この7月、当館としてはたいへん珍しい仕事をさせていただきました。

 

群馬県前橋市にあるアーツ前橋さん(以下、アーツ前橋)の事業です。アーツ前橋では、国内外のアーティストを招聘して滞在制作事業を行っています。この事業で、6月からニューヨークを拠点に活動しているアーティストのケレン・ベンベニスティ(Keren Benbenisty)さんがいらしていて、春蚕期の飼育中から何度か来館いただいていました。

ケレン・ベンベニスティ 滞在制作

 

 

 

 

 

 

ケレンさんは、過去から現在に至る時間や、現代における言語の概念を古代の起源に結びつけることなどをテーマに様々なメディアを用いて作品を制作しています。これまでの作品にも登場する「水」を中心に、前橋市の中心を流れる広瀬川や利根川の変遷や市内を流れる水質について調査しました。それらのリサーチをもとに、絹蚕業の盛んだった時代の生活や産業と水の関係についてさらに深く調査して行ったようです。(アーツ前橋HPより)

 

そのなかで、当館の座繰りにも関心を持っていただきました。座繰器を回し、繭から糸を引き出す行為が「過去を巻き取る作業のようだ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。そこから「過去を映し出すフェィルム」をメタファーする作品をということで、何度も意見をやり取りして本番に臨みました。

 

ケレンさんは、自分の考えを押し付けるのではなく、彼女の言葉からわたしが感じ取って形にして行くことを楽しんでくれました。わたしの仕事は染織に耐えうる糸作りですから、それを守るためには製造において最低限押さえておくべき条件というのがあるのですが、今回の依頼では「irregular」という、製糸の製造ではダメな事が要求されました。これが結構楽しかった。大げさな云い方ですが、これまで蚕を育てることや糸を作ることで自分が知ったことを少しケレンさんに提供できたのではないかと思います。これをケレンさんに見てもらいたいなというものが現れたときに、ふと、学生のときに読んだフンデルトヴァッサーの本を思い出しました。たしか、芸術家は植物を育てるべきだ・・・だったかな?そういうようなことを書いてあった気がします。わたしは芸術家ではないけれど、20年くらい経ってその言葉が実感としてちょびっと理解できた気がしました。

 

 

 

 

 

 

昨日は、その制作過程の公開イベントがありました。夕方からはアーティストトークもあったので伺いました。今日(7/23)もオープンスタジオが開催されていますので、ぜひ足をお運びください。

 

● オープンスタジオ

日時:7月22日(土)・23日(日) 13:00〜19:00

場所:竪町スタジオ(群馬県前橋市千代田町2-4-1)

※ 建物裏手にコインパーキング有り