じる。
若しも、安室や宇多田が結婚して引退していたら、山口百恵のように伝説になっただろう。
安室も宇多田も離婚し、今も歌手として活躍を続けている。しかし、スターと呼ぶに相応しくない。
今後、スターと言える人物が現れる日が来るだろうか?或いはスターのような幻想めいた存在を聴衆は必要としていないのかも知れない。
最近、山口百恵の曲を改めて聴き直したり、映画を観たりしたが、矢張り、山口百恵は凄い才能の持ち主だったと改めて思った。