§ 第51話 医術の心 §

『医女チャングムの診脈と処方は誰よりも優秀だ』

『嫌です!大君(テグン)の病を 医女などに任せるのですか?!』

『チャングムに余の施療を任せたであろう』

『他に方法がなかったので

内医正(ネイジョン)が疑わしく その下の医官も信用できませんでした

他の医官も 時間をやれば調べ抜いたはずです

殿下 私に対してひどすぎます 世子でも同じことを?!

後に生まれたとはいえ 殿下の息子です なぜ平然としておられるのですか?』

中宗(チュンジョン)王は 大君(テグン)のために最高の医術を持つと信じる

チャングムを指名したのだが 文定(ムンジョン)王后はそう思わなかった

大君(テグン)を軽んじるからこそ 医女などをあてがうのだと…

 

世子の命を奪えと命じたことを封印し ただ我が子の保身に徹する母であった

チャングムが固辞したにもかかわらず 上訴が減ることはなかった

これまでの行動に対し ミン・ジョンホを弾劾しろとの声が上がったのだ

王后の密命を実行したり 今回の件でも ただひとり王の意見に賛成し

経国大典を破った罪を問うべきだというのである

右議政(ウイジョン)にとっては ジョンホの存在が誤算となってしまった

才能ある者でありながら まさか勢力の足枷になるとは 思いもよらなかった

大殿(テジョン)に呼ばれたミン・ジョンホは あらためて王の前に進言する

医女チャングムに対する御命を 再び出すべきだと

それは気に入られたいための計略かと問われたジョンホは…

『恐れながら 今回の御命は 忠臣と乱臣 奸臣を選ぶためのものでしたか?

もう一度 医女チャングムを主治医官にするご命令を』

『お前がそう思う理由は?』

『最も重要なものは人だからです

殿下のなさるべきことは 優れた人材を適切な席に就かせることです

優れた男ではなく 優れた人を選ぶことです

医女チャングムは 王室の病を退治し

疫病と誤認されたものが 食中毒であると明かし 多くの人命を救いました

しかも いかなる脅迫や誘惑にも負けない人間です』

『それは分かっておる』

『殿下の側に置く医官として 何が不足でしょうか

殿下のなさるべきことは 側に置く者 置かぬ者に適切な場を与えることです』

チョ・ウンベクの診断により 慶源大君(キョンウォンテグン)の病は

痘瘡であることが判明し 直ちに隔離されてしまう

※痘瘡:天然痘

母親といえども 文定(ムンジョン)王后は息子に会うこともかなわない

その取り乱した姿を 貞顕(チョンヒョン)王后に諌められるのだった

シン・イクピルが都城を巡回してみると 痘瘡の疑いのある者は

皆西の活人署(ファリンソ)に集められ ある処方がされていた

調べてみると それはすべてチャングムの指示によるものだった

活人署(ファリンソ)は 金のない民が集まり治療を受ける所である

チャングムは あらゆる治療法を この民たちに施し効果的な治療法を探り

一刻も早く特効的な治療の開発に努めていたのだ

チャングムは 最も貧しい物乞いの村にいた

誰も近寄ろうとしない痘瘡患者に寄り添い 治療法を研究している

シン・イクピルは その献身的な姿に 言葉もなく去っていく

宮中では 文定(ムンジョン)王后が感染するのも厭わず

我が子を抱きかかえて泣いていた

母の愛とは 命をも顧みず抱きしめずにはいられないものなのだ

夜になり イクピルはふたたび物乞いの村に足を運ぶ

チャングムは 苦しむ幼子を抱いていた

その医術の心に イクピルはただ自分を恥じるのだった

文定(ムンジョン)王后は 息子が苦しんでいるのにと言い 食事を拒否する

最高尚宮(チェゴサングン)となったミン尚宮は…

『元気をお出しください 周囲が健康でこそ病人も治るのです

周囲が治ると信じてこそ 病が治るといいます 諦めてはなりません!』

『…チャングムね』

『え?』

『チャングムの言葉でしょう?!』

『…はい』

文定(ムンジョン)王后は思い出したのだ

いつもどんな時でも チャングムは諦めなかった

そして そんなチャングムをどんなに信頼していたのかを…

チャングムが診ている子供の中から 快方に向かう子供が出た

大喜びしているところへ訪ねて来たのは 文定(ムンジョン)王后だった

チャングムは 物乞いの村での経験を生かし あらゆる治療法を駆使し

慶源大君(キョンウォンテグン)を献身的に施療する

医官と医女たちは皆 チャングムの処方に従い迅速に動いた

そして 見事に治癒することができたのであった

文定(ムンジョン)王后は チャングムに対し 心からの謝罪をする

『何と言えばよいのか 物乞いの子を抱き小屋に入るお前に

自分の体を顧みず 殺身成仁するお前に 私は人を殺めろと命じてしまった

他人の子の病を利用しようとしてしまった

数百年も諦め 天に任せた病を 治す方法を探し回るお前に 言葉がない

過ちを認めよう 許しておくれ

お前の力になろう 今後は お前の医術を存分に広めなさい』

中宗(チュンジョン)王もまた 大臣を招集する

『都城の病を抑え 大君(テグン)を治した医女チャングムに

米15俵と綿布15匹を下賜する

また 従九品の参奉(チャムポン)に命じ 余の主治医官に命ずる』

いかに手柄を立てたとしても 大臣たちにとっては認められるものではなかった

『殿下 不当なご命令です 女性を参奉(チャムポン)などとは!

経国大典を揺るがす青天の霹靂でございます!』

『同副承旨は何をしておる!今すぐ命令を執行しろ!』

『はい 直ちに!』

神妙に命令を受け ミン・ジョンホは承知した

その勢いに 反対すらできなかった大臣たちは

すべてミン・ジョンホの策略だと言い始める

ジョンホの良き理解者であった右議政(ウイジョン)すら味方ではなくなった

あらためて大殿(テジョン)で反対の意を唱える大臣たち

『歴史が始まって以来 こんなことはありません

朝鮮王朝の根源である経国大典を揺るがすことです

殿下の業績に傷がつきます』

『同副承旨は聞け!』

中宗(チュンジョン)王は 忌々しく大臣たちを睨み ミン・ジョンホに…

『医女チャングムを従八品に命ずる!』

『で…殿下 なぜそんなご処置を!これは位階と法道を揺るがし

内医院(ネイウォン)の体系すら崩れてしまいます!

誰も医女の言葉に従いません!』

そこへ 僉正シン・イクピルが現れ 王に対し書簡を捧げる

中宗(チュンジョン)王は 内容を読み上げるよう命ずる

『内医院(ネイウォン)のシン・イクピルが申し上げます

私はもちろん 内医院(ネイウォン)のすべての者は殿下の命令を奉ります』

『理由は?』

『私は チャングムの師に当たりますが

医女チャングムの地位を受け入れるのは

彼女の医員としての姿勢にうたれたからです

チャングムの医術は 母親の愛と同じです

我が子を助けるため 自分を顧みず 子供が病にかからぬよう予防し

子供を治すために 人に希望をもたらしました

今回の痘瘡の件でそれを見せてくれ

内医院(ネイウォン)の者は 実質 チャングムの指揮下に…

誰も不平をこぼさず 大君(テグン)を治せるという信念のもと動きました

よって 殿下の命令を奉ります』

内医院(ネイウォン)の総意を聞かされても 大臣たちは認められない

『朝鮮王朝の根元を揺るがす不当な処置でございます!』

『チャングムを 従七品の直長に命じる!』

『殿下!不可能な処置です!』

『チャングムを 従六品の主簿に命じる!』

もはや何も言うことは出来なかった

否定すれば否定するだけ チャングムの地位は上がってしまうのだ

『同副承旨は教旨を作成せよ!』

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