バルザックの『谷間のゆり』(岩波文庫)を読みました。
フェリックスって青年が、遥かに年上の既婚女性モルソーフ夫人に恋をして…ってな物語で、450ページ超の大作なんですが…
いや~、およそ400ページ辺りまでが退屈なので、何度投げ出そうとした事か(笑)。
然し、モルソーフ夫人が患ってからが興味深くなり、一気読みしてしまいました☆
『ゴリオ爺さん』のゴリオ、『従妹ベット』のアドリーヌ、『従弟ポンス』のポンスとシュムケ同様、モルソーフ夫人が可哀相過ぎて…(泣)。
退屈だった400ページ弱も、モルソーフ夫人の死に様の為に必要だったのでしょう。
「あたしが死ぬなんて、そんなはずはありませんわ。あたし、これまでまるで生きてなかったのですもの」
…と云う台詞をはじめ、夫人が貞淑だっただけに、数々の心の声が激烈に響きます。
モルソーフ夫人が今際の際に交わされる、フェリックスと夫人の娘マドリーヌとの会話が強烈で、マドリーヌから「……あなた(の所為)よ。どこまでも、あなたよ!……」とやりこめられるフェリックスの姿を想像して、少々スッキリさせられたのは私だけでしょうか?
そんなマドリーヌにもひじ鉄食わされ、ナタリーって伯爵夫人にもフラれたフェリックスに、これまた歪んだカタルシスを感じてしまいました。ラストのナタリーの手紙、おかしくて痛烈♪
「礼儀とは、つまり他人のために自分を忘れているような態度をとることです」
「他人の幸福っていうことが、自分はもう幸福になれない人間にとって何よりの慰めなの」
「こうして幸福を求める感覚と欲求とが神様から授かったものだとしたら、この世で悲しみにしかめぐり会えなかった清浄な人たちのことを、神様はきっとお考えになって下さるはずですわ。それはもう確かにそうですわ。
さもなければ、神様というものはこの世にいらっしゃらないか、それともあたしたちの生涯があくどい冗談なのか、どちらかですわ」
…400ページ弱の退屈なトンネルを抜けると、とてつもない残酷な真理に邂逅します。アナタも耐えてみる?(←退屈だったのは、王ちゃんだけかもしれませんし☆)