「薄着だね、寒くないの?」
「私服のセレクトしくった…」
「今日は流石に冷えるぞ」
「鍛えてるからヘーキだよ、早くメシいこーぜ」
少し前を歩く臣を見る。
今年流行りのふわもこコート。
俺の好きなふわもこ…
俺がなんで今夜ふわもこ着てこなかったかって?
…臣はそんな些細なこと、気にもしてないか。
隆二、寒くねぇのかな?
薄いパーカーだけなんて。
風邪引いてもしんねぇぞ。
俺のコート黙って着せてやろうか?
余計なお世話だって言うかな?
そんな取ってつけたような思いやり…
ガラじゃねぇし、やめとくか。
…んだよ、コート貸してくんねぇのかよ。
気が利かねぇのか、照れくさいのか。
うー…寒くて凍えそうだ。
「階段所々凍ってるぞ」
「上から落ちてくんなよ、臣」
足場を確認しながら臣の後を隆二がついていく。
臣の奴…
あやみちゃんにはあんなに自然に手を差しのべて、優しくエスコートしてたのに…
俺にはしねぇんだ。
野郎にはしねぇか?
愛してたら、するだろ?普通…
なんかおかしな感じだよな?
ずっと後ろ歩いてるし、しかめっ面だし。
寒そうだし…
階段を登りきった所で臣が振り向いた。
「なぁ」
「んだよ?」
「前、歩いて」
「なんで?」
「いいから、早く!」
ムスッとして隆二が先に行く。
「臣ってさぁ、やっぱ女の子には優しいよね」
隆二の体をふわもこが包み込んだ。
「え?」
「お前ほんっとにわかりやすい」
「嘘つけ、俺のことなんか何もわかってないくせに」
「わかってるよ」
「どこまで?」
「全部」
「雪の華のジャパンプレミア見て妬いてんだろ?」
「妬いてなんか…」
「風邪引くからコート着ろよ、臣」
「そっか、じゃあそーする」
あっさり引きやがった…
さみ…
あれ?
二人羽織みたいになった…
「うわ!隆二、冷えきってんじゃんか…」
真後ろから臣が隆二をさすり始めた。
「はっきり言わなきゃ伝わんねぇぞ」
「何て?」
「あっためて欲しいって」
臣が隆二の手首を持って歩き始めた。
「臣、メシそっちじゃねぇよ」
「メシまた今度な」
「え?怒ったのか?」
「うん、怒った」
「ちょ…」
「マンションに帰ってすぐにお前をあっためることにした」
「え⁉︎」
「メシも食わねぇで、裸で抱き合うんだ」
臣は隆二の腕を掴んだまま、片手を上げてタクシーを止めた。
行き先を告げて、後部座席に乗り込む。
「ドライバーさん、後ろ見ないでよ」
臣は隆二の頬に手を添えて唇を重ねてきた。
「シャンパンくらいは飲みてぇな」
言葉にしなきゃ伝わらない愛がある。
言葉はなくても、行動で伝えようとする奴もいる。
「熱くなってきた…」
「良かったな」
完
昨日、通勤電車の広告を見てふと書きたくなった短編です。
ブラックジャックとドロンジョが登場する婚活の広告。
男と女の伝わりそうで伝わらない感情を、それぞれの心の声で綴っているのですが、
なんともお洒落で微笑ましくもあり、臣と隆二にも少し真似してもらいました。
目にされることがあれば、ぜひ読んでみて下さい。
本日は夢小説『NAOTO編』お休みします。
いつもご愛読ありがとうございます。