これは凄い!!
やっぱり「本屋大賞」ノミネート作品は違いますね。
帯にもあるとおり、『四頭のイヌから始まる、「戦争の世紀」。』
人間に翻弄される犬の姿を全世界的、はたまた宇宙的な視点でリアルに描いた大作です。
「ストーリー性」と、(もちろん)「装丁」は満点です。
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- 古川 日出男
- ベルカ、吠えないのか?
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出版元
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文藝春秋
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初版刊行年月
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2005/04
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著者/編者
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古川日出男
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総評
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23点/30点満点中
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採点の詳細
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ストーリ性:5点
読了感:3点
ぐいぐい:3点
キャラ立ち:4点
意外性:3点
装丁:5点
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あらすじ
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一九四三年、北洋・アリューシャン列島。アッツ島の玉砕をうけた日本軍はキスカ島からの全面撤退を敢行、無人の島には四頭の軍用犬「北」「正勇」「勝」「エクスプロージョン」が残された。自分たちは捨てられたーその事実を理解するイヌたち。その後島には米軍が上陸、自爆した「勝」以外の三頭は保護される。やがて三頭が島を離れる日がきてーそれは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!<<本帯より抜粋>>
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本書の章構造は、「大主教」と呼ばれる老人からはじまる、現代のマフィア抗争の話と、1940年台の大きな戦争から始まるイヌの系譜の話の2つの物語が交互に差し込まれる形になっています。
前者の物語は、いわゆる謎多き「大主教」が、これまた謎の行動をとり続け、その行動は過去の「とある」出来事から起因していることは容易に理解できます。
それでもってイヌの系譜の物語は、その老人の「とある」出来事を解き明かすがために存在しているのだろうと想像し、読み続けます。
でも、違うんです。
「イヌよ、お前たちはどこにいる?」で始まる後者の物語は、イヌの系譜をリアルに追い続け、圧倒的にダイナミックに展開するのです。
現代の「大主教」の物語に収束するどころか、それが結論の何万分の一でしかないほどに、広がっていってしまうのです。
ここで初めてこの物語の凄さを知ります。
そう、この物語は、あくまでも人間の戦争というシチュエーションにあてはまってしまったイヌ達の不運のクロニクルを表現しつつ、それら出来事は、イヌの世界から見れば「ただの一つの結論」でしかないという逆転の構造をもっているのです。
冷たい文体で登場するイヌに語りかけるような系譜の物語は、”イヌ好きな神(第3者的)”の視点で語られ、淡々と物語を紡いでいきます。
ただそこにはイヌの名前が明示され、そのイヌの生きること・死ぬことを、目前にした圧倒的な文体があります。
一方、「大主教」の物語は、”ただの神(第3者的)”の視点で語られ、同じく淡々と物語は進行しますが、登場人物のすべてが代名詞で、出来事をなぞるように語られます。
この差別化。
”名称と記号”の違いが、著者の狙い通りの効果を得られているようにも思いました。
とにかく読んで損はないです。
愚かな人間の業をイヌが嘲笑しているような感じを受け、ある意味で反省だってできちゃう作品でした。
深い。深すぎます。
ちなみにお気に入りのイヌは「犬神(アヌビス)」ですね。