移動のタクシーの中で、


素晴らしく美しいワルツの声楽曲がかかっていた。


多分、レイナルド・アーンの曲だ。


とても気分が良く、


運転手さんに、


ボリュームもっと、もっと大きくして下さいと頼んだ。


運転手さんは私に「音楽お好きなんですね!私は大好きです。音楽は何でも聞きます。」


そう言った直後に、


ボソッと「軍歌以外は…」と、独り言みたいに呟いたが、私は聞き逃さなかった。


幼い頃、菅平の祖父は私に、何の音楽でも聞かせた。


其れこそ、古賀メロディから演歌から浪曲、クラシックからジャズから、めちゃくちゃランダムに。


その中には、たまに軍歌のカセットがあって、それを聴いては涙ぐんでいた祖父だったので、

子供心に、ものすごく切なくなったのを覚えているし、


そのタクシーの中で、

私は大好きだった、じーちゃんの事を思い出していた。


美しいワルツの中で。


その途端だった。


タクシーの中の大ボリュームのワルツが、容赦なくブツリと切れて、


速報ニュースに変わった。


とんでもない、残酷なニュース。


心の中が怒りでいっぱいになった。


奈落の底に落とされた気持ちになった。


なんなんだ!それは!


半ば、ブチ切れそうになった。


放心状態みたいにタクシー降りたら、


ジャック・ブレルの「涙」というシャンソンを歌っていた。


日頃歌っているレパートリーではないのに…。


誰かが泣いている  野原の草木も
香り高い花も 踏みしだかれて…


歌が何の用が出来るのだろうか。


そんな場所に、歌はあるのだろうか…


遠い国に歌が翼になって、届いてくれたらら、

どんなに良いのだろう。


毎日、毎日、精一杯歌うことが、

今の私に、

そしてこれからの私に、


ゆういつ出来る、ただ一つの事。