かなり久しぶりのブログ更新。
9月7日(土)に開催されたシルク・サミット in 前橋 vol.2 に行きました。
このサミットは2016年の初開催につづき2回目です。前回のサミットにも参加しましてブログを書きました。ご興味ありましたら「シルクサミット in 前橋にて その1」「シルクサミット in 前橋にて その2」へ。
さて、vol.2 のテーマは「スイス・イタリアと藩営前橋製糸所」。
藩営前橋製糸所は、官営富岡製糸場より2年早い明治3年に前橋藩の速水堅曹らを中心に創業した日本初の洋式器械製糸場です。この時に前橋藩は小規模工場向きのイタリア式の器械を採用しました。その助言を行ったのは、横浜在住でスイス領事のシーベル、技術指導をしたのはスイス人のミューラーでした。前橋とスイス、イタリアとは歴史的つながりがあるのですね。パネラーは速水堅曹研究会代表の速水美智子氏、東京大学大学院教授の鈴木淳氏、大阪芸術大学教授の石井元章氏、東京農工大学科学博物館特任助教・学芸員の齊藤有里加氏を迎え、コーディネーターは前橋学センター長の手島仁氏でした。
今シンポジウムの中に、官営富岡製糸場で採用されたフランス式抱合装置と藩営前橋製糸所で採用されたイタリア式抱合装置についての話がありました。この抱合装置は、製糸の歴史を少し勉強すれば直ぐに出てきます。これを取り上げるのは必然ではあるけれど、器械製糸を知らないと何のこと?というようなマニアックな内容です。けれど会場はほぼ満席でした。聴講した皆さんがここに熱い視線を向けているのであれば、すごい。製糸について群馬県内で面白い内容をぶつけてくれるのは前橋市だと、わたしは常にリスペクトしています。特に手島氏の話は面白いし、解説が丁寧でわかりやすいのです。今回も楽しみにしていたわけですが、実はこの大事な話をほぼ聞き逃してしまいました。遅れた理由は仕事なので仕方がないのですが。
わたしが会場入りしたのは、抱合装置の話のまとめの途中部分からでした。速水氏は、抱合装置の「共撚り=フランス式」、「ケンネル=イタリー式」と名称付けて分類し語られるのは日本国内だけではないかというお話をされていたように思います。速水氏が訪問したイタリアの博物館の写真を一部見ることができました。共撚りの変形型でユニークでした。その展示物からも、共撚りをフランス式と断定するのは違うのではとおっしゃっていたと記憶します。速水氏の報告後、各専門家の視点で話を深く掘り下げたり、拡げていったところは聴講できて面白かったです。
このユニークな展示があるのは、イタリアのAbegg Silk Civic Museumのようです。訪ねてみたい外国のシルクミュージアムが1つ増えました。このミュージアムの動画を見つけたので貼り付けます。
他、明治時代に出版された製糸書「伊国伝法製糸全」が紹介されました。製糸技術者の圓中文助がイタリアで学んだ技術を記した書籍で速水堅曹も係わっていました。この書では4つの抱合が紹介されており、その1つに共撚りの図があります。
後日の上毛新聞にサミットの記事がありました。『速水さんは生糸のまち前橋発信事業委員として昨年、イタリアで行った調査研究を発表した。国内では一般的に、富岡製糸場が導入した生糸の抱合装置を「フランス式」、前橋製糸所が採用した装置を「イタリア式」と呼んできたが、富岡の装置も北イタリアが発祥だと指摘した。』とのことです。最初から聴講できなかったことが本当に悔やまれました。
こちらは、葵町製糸場の繰糸器図面とその復元図です。この画像は東京新聞のウェブから拝借しました。
2017年に東京農工大科学博物館で、現在の東京・虎ノ門付近にあった葵町製糸場の図面が発見されました。わたしは同年11月の企画展に行っています。ご興味ありましたら「製糸関連の企画展2ヶ所」へ。
ミューラーは藩営前橋製糸所の指導後、築地の小野組製糸場、勧工寮赤坂葵町製糸場の指導をしました。この3つの製糸場の製糸器械は同型なのだとか。器械の配置などからもミューラーによるイタリア式の製糸場だということが判明しているようです。現在、図面から製糸場全体の仕組みや器械を解明しようと、同大の研究者や学生らが図面を読み解き、3Dデジタル化に挑戦しているそうです。今回は、その復元図の途中経過が発表され、大枠が動くところを見ることができました。
2020年9月は藩営前橋製糸所の創業から150周年にあたるそうです。このサミットはオリンピックの誘客も含めて調査や、関連資料をブックレットにしています。来年は製糸関連の大きな企画があると嬉しいです。サミットの最後に手島氏が建物の復元に触れていました。具体的な話ではなさそうですが、繰糸器械の3Dデジタル化だけでなく、建物が復元されるなら最高です。今後の動向にも目が離せません。