近年慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は肺の生活習慣病であり、「たばこ病」とも言われ高齢化が進むにつれて増加傾向にある。
また、2020年には疾患別死亡順位で第3位になると予測されている。
最大の外因性危険因子は「たばこ」であり、COPD患者の約90%に喫煙歴を認める。
しかし、発症は喫煙者の15%~20%であり、すべての喫煙者が発症するわけではない。
病態は、進行性で、可逆性の少ない気流閉塞がみられるのが特徴であり、それによる労作時呼吸困難や慢性の咳や痰などの自覚症状を呈する。さらに単なる肺局所の疾患ではなく、全身性の疾患であり、栄養障害や骨格筋機能障害をはじめ、心・血管疾患、骨粗しょう症、抑うつなどの併存症がみられることが多い。
症状は、咳、痰、労作時の呼吸困難を訴えるものが多く、午前中の咳が多い。
また長い期間をかけて慢性的に徐々に進行していく。
加齢による体力の低下や風邪の症状と勘違いされやすく、初期の段階では自覚しにくいため、医療機関への受診が遅れて見逃されやすい。
慢性的な咳は初期では間欠的だが、進行するにつれて毎日みられ1日中持続するようになる。喀痰は出ない場合もあれば膿性の痰を伴う場合もあり、個人差がみられる。喘鳴は重症期の患者に多く、喘息との鑑別が必須である。
一般的な治療は近年、治療薬の開発に伴い、従来の治療反応性に乏しい疾患から治療可能な疾患へと考え方が変わってきた。
疾患の管理で、進行や急性増悪の予防には、禁煙が最も重要である。禁煙は呼吸機能低下を抑制し、増悪の頻度を3分の1に減少させる。また、ウイルスによる気道感染症を防ぐため、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される。
日常生活上の注意では主に息を止めて力む、重い物を持つ、両手を上げて作業するなど、上体を深く曲げ横隔膜を圧迫するような姿勢を避けるよう、患者自身に心掛けてもらう必要がある。
COPDに対する鍼灸治療は主訴である、労作時呼吸困難に対する治療が中心になるが、全身性の疾患であることから、それ以外にも多種多様の症状に対して、効果が期待できる。
事実、このような症例に対して、前頚部・胸背部の呼吸補助筋や、上肢の末梢穴さらに腰部や下肢への刺激を行ったところ、呼吸補助筋等の筋緊張の緩和が認められ、主訴を軽減し、さらに合併症も改善している。このように、労作時呼吸困難や下肢痛の軽減により歩行距離が増すことで日常生活動作も改善し、生活の質の向上が示された結果もでている。
通常の治療に鍼治療を加えることで症状の軽減や進行の抑制、増悪の予防、薬物療法の減量などの治療効果が期待できることを踏まえ、今後さらなる臨床やエビデンスの面からの追求が必要である。