突如、彗星の如く日本に現れた新進気鋭の画家・魔魅夜。
バンクシーの様に神出鬼没で、誰も素顔を知らない。
時々、ふと思い立ったように、青山の画廊で個展を開く。
絵の販売は代理人が仲介し、本人は現れない。
性別も年齢も不明で、有名なアーティストが名を伏せて、本業の傍ら道楽で描いている。
そんな噂もたった。
オリンポスの神々を思わせる薄い衣をまとった美しい女に、邪悪な笑みを浮かべた悪魔が忍び寄る絵。
その代表作が公開されてから、ネット上でまたたく間に話題になった。
五分間その絵を見つめていると、全身から性欲が泉のように湧き出してくる。
『淫らな気分になる』
『すぐに誰かと交わりたくなる不思議な絵』
Twitterも賑わった。
長年連れ添い、セックスレスになった熟年夫婦や、一夜のアバンチュールを楽しむ行きずりの男女。
夜の世界で生きる美しい蝶たちのアフターライフ等々、魔魅夜の絵に魅せられるファン層も多岐にわたった。
本人の手によるレプリカ(複製品)は飛ぶように売れた。
『これは、少子化に歯止めをかける起爆剤になるんじゃないか?』
一部の政治家達も注目し始めているという、
”魔魅夜の絵”。
隆二と廉は、ベージュのスポットライトに照らされた一枚の絵の前に立った。
つづく