玲王(れお)が拓真から聞いた話では、拓真は中学三年の時に伯父伯母と養子縁組をしたが、なかなか「おとうさん」「おかあさん」とは呼べなかった。
照れもあったし、今更という感じもあった。
祥乃(さちの)夫婦も無理強いはせず、結局、伯父伯母のままで、東京の大学に進学する事になった。
四年の春に東京に就職を決めた時も、祥乃夫婦は反対しなかった。
ところが、秋頃から伯父が体調を崩し入院した。
当初祥乃の話では、たいした事は無いような口ぶりだった。
ところが年が明けて卒業を控えたある日、伯父が危篤という知らせが届いた。
「どういう事なの?!」
拓真が東京から駆けつけると、すでに伯父は昏睡状態だった。
「ごめんね。ごめんね。」
祥乃は何度も謝った。
「本当は肝臓癌で、見つかった時は手遅れだったの。
でも、この人、拓真には絶対知らせるなって。
卒業を控えた大事な時だからって。」
拓真は、もう祥乃を責める気力も無かった。
我が子同然に育ててくれた伯父の、意識の無いやせ衰えた手を握った。
すると、一瞬指がピクリと動いた。
祥乃が叫んだ。叫んだ、と言った方良いだろう。大声で叫んだ。
「拓真、お願い!
おとうさんて、呼んであげて!
最後に一度でいいから、おとうさんて呼んであげて!」
拓真の胸に祥乃の言葉が重くズシリと響いた。
ためらいは無かった。
「お義父さん!お義父さん!」
伯父の指がもう一度動き、伯父がうっすらと目を開けた。
そして拓真を見つめると、ゆっくりととぎれとぎれに、何か口を動かした。
「お義父さん、何が言いたいの?お義父さん!」
拓真はそっと、伯父・・・いや義父の口に耳を近づけた。
義父は消え入りそうな声で、はっきりと拓真に言った。
「俺の・・・息子だ。拓真・・・。」
そのまま再び意識を失い昏睡状態になり、その直後、拓真を本当に愛し育ててくれた二人目の父が逝った。
瞬く間に一週間が過ぎて、告別式・初七日・四十九日・百か日を含む法要も一時に済ませると、拓真が東京に帰る日が明日と迫った。
「義母さん、俺、こっちに就職しようか?」
「あら、いつの間に、義母さんて呼んでくれてたの?」
拓真も気づかなかった。
告別式等の中ですでに義母と呼んでいたような気もするが、祥乃も気づいていなかった。
「おかしいわね。
呼んでもらいたいって、思ってたのに、最初に呼ばれた時がいつか判らないなんて。
感動しそこねたわ。」
「いや・・まあ、それはそれとして、就職・・・。」
「いいのよ。今のままで。」
祥乃は声を強めた。
「だって、義母さん、ひとりになって・・。」
「拓真、よく聞いて。
あなたに、面倒見てもらいたくて、養子にしたわけじゃないのよ。
拓真の人生は拓真のものなの。」
祥乃は言葉を切り、仏壇の義父の写真を見つめた。
愛の糸 #40 へ続く
愛の糸 #38こちらから
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愛の糸 最初からは、こちら
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そして、またどこかの時代で
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