2017年度灘中入試算数二日目大問4番
最も話題になりそうな問題でしたので、僭越ながらどこよりも早く解説を投稿させて頂きます。
中学数学において三平方の定理の証明などによく使われる図の応用ですが、そんなことを知っていることを問うているわけではありません。
真面目に真正面からぶつかってなんとか解くことも出来ますが、ちょっと視点を変えて“ナナメ”から見るだけで、「なんだ!そんなことだったのか!」と、あっけなく解けてしまうという、灘中の算数らしい、素晴らしい問題だったと思います。
(1)
これはよくある問題です。りんぺん比のかけ算の仕組みを日頃から理解して使えている人にとってはなんてことなかったでしょう。
和が180°になる角をはさむ2辺のりんぺん比のかけ算=面積比、ですから、
真ん中にある3:4:5の直角三角形ABCの面積と、そのまわりにある△AHG、△BID、△CEFの面積はすべて等しくなります。
したがって、3×4÷2×4+3×3+4×4+5×5=74(㎠)
(2)(3)
人は、視界に入る景色を、縦方向、横方向に分けて脳内で処理するものです。
しかし、脳が優秀な人は、景色を縦方向、横方向に分ける前に頭の中でいろいろと回転させることができます。そして、どの軸を縦方向、どの軸を横方向にするのが景色を捉える上で最適なのか、判断しようとします。
この問題はまさにそういった、優秀な脳を持っているか持っていないかを判別するのに非常に適した問題だといえます。
見える景色をちょっとナナメから見てみると、意外と世界は単純だったりするのです。
つまり、こういうことです。以下の図をご覧ください。
ナナメに傾いた正方形を別の正方形で囲む、ということを経験したことが無い人は灘中受験者の中には絶対いないと思います。しかしその多くは、ナナメに傾いたものをまっすぐな正方形で囲むことがほとんどでしょう。今回の図形は、ナナメに傾いた図形をさらに別のナナメ図形で囲むことがポイントです。まっすぐな縦線、横線という世界の常識が必ずしも最適解ではないんだよ、さらに違うナナメ軸が正しかったりするんだよという、日本一の学校が出題する問題のメッセージとしても、素晴らしい含みだと思います。
最適なナナメの世界でこの図形を捉えることが出来れば、答えを出すのはいとも簡単です。
(2) JK=20(㎝),LM=8+4+4=16(㎝),NO=3+3+6=12(㎝)
(3) 20×22-(3×4÷2+4×6÷2+12×16÷2+3×8÷2)=314(㎠)
多くの受験生や塾の先生たちは、この問題を解く中でややこしい小数、分数(6.8や8.2など)と出会い、ややこしい計算処理と格闘したのではないかと思います。(※1/21加筆 能開センターの解説は、まさにそのような解説でした)
それで答えを出し切るという力技も、時には大切だと思います。しかし、日本一の学校「灘中」が本当に求める人材は、そのレベルではないのです。上記の解き方の中に、ややこしい小数や分数は出てきません。
私たちのような「優秀な人材を育てる」という仕事を担う者は、この灘中からのメッセージを真摯に受け止め、優秀な能力とは何か、エリートを育てるとはどういうことかをしっかり考えなければならないと、改めて痛感させられる問題でした。
色々な解法が考えられるという点においても、灘中の算数は素晴らしいですね。
■■算数ソムリエ■■