第15話 私は何も無駄にしない 
『冗談はやめて!』
『お父さんや部長検事が ファンさんに敏感に反応しているのも
彼があなたの実父だからよ』
もう聞いてられないと声を荒げるドヨン
でもヘソンは 話すと決めた以上 中途半端には出来なかった
自分の父はソ・テソクだけだと言い放つドヨンに それは違うと叫ぶ!
『ソ代表は あなたの実父を冤罪にした人なの!』
これまでの口論とはわけが違う 経験したことのない修羅場だった…!
帰宅したヘソンは 思い出すのもおぞましいと身震いする
スハは 黙って聞き役に徹した
ドヨンにひっぱたかれて腫れた頬に 氷嚢をあててやる
『やり返さなかったの?』
『それじゃ 彼女と同類になるわ!
暴行罪で訴えようと思ったけど 彼女の気持ちを察して耐えたの』
これからは そんな場所には自分もついて行くというスハ
それが何だか 母親のようだと笑うヘソン
そういえば…と ヘソンは スハの母親について切り出す
スハは 一度も母親の思い出を口にしたことがなかった
『聞いちゃダメ?』
『ああ ダメだ』
『そう? ならいいわ』
そんな2人が暮らすスハのマンション前には 刑事の車が張り込んでいる
ミン・ジュングクが捕まる前に 疲労で刑事たちが倒れてしまいそうだった
グァヌを襲って以来 ミンはどこにも姿を現さない
ドヨンは ヘソンに言われたことを まったく無視しているわけではない
思い当たることは 数え切れないほどあったのだ
自分が原因だった花火の件も 体面のためヘソンに罪を着せたが
父親の冷たい視線を感じていた
ミンの証言者にならなかった時も ドヨンを無視し 父は冷たく立ち去った
検事として 初めてヘソンと対決した時も…
「10年ぶりに再会した 元家政婦の娘との初公判で惨めな姿を晒したのか」
自分を 罪人の子と思っているなら その冷たい態度の説明がつく
ドヨンは 父親にヘソンの話をする あり得ないことだと呆れたフリをして
『ファンさんと娘のDNA検査を 私に受けろと言うの』
『な…何だと?!』
『私が彼の娘だというのよ』
『それで… 何と答えたんだ! 検査に応じたのか?』
『パパ…』
『早く答えろ!』
この話を切り出せば きっと父は呆れてヘソンを責め立てる
そうしてくれると信じたのに あり得ない話を否定もせず
父親が気にするのは 自分が検査に応じたかどうかなのだ…!
ドヨンを 娘として大切に育てたことは紛れもない
しかし今回のことは 自分の権威に傷がつきかねない
例え罰せられなくても 事実が公になれば名誉に傷がつくのだ
ヨーグルトパックをしましょうと 楽しそうに娘を誘う母親
この母親は 夫が罪人の子を連れてきたとも知らず 愛してくれた
そう思うと ドヨンはたまらなくなって 母親にしがみついて泣くのだった
ヘソンは もう一度ドヨンに会って 検査を頼むつもりだった
DNA検査の結果がなければ 再審請求が出来ないのだ
ポストの郵便物を確認しながら スハも 一緒に行くという
『再審って?』
『すぐに正すべき誤判を明らかにするの
彼女が協力してくれたら 再審が可能になるわ』
自分宛てに届いた封筒を開けるスハ
何かの記事のコピーが入っている
“心臓移植手術 100%成功率の神話 パク・ジュヒョク記者”
誰から送られたのかは分からないが スハは激しく動揺する
どうしたの?と聞かれ 何でもないと答えることさえ苦痛だった
同じ封筒が 事務所のヘソン宛てにも送られていた
なぜ10年も前の記事が?と ヘソンは気にもとめない
“パク・ジュヒョク”の名前が スハと結びつくことはなかった
隣で見ていたグァヌの方が動揺し こっそり封筒を抜き取った…!
それを刑事に渡し 消印から差出人の場所を割り出してくれと頼む
その日 今度はドヨンが ヘソンの事務所に現れる
何のための訪問か シン弁護士だけが知っている
ドヨンが同意しないことには 誰にでも話せることではなかった
ヘソンは 自分の父親は今も1人だけだし 父は何も悪くないという
当然 DNA検査にも応じる意思はなかった
『ファンさんは ソ判事の謝罪を求めてるの』
『誤判だとしても 判事ではなく 検事と弁護士に責任があるんだから!』
すでに興奮しているドヨンに対し 自分も乗ってはいけないと
ヘソンは大きく深呼吸し 穏やかに言い返す
『誤判だなんて言ってないわ
私が問いたいのは 裁判後のソ判事の行動よ』
これを話すことは ドヨンをさらにつらくさせるが
前回 ひっぱたかれて中途半端に終わっている説明をしなければならない
『26年前の裁判の後 被害者がソ判事を訪ねたの』
『何ですって?』
死んだはずの被害者が現れたという話を ヘソンは順を追って話す
被害者として法的に死んだ妻と ソ・テソクとの間に取引があった
娘を預かることで名誉を守り 被害者をそのまま逃がしたのだ
夫が刑務所にいれば みんなが幸せになるという言葉に同意して…!
『ソ判事が なぜ養子縁組に同意したと? それも被告人の子よ!
まさか善意だと?!』
『やめて!!!』
『ソ判事は権威主義の人よ 誤りを認めたくなかったの
左手殺人事件は注目されてたし 昇進直後の事件だった』
『いい加減にして!!!!!』
パシッ!と音がして スハが部屋に飛び込む!
ドヨンの訪問が心配で 予備校に行かずに待っていたのだ
またしてもヘソンの頬が腫れ上がっていた…!
スハは ドヨンの中の悲しみを読む
それはまるで 父親の罪を聞かされて動揺した自分のようだった
認められなくて 泣きながら土手を走ったのだ
ドヨンを追いかけようとするヘソンを スハが引き止めた
現実を受け止める時間が必要だと言うスハに ヘソンは激怒する
なぜスハが ドヨンの味方をするの…?!
今にも死ぬかもしれないファン・ダルジュンを救うには
時間がないのだというヘソンを スハは それでも引き止めた
『まずは… 人の気持ちを考えるべきだ』
ドヨンの怒りの矛先は ヘソンひとりに向かっていた
あり得ないことを事実みたいに…! と
そして 証人を依頼するために ダルジュンに会った時のことを思い出す
「25年前に収監されてから 娘さんが行方不明だとか
早く出て 捜したいのでは?」
「出られるんですか?」
娘を引合いにして 嘘の証言をしてくれるようにと持ちかけた
その娘が自分だなんて… どう受けとめていいのか分からない
帰宅してからも ヘソンは ドヨンに味方したスハが許せない
スハは ヘソンを理解しながらも ドヨンと自分が重なってしまう
『だって娘だぞ 父親を否定できるはずがないよ』
『だったら彼女も父親と同類になるわ!口をつぐんだら同罪よ』
愕然とするスハ
心を読まれたくなくて ドア越しに話していたヘソンは
スハが突然応答しなくなって ドアを開けた
『何よ 途中で消えるなんて…!』
その後も スハ宛てに封筒が送られてきた
記事のコピーはすべて 関連するものだった
“国内最高の心臓移植手術 パク・ジュヒョク記者”
スハにガードされながら ヘソンは真っ黒なサンバイザーで顔を隠す
もうスハに心を読まれたくなくて 見た目などどうでもよかった
出勤するヘソンを グァヌが待ち構えていた
でも グァヌが話したいのはスハの方だった
封筒の消印から場所が割り出され 防犯カメラを調べたら
投函するミン・ジュングクの画像が手に入ったという
ヘソン宛ての手紙は その後も続いているが グァヌが阻止している
スハは グァヌの気遣いに感謝するものの…
頭では理解しても どうしても感情でグァヌを認めたくない
これ見よがしに 自分にも優しくするグァヌが癪に障るのだ…!
そんなスハの言いがかりに グァヌが激怒する
『彼女は迷わずお前を選んだんだ
お前の何が彼女を動かしたか見せてくれ!
今のような行動じゃ 到底納得できないよ』
軟弱に ヘラヘラしているように見えて いつも要所ではビシッとしてる
そんなグァヌが嫌いだった 常に負けている自分が… 情けなかった
ヘソンは エレベーター前でドヨンに会い
思わず両手で頬をかばう…!
『DNA検査を… 受けるわ ただし条件があるの』
シン弁護士は 娘が見つかってDNA検査を承諾してくれたと
ファン・ダルジュンに面会して報告する
但し 娘に会うことはできないと…
実父なら 娘が見つかればすぐに会い 再会を喜び合えると思っていた
ダルジュンは 自分があまりにも自己中心的だったと反省する
良家に引き取られ育ったのであれば こんな自分に会いたいはずがない
検査を受けてくれただけでも 感謝すべきなのだと…
一方 グァヌは その後も続くミンからの手紙の記事を分析していた
なぜスハの父親の 心臓移植の記事に集中しているのか
同じように スハも調べ上げ あるいくつかのキーワードに辿り着く
“セギ大学病院”
“訃報 パク・ジュヒョク記者…”
“パク・ジュヒョク記者 夫人葬儀”
ヘソンは ふたたびソ・テソクに会う
相変わらずのテソクに怒りがこみ上げるが 今日はそれで来たのではない
『ドヨンが検査に応じた条件を あなたも知るべきだと思い来たんです』
ドヨンが検査に応じたのは ファン・ダルジュンのためではなかった
今回の裁判で 父親を糾弾しないこと それが条件だった
実父ではなく 養父をかばうために応じたのだ
『今回のことで 初めて彼女を哀れに思いました
私だったら あなたのような父親を恨んだはずです
彼女との約束ですから 証人には呼びません』
ソ・テソクは 無反応だった
夜になり 迎えに来たスハに ヘソンはまだ顔を隠している
どんなに心を読んでも 嫌いになったりしないと言いサンバイザーを取る!
≪どうしよう…! ドキドキする!≫
思いがけないヘソンの本心に スハは笑い出しそうになる
ビシッと意見されて ヘソンは ときめいていたのだ
大人の女の余裕を見せようとしたのに 自分の間違いを指摘されて
どうにも恰好がつかなかったし そんなスハに ときめいたのだ
スハは ヘソンの女心が嬉しくて ますます愛おしくなる
『覚えておいて 何があっても絶対に見損なわない
だからあんたも 俺がどんな人間だろうと受け止めてほしい』
チャ・グァヌは 記事を分析したうえで 病院を訪ねる
『ウ・ソンシク先生は…』
『何科ですか?』
『心臓血管センター長だった…』
しかし グァヌが会いたかった医師は11年前 交通事故で亡くなっていた
そこへスハも現れる
同じことを調べに来たようだ
そうならば… と 2人は情報を提供し合う
グァヌの前に現れた時
ミンは “誰も自分の話を聞いてくれなかった” と言っていたという
『警察にも相手にされず 誰も味方してくれなかったから事を起こしたと』
『ウ医師の死も 奴のせいでしょうか』
これまでの 攻撃的なライバル心が スハの態度から消えていた
すべては チャン弁護士を守りたいからだというスハ
グァヌは スハの成長を認めざるを得なかった
いよいよ裁判の日になった
予備校が終わったら駆けつけるというスハに ヘソンは来なくていいという
いつも頼っていたら ひとりで弁護が出来なくなってしまうと…
確かに スハが記憶と能力を失っている間 ヘソンはひとりだった
だから今度も…と言われ スハは 納得しながらも寂しい気分になる
(欲が増すにつれ あんたの酷い言葉より 今みたいな言葉に傷つく
俺がいない状況を なぜ想定するのだろうか)
いつものように エレベーターで鉢合わせする2人
検査には協力したが 自分にとってはただの殺人未遂犯だと
ドヨンは 血縁の理由だけで情に訴えても 無駄だと言い切った
その目は泣き腫らしているのに 決して認めようとはしない
一方 チュンギは ソンビンのネイルサロンに顔を出す
スハの記憶が戻って 結局ソンビンの思いはスハに届かないだろう
ソンビンが好きなチュンギは 放っておけないのだ
その時 店内のテレビが裁判の報道をする
☡以前 殺害した人を 再び狙った場合 殺人未遂でしょうか
幽霊殺人未遂事件の初公判が…☡
死者への殺人未遂は処罰できないと主張する弁護側
犯行が映像に残っていることから 検察側は有罪だと主張している
☡もし被害者が 26年前に死んだはずのチョンさんである場合
死者への殺人未遂となり その判決が注目されています☡
国民参与裁判であることも 十分に視聴者の注目を集めた
ドヨンは 被害者が元妻だと証明されない以上
ただ左手がないと言うだけで 被害者を元妻だと誤解し
被告人が 犯行に及んだのだという
これらの理由により 被告人を 殺人未遂罪で起訴するというのだ
『被告人 公訴事実を認めますか?』
『刺したことは認めます ですが 私は無実です』
続いて 弁護人の冒頭陳述が始まる
26年前の左手殺人事件においても 同じ被告人を弁護したと
シン弁護士は そう自己紹介してから本題に触れていく
妻を発見した瞬間 自分は殺していなかったと気づいた被告
26年もの長い時間を無駄にしたと知った時 どんなに悔しかったか…
『被告人は 犯してもいない罪について 26年も償いました
そして 当時の被害者をふたたび刺した容疑で 起訴されたのです』
シン弁護士は 検察側の主張も十分に理解できると言い
しかしそれは 被害者が元妻ではないということに基づくものだという
そして 当時の被害者と今件の被害者が同一人物だと証明できると…!
被害者が同一人物であれば 当然起訴は出来ない
すでに裁かれた件について 再び裁くことは出来ないのだ
ドヨンのパートナーである先輩検事は DNA検査も信じ難いという
娘をこの場に連れてこなければ 証拠として不十分だと…!
娘は検査に応じたが 身元を明かすことは望んでいないというヘソン
本人がそう望む以上は 連れてくることが出来ないと
代わりにヘソンは 検査結果を画像で示した
元妻とされる被害者と 被告人と どちらともDNAは一致したと
『つまりこれは 被告人と被害者が夫婦関係だったことを証明します』
陪審員の心情は 大きく弁護側に傾いた
これを受け 検察側は 2つの事件はまったく別の事件だと主張する
『一事不再理というのは 確定した判決に関し再び起訴できない原則です』
事件の現場も時間も 罪状も異なる事件を 同一とはいえず
また 犯行の手段や方法 その結果も全く違うと…!
あくまでも 人を刺したという事実は罪に値すると 検察は主張するのだ
26年もの服役が誤判でないなら 被害者は死者だというシン弁護士
幽霊への傷害に 殺人未遂は適用されないと…!
ファン・ダルジュンが実父と知ったドヨンは 被告人席を見ることが出来ない
それでも 自らの主張は曲げなかった
『無実は 再審で明らかにすべきではありません
本件は 被害者が同じでも別件であるため 免訴にはなりません』
※免訴:刑事訴訟において公訴権がなくなり 起訴を免れること
ヘソンは 再審を起こすには遅すぎたと切り出す
被告人は膠芽腫で余命が短いため 再審前に命が尽きるかもしれないと
動揺を隠せないドヨンが 気丈にも被告人尋問を始めようとする
そのタイミングで スハが傍聴席に現れた
するとファン・ダルジュンが 是非話したいことがあると申し出る
『私の話は 記録されますよね』
『ええもちろん 録音もされます』
ダルジュンは 今回DNA検査に応じてくれた娘にお礼を言いたいという
『どこに住んでいるのかも分かりませんが
これからも どうか幸せに生きてほしい そう伝えたいです 以上です』
会うことが叶わない娘に対し ダルジュンは気持ちを伝えたかった
記録に残る裁判で その思いを吐き出したのである
ドヨンは 何も言えなくなった
検察側として用意していた 被告人を追求する尋問を読むことが出来ない
必死に気持ちを立て直し 何とか尋問を始める
『当時 被害者は昏睡状態で 被害者が死亡すれば
殺人罪になるのはご存知ですね』
『被害者はまだ生きてます!!!』
ヘソンとシン弁護士が 声を揃えて反論した
起こっていない事実で質問しないようにと 裁判長から注意が入る
まだ始まったばかりの尋問は この1つだけで終わる
続いて弁護側の尋問が始まる
殺人事件を装った件で 元妻に何を言われたのか ダルジュンが答える
『私や借金にうんざりして 他の男の女として生きたかったそうです
また娘のことを… 苦しめたくなかったとも
だから自分の手を斬り落としてまで 私を陥れたかったとも』
大きくうなずく陪審員たち
非常識だとしても そうまでせざるを得なかった妻の苦悩が伝わった
『私にとっても 借金に追われるより刑務所暮らしがよかったと』
『そんな被害者の言葉に刺激され 偶発的にガラス片を手にしましたね?』
シン弁護士は 凶器に使用された花瓶のガラス片を提示した
もっと大きな破片もあったはずなのに 凶器の破片は極々小さかった
怒りに任せてつかんだ破片は 殺傷力のない小さな欠片だった
シン弁護士は これこそ偶発的な事故の証拠だと主張した
ここで裁判は休廷となった
朝から続く裁判で 陪審員たちは疲労困憊していたのだ
法廷から出るドヨンは 憔悴し切っている
スハは 素早くその心を読む
≪お父さん ごめんなさい 私を許して…!≫
ドヨンとすれ違いに 今度はヘソンが現れる
頼らないと言いながら スハが来たならその能力に頼りたいヘソン
そして 平気で実父を追求するドヨンは まるでロボットだと非難する
そんなことはないと 強く否定するスハ!
そればかりか ファン・ダルジュンも彼女が娘と知ってたと
「ソ・テソク判事の娘が 僕の担当検事だとはな
お宅との縁には うんざりするよ 腐れ縁だ!」
それは裁判前 ドヨンは ファン・ダルジュンに面会していたのだ
決して謝罪などしない父に代わり ドヨンが頭を下げた
父を許してほしいと 心から謝罪したのだ
ダルジュンは 直感的に ドヨンが娘ではないかと思った
『まさかお前が… ガヒョンなのか?』
『……いいえ ソ・ドヨンです』
ヘソンが化粧室に行くと ドヨンが号泣している
それは これまでに見たことのないドヨンの嘆きだった
『ヘソン… 私ね… つらくてたまらないの…!
助けて… 父を救ってあげて…!!!』

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