6月10日、明蓬館高校博多SNECで開催されたこちらの学習会に参加しました。

「支援と伴走のためのシリーズ講座第10歩目〜これからの学校教育はどうなるの?〜」
講師は、福岡大学人文学部教育・臨床心理学科の入江誠剛教授。学校現場でも積極的な取り組みが要請されている「探究学習」についてお話しくださいました。




ご自身が38年という長きにわたり小学校勤務され、その間、1999年からは「総合学習」と称された初期探究学習の実践をなさったご経験からお話しくださる「なぜ今探究学習なのか」には説得力がありました。

入江教授はまず、日本の18歳の自己意識についてのアンケート結果をご紹介くださいました。いくつかのアンケートから明らかになったのは、

・自己肯定感が低く、不安や憂鬱を感じやすい、将来に悲観的な18歳

という日本の若者像でした。これだけでも胸が痛いのに、さらに辛かったのは、自分がこんなにきつい状況でも「何か役に立つことがしたい」という社会貢献意識はとても高かったという事実。こんなに真面目で優しい日本の若者の幸福度は極めて低いという現実に、親として大人としてうちのめされました。

入江教授はこの結果について、学生さんたちに考えていただいたそうです。「なぜ他国と比べて、日本の18歳はこんなに自己肯定感が低くて幸せを感じることが少ないのだろう?」

返ってきた答えは、国民性、伝統文化の影響、規則にがんじがらめな社会…などなどだったそうで、でもそれならば教育で何かが変わるのではないか、こういう意識を肯定的に引き上げ、自身を育てる可能性が教育にはあるのではないか。しかも自分が長く関わってきた「総合学習」「探究学習」にその端緒があるのではないか、そういう思いを強くされたそうです。

ここで私たち参加者もちょっとした「探究学習」のグループワーク。二つの演習を体験しました。「フードロス」と「ゴミ問題」に関係するチラシと画像を見て、何を考えたかを自由に出し合うブレインストーミング。自分にはなかった視座から見えてくる新しい世界はとても興味深く、言語化されることで問題点が明確になり、現状を変えるために必要な次に考えるべき問題が見えてくるという面白い体験ができました。

それは、まさに

・問い→課題→情報収集→整理分析→新たな問い…

という学びのスパイラルの構築をリアルタイムで経験したということ。こんなに身近に「探究学習」のタネはあるのだと実感しました。入江教授は、学習指導要領に記されている「総合学習」の意義や目的は確かに目指すべきところではあるけれど、教育現場においては完璧を目指しすぎないことが大事とおっしゃっていました。実生活や実社会につながること、できることから始めてみること、最初うまくできなかったとしても継続的にすればいいことで二回目以降で充実を図ることも十分可能であること…などをお聞きして深く首肯いたしました。






そしてさらにグループワークをもう一つ。ある校区の地図とその地区にある特徴的な施設・環境を書き出したマップを見ながら、その地域環境を生かした学習活動を提案するというもの。プロジェクターに映し出されたその校区は歴史的背景や文化的資源も豊富で、そこここに学びのタネが眠っているような地域でした。自分がここで「探究学習」を経験するなら…、参加者一同その思いでワクワクしながらフィールドワーク計画を練りました。

しかし、現実を鑑みた場合、全ての校区が探究学習のための資源に恵まれているわけではなく、そういう時はどうすればいいのかという問いに対する答えとして、入江教授はかつてご自身が赴任されたある校区の例をご紹介くださいました。その校区は福岡市の外縁部で、経済的にも文化・歴史的にも取り立てて特徴のないところでした。けれど地域の方々を巻き込んでマッピングしてみると、そこはノーマライゼーションの進んだ先進的設備が充実した地域であることが判明。それを元に、小学生たちとともにその地域のフィールドワークを進め、その結果を発表したところ2年連続で市長表彰を受けるという栄誉に浴したのだそうです。

小学生の「探究学習」が地域の人々の意識を変え、地域の活性化が大きく進んだ好例です。子どもたちの学びは、子どもたち自身の自己有用感を引き上げ、自己肯定感を有することに繋がったばかりか、子どもたちを取り巻く周囲の人々をも幸せにしました。その地域に暮らす誇りと幸せを「探究学習」が与えてくれたわけです。

ここで冒頭の「自己肯定感が低く、不安や憂鬱を感じやすい、将来に悲観的な18歳」という日本の若者像について再考してみましょう。なぜこういう若者像が出来上がってしまったのか。それはこの探究学習の結果を鑑みれば明らかです。学びは一方的に与えられるものではなく、自ら働きかけて得るものなのです。探究学習の実践によって「問い→課題→情報収集→整理分析→新たな問い…」という一連の行為を経て自身の内に取り込んだ「知」は高い強度を保ち、一生褪せることのない記憶として子どもたちの胸に残り続けることでしょう。

学んだことが血肉になる。

それが「探究学習」。こんな学びがスタンダードになれば日本の未来は明るいと信じられた2時間でした。

入江教授、ありがとうございました。





*入江教授が今回この講座の講師を務められたのは、明蓬館高校博多SNEC独自の学習プログラム「マイプロ」(マイプロダクト・自己成果物)に感心されたからだそうです。「マイプロ」は探究学習。しかも生徒一人に数人の教師がサポートにつき、レポートが仕上がるまで伴走します。その手厚さ、それに支えられた生徒自身の頑張りで仕上がった成果物の完成度の高さにはいつも驚かされます。教育の潮目は明らかに変わりつつある。そんなことを実感しています。

*入江教授はフリースクールも開校されています。詳細はこちら↓。
一度お邪魔してみたいです。