[8月XX日 土曜日 22:50 Side.A]
Prrrr...Prrrr...Prrrr...
液晶に浮き出る『貝好き❤』の文字を確認して、ザワつく胸を右手の拳でグッと押さえながら、左手の親指で通話ボタンを押し、そっと左の耳に携帯を添える。
「・・・はい・・・しょ・・・?」
「もしもしっ?雅紀っ?ハァッ、ハァッ、お前、家っ?」
「うっ、うん・・・そうだけど・・・どうしたの・・・?」
受話器の向こうの翔ちゃんがハァハァ言ってる。
マツジュンが任せとけって言ってたけど・・・もう、話してくれたのかな?
なんか・・・めっちゃ走ってるの、聞こえる・・・
朝のテンションとはだいぶ違う翔ちゃんの様子に戸惑っていると、
「これからっ、そっち行くからっ!ッハァッ、待ってろっ!」
・・・そう言って、電話が切れた。
翔ちゃん、・・・怒ってないみたい・・・ 来てくれるんだ。
「ふふ・・・嬉し・・・。」
朝からずっとモヤモヤとした不安を抱えていた胸がじわぁっと熱くなって、顔は笑ってるのに涙がこぼれた。
翔ちゃんは下のパスキーを知ってるから、いつも直接部屋のある階まで上ってくる。
普段からそんなに散らかしてるわけじゃないけど、翔ちゃんが来るとなったらちょっと気になるよね。
キモチが落ち着かないのもあって、スタンドタイプの小回りの利くクリーナーをかける。
玄関からリビング、洗面所、それから・・・寝室も。
一応、一応ね!!
つい、あっちも、こっちも、と目につくところを片付けているうち・・・
ピンポーン!
来た!
「はいはーい!今開けますっ!ってか、しょぉちゃん、鍵持ってんだから入ってきていいのに・・・」
そう言いながらスリッパを脱いで、玄関のサンダルを右足だけ履いてフラミンゴみたいな恰好で鍵を開く。
ガチャリ、という鍵の音と共に、翔ちゃんがドアを一気に引いた。
「ぅわっ!」
上半身の体重が靴箱に添えられた左手だけに頼りなく任せられ、バランスを取ろうと右手が空を切る。
その瞬間、不安定だった上半身が翔ちゃんの厚い胸板に抱きとめられた。
カチャ・・・リ・・・
自身の重みで閉まったドアの音を、翔ちゃんの腕の中で聞く。
「しょ・・・ごめん・・・ね・・・」
「ゴメン、雅紀。」
ほぼ同時に二人の声が重なる。
「ごめんね・・・、ナイショになんてしてて・・・」
「ゴメン、俺、勝手に思い込んで勝手に疑って嫉妬して・・・みっともねぇ」
「ううん・・・しょぉちゃん・・・おれも・・・おれも、もしかしたらしょぉちゃんがおれのこと、抱ければいいって思ってるかもって・・・ちょこっとだけど・・・思っちゃったし・・・」
「・・・バカじゃねェの・・・ンなことあっかよ・・・」
そう言いながら、
おれの肩に乗せていたあごが離れ、
翔ちゃんの唇が、
ゆっくりおれの唇に近付いてくる・・・
時間をかけて、まるで生卵の黄身を潰さないようにするように、そっと唇が重ねられる。
触れては離れ、離れるたびにテノールの声で囁かれる言葉。
「好きだよ・・・」
「好きだよ、雅紀・・・」
「好きだ・・・」
「おれ・・・も・・・好きだよ、しょぉちゃん・・・」
それからまた抱き締められて、歪む景色に一生懸命上を見るんだけど・・・
溢れるキモチと比例して、生温かい水分が頬を流れて翔ちゃんの肩を濡らしてしまったんだ。
... to be continued
→LurkedGloom15