第7話 ![]()
幼いホドンが 非情の剣を習得するまでに いくつもの冬が過ぎ
いつしか凛々しい少年に成長していた
武術の師であるウナル将軍も 感慨深く これまでの努力と成果を称える
深夜 大武神王 無恤(ムヒュル)は 王妃メソルスを呼びつける
その寝殿には 侍女が同衾していた
メソルスは屈辱に耐え 王妃の威厳を保つ
無恤(ムヒュル)は メソルスが子を産める間は 夜を共にしないと宣言していた
そのメソルスを寝殿に呼んだのは…
『服を塗ってくれ 刺繍もしてほしい
夜は長く退屈だろう 針仕事も出来るはずだ』
侍女の仕事をしろとは 一国の王妃に対する侮辱だと抗議するメソルスだが
『新しい楽浪(ナンナン)国の王への祝賀品だ 侍女ごときにさせられない
その絹が即位式で着られる日 ワン・ゲンかチェ・リのどちらかが死ぬ
だからお前の仕事だ これは高句麗(コグリョ)の王妃だけが出来る』
楽浪(ナンナン)郡太守ユ・ホンを討ち 楽浪(ナンナン)国が建国され
ワン・ゲンとチェ・リのどちらが王になるのか 周辺国が注目していた
宮殿の建築を見守るチェ・リのもとへ 次妃ワン・ジャシルが現れる
チャミョンの一件以来 ジャシルを遠ざけているチェ・リ
チェ・リが ジャシルの兄ワン・ゲンに王位を譲る気だと知り ジャシルは…
『それなら あなたにラヒや家臣たちは すべて死ぬ運命ですね』
『聞かれたらどうする!国が出来たばかりなのに もう内紛を起こすのか!』
『木は静かにしたくても 風が枝を揺らし
海は眠りたくても 波がそうはさせません』
『ジャシル!』
『兄上は欲が多い人です 家臣だけでなく義姉のモ・ヤンヘまで
あなたの死を望んでいます
私は兄上と22年間暮らしてきました 誰よりも兄上を知っています』
このワン・ジャシルが もっとも正確に情勢をつかんでいる
しかし 理想を掲げるチェ・リの心には響かなかった
ジャシルの愛を拒み通すチェ・リ
宮殿が完成に近づくにあたり ジャシルには確認すべきことがあった
天文官チャムクの遺体を埋めた場所を侍女に調べさせる
戦が終わりに近づいた時期 ジャシルはチャムクと会った
後に楽浪(ナンナン)国が建国された時 王妃となった自分が
その昔 娘を救うために天文官に体を許したという噂を消したかった
ジャシルは チャムクに毒を手渡す
悲しげにジャシルを見つめるチャムクだったが 拒まなかった
ただ 自分が死ぬのは 主君ユ・ホンの死を見届けてからだと…
チャムクは ジャシルから渡された毒を煎じ 主君ユ・ホンに捧げる
「毒を飲めと言うのか むしろ奴らに首をくれてやる!」
「英雄豪傑の死であろうと 匹夫や村夫の死であっても
死は単なる死であり 何の違いがありますか お楽に逝かれなさい」
ユ・ホンは 毒の入った器をはじき飛ばす
「飼い犬に足を噛まれて 国まで奪われてしまった 安らかな死など不要だ」
「陛下…」
ユ・ホンは 金、銀、銅の三矢を受け 金の斧でとどめを刺されるという
屈辱的な処刑によって その首を晒されることとなった
この刑を決めたワン・ゲンに対しチェ・リは…
「なぜそこまで」
「天に代わり暴政を行ったものを罰する儀式だ なぜ邪魔をする」
「120年間 漢族と朝鮮族は血を混ぜ合わせました
混血の子孫が半分以上になります 反感を買えば戦いは長引きます」
「すべて殺し 最初から始めよう!」
「義兄上!」
「お前は善人過ぎる!!!チャミョンを殺した敵だ!恨まないのか!」
「光武帝に 介入する名分を与えます」
「止めるな 光武帝を恐れない!!!」
ワン・ゲンは三矢を射た後 金の斧を手にする
チェ・リの側近が…
「金の斧を使うのは天子だけです
王になるという意図が明白です 止めてください」
「もう遅い」
ユ・ホンに続いて その側近も処刑されることになるが
ワン・ゲンは 太傳ホゴクだけを生かす
両脚の腱を斬り額に刺青をし 漢に送れと命じる
「我々が どのように楽浪(ナンナン)郡を滅ぼし独立したか
そいつを証拠にする!」
ホゴクは痛みに耐えながら 憎しみを全身で表し
必ず生き延びて復讐すると誓うのだった
その叫びを聞きながら チェ・リはつぶやく
「終わらせたい戦いだが まだ続くようだ
これは将来 長きに渡って 楽浪(ナンナン)国の災いとなる」
主君ユ・ホンの死を見届け チャムクは 斬首を待たずに自決する
ジャシルから渡された毒を飲んで…
ワン・ゲンは 自分の兵を国境に置こうとはしなかった
建国間もない国を守るため チェ・リは 自らの兵を国境に置く
高句麗(コグリョ)とワン・ゲンとの癒着を疑う側近に
いずれは 高句麗(コグリョ)との戦いになるだろうと予測するチェ・リ
『虎が食べ残した肉は狼が食べ 狼が捨てた肉は山猫が拾う』
『虎がユ・ホンで 狼が高句麗(コグリョ)ですか』
『無恤(ムヒュル)が虎だ 高句麗(コグリョ)が強大国になるには
この肥沃な楽浪(ナンナン)の地と 海が必要だと知っているはずだ』
楽浪(ナンナン)の建国を果たした英雄として 民はワン・ゲンを称えた
副将プダルは その印象を民に植え付けようと声高らかに その手柄を称える
ワン・ゲンの屋敷では 妻モ・ヤンヘが待ち焦がれていた
その巨体を揺らし 夫に飛びつく
側近や民が見ていてもお構いなしに抱擁を繰り返す
祝いの酒で乾杯しながら ヤンへがつぶやく
『私は… 王妃になりたい!』
『間違いなくそうなるだろう』
『次妃なんて持たせないわ!側室なら許すけど!チェ・リはどうしますか?』
『どうしようか…』
『殺して!』
『殺すべきだな』
『ジャシルとラヒは?』
『1人しかいない妹と ラヒはその娘だ』
『後顧の憂いは断つべきよ!ジャシルが恨みを抱けば何をするか分からない
ジャシルにとってあなたは 夫を殺した敵で
ラヒにとっては 父を殺した敵よ よく考えて!』
『…ラヒは殺そう しかしジャシルはダメだ
死んだあと 両親に合す顔がない』
『つまらぬ同情をするなんて!
チェ・リの一党をすっかり処分したら ジャシルは私が預かる
目を放せないから 私の侍女にするわ』
王になるという欲を隠さないワン・ゲンであったが
共に決起した義弟を殺すことは本意ではない 妹も殺したくない
しかし 王座への執着はそれ以上に強かったのだ
その夜 ひとりの兵士がチェ・リの前に立ち 剣を抜いた
決起した日 この兵士が反旗した
ユ・ホンにへつらい贅沢を尽くした罪を償えと…
チェ・リはこの兵士に自らの剣を渡し
楽浪(ナンナン)が独立した日に 自分の首を討てと命じたのである
『今日がその日か 望みどおりにこの首を持って行け』
『ええ そうします将軍!』
兵士は剣を空振りさせ チェ・リの前に突き刺した
『私は ユ・ホンの左中郎将だったチェ・リの首を取りました
目の前にいるのは 朝鮮のチェ・リ大王です この剣でワン・ゲンを!!!
時代が大王を欲しています
無恤(ムヒュル)から楽浪(ナンナン)国を守って下さい!』
同じ夜 高句麗(コグリョ)では…
大武神王 無恤(ムヒュル)が 神殿で祈りを捧げている
就寝を促す臣下に 今日はトジョル兄上が自ら命を絶った日だと答える
気づきませんでしたと ひれ伏す臣下
『父上が トジョル ヘミョン 2人の兄の名前を呼ぶことさえ禁じた
忘れて当然だ
子供をすべて殺してまで 父上は何を得ようとしたのか…
高句麗(コグリョ)のためか
五那部(オナブ)の長老に追われることを恐れてか!
この無恤(ムヒュル)は まだ高句麗(コグリョ)王になっていない
沸流那(ピュリナ)部の王にさえなれなかった
どうして余が 高句麗(コグリョ)王になれるのだ…!』
深夜の嘆きを胸におさめ
一夜明け 無恤(ムヒュル)は息子ホドンの武芸披露の場にいた
沸流那(ピュリナ)族の首長ソン・オックも参列し
無恤(ムヒュル)に進上の品を届けに来たという
父親が来たと聞き 大喜びで駆け付ける王妃メソルスは
義父なのに席も用意せず 立ち見させる無恤(ムヒュル)を睨みつけた
ホドンの見事な成長ぶりに満足し 無恤(ムヒュル)は 新しい剣を与える
『この剣で楽浪(ナンナン)を討ち 遼東 玄菟(ヒョント)を討ち
扶余(プヨ)も討ち 父上の手に捧げます!』
『そうしてくれ』
母の国であり 血族がいる扶余(プヨ)を討てるのかと聞く 王妃メソルス
ホドンは鼻で笑い これに答える
『私が師匠から学んだのは 力の剣でなく 身内も斬れる剣でした』
無恤(ムヒュル)は ホドンの仕上がりはどの程度かと聞く
ホドンの師匠ウナル大将軍は まだ1割だと答える
それしか教えられないのだと…
『剣には4つの要素があります まず最初は柔軟性で 次は力です
教えられるのはそこまでで1割です
力の上は非情な剣です 陛下の特技ですから陛下が教えるべきです』
その上は “楽しむ剣”だと説くウナル
『血を楽しむ剣 自分の剣を血で染めることを望む剣
その剣に勝てる者はありません』
『非情な剣でも楽しむ剣でも ホドン自ら悟るべきものだ 今はこれで満足だ』
満足した父無恤(ムヒュル)に ホドンは王妃と剣を交えたいと願い出る
周囲の止める声を無視し 王妃メソルスはこれを受けて立つと息巻く…!
見かねたソン・オックが 進上品について話し始める
席を変え 無恤(ムヒュル)とメソルスの前に ソン・オックが対座する
進上品とは 物ではなく 若い女性であった
『王妃の従姉妹スジリョンです』
『王妃もそうだが 沸流那(ピュリナ)部には美人が多い』
『ホドンと…婚姻させるつもりですか?』
進上品とは何なのか 無恤(ムヒュル)もメソルスも意を介さない
『陛下 スジリョンをどうぞ』
父ソン・オックが 娘メソルスを見限った瞬間である
みるみるその瞳に涙が溢れるメソルス
『側室としてか?』
『今の王妃を廃して 陛下の正妃としてください』
オックは 椅子から下りてひざまずく
『そもそも王妃の役割は 後継者を産み 王室を安定させ
五那部(オナブ)を安心させ 高句麗(コグリョ)を盤石にすること』
『父上…』
『もう王妃は枯れた花で 結実を期待できません』
『父上!!!』
メソルスは 幼い頃に可愛がったスジリョンが不敵に笑うのを見た
その頬に平手を打ち 退室するメソルス
このスジリョンを王妃にし 今の王妃は廃して連れ帰ると言い
オックもまた退室していった
沸流那(ピュリナ)部との間に子孫を作らない無恤(ムヒュル)の考えは
オックにも分かっていたが やはり跡継ぎは必要だった
また 地獄のような日々から 娘を救い出したい気持ちも 少なからずあった
無恤(ムヒュル)は ホドンを呼び2人きりになる
『沸流那(ピュリナ)部は お前を世子に立たせないつもりだ』
『太子になるかならぬかは 父上の意思次第です』
『ワン・ゲンとチェ・リがいなければ
遼東と玄菟(ヒョント)がなければ この父の意思で決まる
しかし新生楽浪(ナンナン)国を討つには 沸流那(ピュリナ)部の力が必要だ』
『父上!』
『高句麗(コグリョ)の王になりたいなら 沸流那(ピュリナ)部の力を借りず
ホドン自身の手で 楽浪(ナンナン)国を滅ぼすのだ』
『分かりました 必ず私はそうします!』
あくまでもホドンを太子にするには…
そう考えながら 無恤(ムヒュル)は初めてメソルスを哀れに感じていた
国から国へと渡り歩く技芸団 チャチャスンの一座に 今日も檄が飛ぶ
チャチャスンの妻ミチュは このどうしようもない失敗ばかりのプクを
どう教育すればよいやら途方に暮れていた
プクが追いかけるのは 兄と慕うヘンカイ
誰が側に寄るのも許さない 自分だけがヘンカイと技芸を披露する!
しかし 何をやっても満足に習得できないプクだった
その一座を 乞食のように這う男が見張っている
それを見咎めたチャチャスンが 商売の邪魔だと追い払うが
男は公演を依頼したいと言う
汚らしい乞食が公演を依頼だなどと 信じられるわけがない
しかも振り向いた男の額には 罪人を表す刺青がある
あの 処刑を免れ 脚の腱を斬られたホゴクだった
チャチャスンは 小突いた棒を奪われ 反対に叩きのめされてしまう
降参したチャチャスンに ホゴクは金の欠片を渡す
これだけでも立派な公演を立ち上げるには十分だ
たちまち態度が変わるチャチャスン
乞食のようでも罪人でも 金をくれる人はありがたいお客様だ
『一体どんな公演を?』
『17日後に 楽浪(ナンナン)からここに船が到着する 来賓館に泊まる連中だ』
『来賓とは 誰が来るんですか』
『ワン・ゲン! チェ・リ!』
『えぇっ?!!!!!』
『お前たちの最高の技芸を見せろ』
ホゴクは 失敗ばかりの少女を睨みつける
『あの娘にも芸をさせろ』
『まだプクは芸が未熟なので…』
ギロリと睨まれて チャチャスンは渋々承知する
プクは ヘンカイを独り占めしたくて 無理に出来ないことをする
挙句に ヘンカイ共々転落してしまう
プクをかばったヘンカイは 危なく腕を折るところだった
チャチャスンは 芸の厳しさを教え込むために プクを回転台に縛り付ける
『技芸とは すべての瞬間に命を懸けることだ
技芸を見る客は笑っても 俺たちは 死ぬか生きるか怪我をするか
命を売って飯に代えている』
泣き叫ぶプクに向かい 短剣を投げつけるチャチャスン!
『叫ぶんじゃない!俺が動揺すれば 俺ではなくお前が死ぬんだ!』
あまりの恐怖に気を失い プクは失禁していた…
戦が終わり チェ・リの正妃モ・ハソは炊き出しをして民を慰める
そんなモ・ハソに駆け寄り その胸に飛び込んできたのは 成長したラヒだ
我が娘チャミョンは 乳母タルゲビの息子イルプムと共に冬の海に消えた
その時 生き残ったワン・ジャシルの娘ラヒは
どんなに飲ませようとしても ジャシルの乳を飲まず瀕死に陥っていた
死ねばいいと思っていたモ・ハソだったが モ・ハソの中の母性がうずき
ラヒは モ・ハソの乳を飲んで成長したのである
『お義母様!』
『ラヒ!』
今では 実母のジャシル以上に可愛がり ラヒもまたよくなついていた
そこへ 剣術の修練の時間だと ジャシルが呼びに来る
訴えるようにモ・ハソに目配せをするラヒ
『女が剣を学ぶなどと 腕の立つ護衛で十分だ』
『ラヒは普通の女の子ではなく 楽浪(ナンナン)国の女王になります』
『ジャシル!』
気の強いラヒは 実母ジャシルに言い返す
『女が王になるなんてあり得ません!』
『狭い考え方だ なぜ女は王になれない?
ラヒがチェ・リ大王の唯一の子なら 娘でも息子でも関係ない』
高句麗(コグリョ)では…
最大の屈辱を受けた王妃メソルスは
その怒りのすべてをホドンに向ける
進上品のせいでうやむやになった決着をつけようと
戦闘服に身を包み ホドンの部屋へ…!
『私と戦いたいと言ったな 私もそうだ!』
『今は私より スジリョンという人を斬りたいのでは?』
『私をからかうのか!』
『父が娘を捨て 従姉妹が王妃様を追い出そうとします
私のひと言で何をお怒りですか』
『ハハ…確かに原因のない結果はないな すべての原因はお前ではないか!』
『王権に挑戦する沸流那(ピュリナ)部の傲慢さではなく?!』
執拗に戦いを迫るメソルスに ホドンは剣を持つ
全身に怒りをみなぎらせたメソルスの剣が ホドン目がけて振り下ろされる!
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