本 第18話 本

『やめよう』

『知ってるんだな 誰なんだ』

『……』

『言ったよな 俺が信じるのは王じゃなくお前だ 探すんだろ

黒幕を突き止めて新たな朝鮮を…』

『事件の背後には… 左議政(チャイジョン)がいる』

『何だと?!』

『しっ!声が大きい』

『つまり 事件の黒幕は左議政(チャイジョン)… イ・ソンジュンの父親?!

金縢之詞(クムドゥンジサ)を消そうとした黒幕は

左議政(チャイジョン)なのか?』

『小声で話せ!』

しかし遅かった

気がつけばそこに イ・ソンジュンとキム・ユンシクが立っていた

イ・ソンジュンは ク・ヨンハの手から土地の権利書の写しを奪う

『この元の地主を捜せば 事件の黒幕が確実に分かりますか?

僕が… 捜しても?』

『…出来るか?』

『僕の父が 本当に事件の黒幕なら 突き止めるのは僕が適任では?』

ユンシクの肩に手を置き ソンジュンは出て行った

今にも泣きそうになりながら ユンシクは顔を上げることが出来なかった

イ・ソンジュンは 土地の権利書の写しを 父イ・ジョンムに見せる

『金縢之詞(クムドゥンジサ)を探しているのか』

『……』

 

『思悼世子(サドセジャ)を死なせた事件を 過ちだと思ったことはない

私的な親子の情より 王朝と国を優先すべきだという考えは 今も同じだ

方針の違いで 親子が政敵となることはよくある

そして 勝者がいれば敗者がいるのは当然だ

思悼世子(サドセジャ)は敗者に過ぎず 他の何者でもない』

 

『過ちではないのなら なぜ金縢之詞(クムドゥンジサ)を恐れるのです』

 

『恐れるのは金縢之詞(クムドゥンジサ)ではなく 親子の情だ

自ら殺した息子を思う 先王の愚かな心や

幼い頃亡くした 父を思う王の後悔の念

そうした心情の人間に権力を握らせれば

この地に再び争いが起こるのは明らかだった

この父の忠心は 歴史が証明する

ゆえに お前も探すな 金縢之詞(クムドゥンジサ)探しに これ以上関わるな

お前の一時的な理想のために 我がイ家が滅びる恐れもあるのだ』

『だからですか

イ家の繁栄のために キム・スンホンとムン・ヨンシンを死なせ

金縢之詞(クムドゥンジサ)を消したのですか』

 

『違う』

 

『以前のように 父上の言葉を信じられません

目の前にある権利書が 事実を明白に語っています』

『待ちなさい!父に背を向けるのか?!!!』

『方針の違いで 親子が政敵になると?

では僕は 今後は父上の政敵となります』

尊経閣(チョンギョンガク)で読書するキム・ユンシク

もう真夜中だというのに 暗がりの中で本を手放さない

そんなユンシクを止めたのは ムン・ジェシンだった

※尊経閣(チョンギョンガク):成均館(ソンギュングァン)内の図書館


『金縢之詞(クムドゥンジサ)ですが 貰冊房(セチェクバン)で見つけた

「書経」の記述を読んで 老論(ノロン)が恐れる理由は分かりました

それで父を…』

『ゆっくりでいい ひとつひとつゆっくり考えよう

もう寝ろ お前の寝相が悪いからヨンハの部屋に行く』

女であるユンシクと2人きりにはなれない

ソンジュンとの仲を知ってしまった以上…

その薬指に光る証しを見てしまった以上…

翌日 屋敷から戻るイ・ソンジュンを ムン・ジェシンが待ち伏せする

“あの権利書は 自分とは何の関係もないものだ”

そう言えと ジェシンはソンジュンに言う

密命は金縢之詞(クムドゥンジサ)を探すことであり

黒幕を突き止めるのはやめようと…

どうしても納得しないソンジュンに ジェシンは声を荒げる

『この俺が…事実を伏せるのは卑怯だと 心から軽蔑している俺が!

口を閉ざすんだ! だからお前も!

正直に堂々とありたいとか また偉ぶるつもりならやめておけ!

『先輩』

『人が卑怯になるのは 守りたい人がいるからだ

キム・ユンシクを… 守りたいだろ あいつがお前を許せると思うか』

『許しを請う前に まずは心から罪の償いをすべきです

それに先輩 僕が許しを請うべき人は1人じゃない

キム・ユンシクが傷つかぬように努めます』

イ・ソンジュンは 自らの誠実さに従ってありままを話す

しかし やはりキム・ユンシクには受け止めがたかった

たとえ黒幕が父親であっても すべてを正すと言うソンジュン

 

ユンシクには 何もかもがどうでもよくなってしまう

何をどう正したところで もう父親は戻って来ないのだから…

兵曹判書(ピョンジョパンソ)ハ・ウギュは ユン・ヒョングに金を渡し

都から去るようにと厳しく言い聞かせる

キム・ユンシクは 母親に会いに行く

家では 娘の姿で ユニとして過ごす

娘として 父の死の真相を知っておくべきだと思い 母に尋ねるが…

『事実を知ることで 世間に怒りを抱いてほしくない 
世間というのは

立ち向かって来る者には 自分の恐ろしい力を示したがるものよ

それでこの母は お父さんを失ったの だから 私は話すつもりはないわ』

 

母親の話から 父も 世間に怒りを抱きながら無念に死んでいったと理解する

初めから話していてくれれば… と母に恨み言をつぶやくユニ

知っていれば 恋心を抱かずに済んだかもしれないと…

夜の縁側に腰掛け 考え込むユニ

父親のことを知りたいと言いながら 父親についていい思い出がない

その膝には いつも幼い弟が座っていて 本を読み聞かせていた

女の身であるユニは同席を許されず いつも部屋の外で聞いていた

 

そんなユニの隣に座る 弟のユンシク

『姉さん知らないの? 父さんは いつも外に向かって大声で読んでたんだよ

幼い僕に分かりもしない 難しい書物を選んでね

父さんはずっと僕じゃなくて 戸外にいる姉さんに向かって読んであげてたんだ

姉さん 今まで知らなかったの?』

父の書いた講義録 “明倫日誌”には ユニのことが書かれていた

“娘の学問の上達ぶりを見るのは つらいことだ

私が師匠なら あの子の才能を喜んだろう

だがこの世で志を遂げられぬ娘に 望みを抱かせるのは正しいのか

才能豊かな娘に 機会を与えられぬ愚かな父

娘の読む声に息を殺し 今日もまた心で泣くばかりだ”

初めて父の思いに触れ ユニは涙を流す

父が抱いた世間への怒り それは娘であるユニへの思いでもあったのだ

キム・ユンシクは 博士(パクサ)チョン・ヤギョンに会い

父が書いた講義録を見せた

 

父キム・スンホンが 敢えて金縢之詞(クムドゥンジサ)の隠し場所を暗号にし

自らの辞職願に込めたとすれば…

父は襲われることを予感していたことになる

『初めは先王によって宗廟(そうびょう)に置かれた

金縢之詞(クムドゥンジサ)を連中から遠ざけ

月出(ウォルチュル)山の道岬寺(トガプサ)に移したのも師匠だった』

『なぜそんな危険なことを…』

『金縢之詞(クムドゥンジサ)が 新たな朝鮮を開く鍵だと信じたからだ

多才な娘に機会を与えるには 師匠にとって金縢之詞(クムドゥンジサ)が

命懸けで守るべき希望だったはず』

 

キム・ユンシクは 貰冊房(セチェクバン)の隠し部屋に戻ってきた

そして 金縢之詞(クムドゥンジサ)は成均館(ソンギュングァン)にあると話す

 

“王様と私は2人で 月明かりの下 糸で結ぶごとく心をひとつにする

書物と経典で人材を成し 均しく教え導いた 学問の向かう先であり

国の始まる所に 失った心をとどめる”

 

『この文書の“成人材之未就”とは 人材を使い国を創り上げること

“均風俗之不斎”は 国を均一にすること

辞職願でも 詩でもなかったのです』

『“成” “均”… 成均館(ソンギュングァン)を示していたのか』

『成均館(ソンギュングァン)が その名に相応しい機関となるよう

博士(パクサ)キム・スンホンは 強く願っていました 講義録を見たんです』

ようやく3人も ユンシクの言葉の意味を理解する

『成均館(ソンギュングァン)のどこか

学問の向かう先であり 国の始まる所に金縢之詞(クムドゥンジサ)がある』

4人は 成均館(ソンギュングァン)の配置図を手に入れるところから始める

イ・ソンジュンは ユンシクの指に指輪がないことに気づく

寂しく その指を見つめるソンジュン

『外すべきだと思って 僕は ずっと父さんに見向きもされてないと恨んでた

でも実際は 僕が父さんを顧みてなかったんだ だから絶対見つけたい

なぜ父さんが 金縢之詞(クムドゥンジサ)を必要としたのか知りたいから

ひょっとして今回が 最初で最後の 父さんを理解できる機会かも

僕は長い間 父さんに寂しい思いをさせてた だから…』

頬に流れる涙を イ・ソンジュンがそっと拭ってやる

 

『もういい 無理しなくてもいい 分かったから

約束する 何としても金縢之詞(クムドゥンジサ)は探して見せる』

ユン・ヒョングの件を処理し 兵曹判書(ピョンジョパンソ)ハ・ウギュは

あらためて左議政(チャイジョン)イ・ジョンムに 縁談について催促する

『ご子息に伝えてください』

『はい …え?』

“ご息女”ではなく“ご子息”と ジョンムは言った

 

『金縢之詞(クムドゥンジサ)の件です

王が若い学生たちに 無駄な希望を抱かせています

掌議(チャンイ)ならその者たちを監視できるはず』

『ご子息を差し置いて… では… ご子息がその…!』

『……』

『だから申したでしょう!

縁談を進めて成均館(ソンギュングァン)から出していれば…』

ウギュを ギロリと睨みつけるジョンム

 

『一連の問題は 何が原因か分かりませんか?』

『左議政(チャイジョン)様』

『縁談は二度と口にせぬように

あなたと親戚になることはない!』

縁戚になろうとへつらってきた

しかし望みが絶たれたとなれば もはや下手に出ることはない

 

『今の地位に就けたのは誰のおかげかも知らぬくせに!

この私と娘をコケにしおって!!!

フッフッフ… 私が誰かを教えてやる時が来たようだな

今回の騒動の元凶はユンだ!まずは奴を捕らえねば…!』

左議政(チャイジョン)の指示を受けた掌議(チャンイ)ハ・インスは

4人衆が 成均館(ソンギュングァン)の史書と配置図を調べていると知り

何かを探しているのだと察する

独自に捜査をするため 隠し部屋に顔を出さないイ・ソンジュン

3人は やはり父親を追究するのは気まずいだろうと察する

 

『“学問の向かう先”なら

学問と関連がある明倫堂(ミョンニュンダン)が候補だ』

『尊経閣(チョンギョンガク)もあります』

『科挙の試験場 “大成殿(テソンジョン)”もだ』

『この3つの建物が“学問の向かう先”でも 全部掘り起こすわけにもな』

もう1つの手がかりは “国の始まる所”

3人は 孔子の位牌がある場所かもしれないと推測する

 

しかしいくら探しても 金縢之詞(クムドゥンジサ)は見つからない

調査に明け暮れるク・ヨンハの前に 掌議(チャンイ)ハ・インスが現れる

『昔のよしみで忠告しよう お前には似合わない 奴らとは違うだろ

今からでも遅くない お前を…』

『俺は朝鮮一のお洒落だろ その秘訣をお前だけに教えてやる

似合わない服ほど果敢に合わせること

忘れるなよ 今のお前は… カッコ悪い』

いつものように言いたいことを言い 去って行くヨンハ

インスはそれでも上機嫌で ヨンハの暴言を許す

『はしゃぐのも今日限りだ

成均館(ソンギュングァン)の学生としての 最後のあがきと考えよう』

決定的な何かをつかんだような インスの不敵な笑みだった

3人に賭場の女将から知らせが入る

イ・ソンジュンが ユン・ヒョングを捜して回り ゴロツキたちと乱闘になったと…

駆け付けてみると 壊れ果てた賭場の隅に 傷だらけのソンジュンがいる

 

『頭より 体が先に動いたのか らしくないな

そこまでして奴を捜すのは 金縢之詞(クムドゥンジサ)を捜すためか

それとも 父親の潔白を確かめるため?』

『僕が知りたいのは 10年前の真実です』

 

ヨンハの問いに ソンジュンは静かに答えた

『1つ聞こう お前は 金縢之詞(クムドゥンジサ)が見つかれば

左議政(チャイジョン)の息子でいられなくなるかも いいのか?』

『構いません 心を許した友の父や兄を奪った 罪人の息子よりはましです』

取り乱して出て行くキム・ユンシク

ソンジュンが追いかける

『僕のためならもうやめてくれ

顔すら覚えてない父さんの 心を傷つけたことすら 僕は後悔してる

父親を思う気持ちは あんたの方が強いはず だからもうやめてくれ

やめていいよ… これ以上は見てられない』

涙をこぼしながら去ろうとするユンシク

ソンジュンは 背中からユンシクを抱きしめた

すべての状況をかなぐり捨て 心だけで抱きしめた…

『どうか許してほしい

君が父親の代わりに 男の格好で市場を歩き回り

病気の弟の薬代を稼いでた日々

寒さと空腹に耐えてた君に 僕は… 頭を下げて謝りたい

その頃僕は何も知らずに 暖かい部屋で書物を読んでた

そんな自分が許せないし 君に申し訳ない

出来るなら… 時間を戻して僕の幸せを君にあげたい

そうして 許してくれと… 言いたかった』

崩壊した賭場に残されたヨンハとジェシン

ク・ヨンハは あらためてソンジュンに感心する

『尊敬してた父親に背を向けるってことだろ 死力を尽くして

分かるよな 父親を憎んで生きるのは地獄だってこと』

こうした状況のすべてを まだ王は知らない

その傍らには チョン・ヤギョンが…

『学生たちは 密命を解けたのだろうか』

『私に助けを求めてこないので 順調のようです』

『余にはあの文書が 博士(パクサ)キム・スンホンの

最後の授業に思えてならぬ』

『授業… 何かを教えていると?』

『“学問の向かう先 国の始まる所”

あの者たちに 何を教えたかったのだろう ぜひ知りたいものだな』

ユン・ヒョングが金づるを見つけ 大金を手にして都を去る

イ・ソンジュンがその情報を知り 捜し当て 声をかけようとしたその時…!

短剣がヒョングの頬をかすめ 黒装束に身を包んだ賊が襲いかかる

居合わせたソンジュンは 否応なく争いに巻き込まれた

 

絶体絶命の2人を救ったのは ムン・ジェシン!

 

どさくさに逃げようとするヒョングをソンジュンが捕え

ジェシンは賊を追いかける…!

 

一方キム・ユンシクは

博士(パクサ)チョン・ヤギョンの言ったことを思い返していた

 

「初めは先王によって宗廟(そうびょう)に置かれた

金縢之詞(クムドゥンジサ)を連中から遠ざけ

月出(ウォルチュル)山の道岬寺(トガプサ)に移したのも師匠だった」

 

『宗廟(そうびょう) 朝鮮の歴代王の位牌が祀られている場所だ

“学問の向かう先 国の始まる所”は 成均館(ソンギュングァン)じゃない!』

何かをひらめいて 一目散に走り出すユンシク

その直後の尊経閣(チョンギョンガク)に ハ・インスが現れる

取り巻きたちが ユンシクの広げた資料を調べる…!

 

その頃 イ・ソンジュンとムン・ジェシンは 捕らえたユン・ヒョングの口を割らせ

真実を聞き出そうと焦っていた

『申し訳ないね エサを与えられなきゃ猟犬は口を開かないんだ』

 

ク・ヨンハもまた別の線から ユン・ヒョングの金の出処を調べる

タダ酒に金を積めば たいていの役人の口はほぐれた

そして 左議政(チャイジョン)と兵曹判書(ピョンジョパンソ)の繋がりが見えた

イ・ソンジュンは やっと捕らえたユン・ヒョングを締め上げ

いよいよヒョングが話し始める

『俺に手引きを命じたのは… 今の左議政(チャイジョン)様だよ』

 

初めて関係者からの証言に 父親の名前が出た

イ・ソンジュンは 冷静ではいられなかった

『本当に… 左議政(チャイジョン)様が殺害を命じたのか?

権利書を褒美に?! 話せ!!!』

『胸ぐらをつかまれちゃ話せない

左議政(チャイジョン)の意思とは別に 殺せと命じたのは

兵曹判書(ピョンジョパンソ)だよ』

ここでも 左議政(チャイジョン)と兵曹判書(ピョンジョパンソ)がつながった

『権利書は 事の次第を後で知った左議政(チャイジョン)が

口封じによこしてきた 気が済んだか?

しかし… 今になって兵曹判書(ピョンジョパンソ)が俺の命を狙うとは

アッハハハ… 面白いな』

イ・ソンジュンとムン・ジェシンは キム・ユンシクを捜す

いるはずの尊経閣(チョンギョンガク)には 資料の山だけが残されている

黒幕は父親ではなかったと 真っ先に伝えたかったのに…

 

そこへク・ヨンハが 宗廟(そうびょう)に兵士が集結していると知らせに来る

ユンシクの資料を調べると… 宗廟(そうびょう)に向かったようだ…!

『奴は動きを読んで大物(テムル)を追ってるんだ

見つかったら命の危険もある!』

 

宗廟(そうびょう)の位牌の下

 

キム・ユンシクは あると信じて位牌の前に立つ

 

(元々金縢之詞(クムドゥンジサ)は 先王によりここへ置かれた

“学問の向かう先”とは 宮仕えし国を繁栄させること

“国の始まる所”とは 朝鮮王朝の歴代王の位牌がある宗廟(そうびょう)だ)

イ・ソンジュンは ユンシクを救うべく宗廟(そうびょう)へ急ぎ

ムン・ジェシンは紅壁書(ホンビョクソ)となり 兵士をかく乱する!


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