◆未来を左右する重要な都知事選◆
 報道各社による東京都知事選の世論調査では、舛添氏が先行し、

続いて細川氏と宇都宮氏が追走、そのあとに田母神氏が続く展開だ

そうだ。マスコミ報道はこの4人のみにスポットを当てている。

 今回の都知事選は、脱原発が主要な争点となっている。告示日

に細川氏の弁士として登場した小泉純一郎氏は、「原発のリスクの深刻さ

は、福島やチェルノブイリを見るまでもなく、ひとたび事故が起こったら

国の存亡にかかわる大事故になる可能性をはらんでいます。もう2年間

、原発は止まったままではありませんか。都知事の第一の任務は

都民の生命と財産を守ることです。東京から100キロ、200キロのところに

ある浜岡とか、東海第二とか、あるいは柏崎刈羽などで、もし事故が

起こったら、都民の生活、安全、財産というものは壊滅的な被害を受ける。

オリンピックや消費税やTPPどころではないんです。すべてのものが

吹き飛んでしまうわけですから。原発問題こそ、今度の選挙の最大の争点、

東京の最重要テーマであることは疑う余地がありません」と発言。

 これはまさにその通りだろう。生存基盤そのものを脅かす原発は、

即時ゼロにすべきだ。エネルギーは十分足りているにも関わらず、

地震の活性期で、いつ地震が起こるかわからない日本で原発を続ける

ことは正気の沙汰ではない。脱原発・脱被爆を訴えてきた私としては、

期限を切らず段階的に脱原発という舛添氏や原発推進の田母神氏は、

国民の生命や健康を軽視しているとしか思えないし、学習能力があるとも

思えない。

 細川氏は、小泉氏が応援についたことで、さまざまな憶測が駆け巡って

いる。しかし、福島第一原発の事故を機に、原発を推進してきた過去の

自分を反省し、改心したと素直に信じたい。引退して悠々自適な生活を

送っていたのに、わざわざ魑魅魍魎の跋扈する政界に戻ってきて

苦労する理由が見当たらない。

 TPP交渉参加や集団的自衛権の行使容認、特定秘密保護法制定に

対しても批判的というニュースを見て少し安心した。

※細川氏、安倍政権への懸念強調 都知事選で政見

(共同通信、2014年1月18日)

 ただ、国家戦略特区には賛成という立場を取ることを知り、

不思議に思った。TPPに反対なら国家戦略特区にも反対でなければ

整合性が取れない。

 小泉氏が応援していることで、新自由主義者というレッテルも一部で

貼られているようである。

 しかし、細川氏自身が「小泉さんとは脱原発の一点のみで共闘。

他は話しても合わない」と言っているように、全面的に影響を受けている

わけでもなさそうだ。

 もう20年以上も前の話なので、若い人にはわからない話かもしれないが、

当時の自民党は既得権益との癒着が酷く(現在もだが)、既得権益に囚われず、腐敗・金権政治の打倒を掲げて旗揚げしたのが日本新党である。

地方主権・生活主権を標榜してリベラルで穏健な保守政党に国民の

期待と関心が集まり、55年体制の崩壊をもたらした「新党ブーム」の

火付け役となった。

 20年前に政界の第一線を退き、隠居生活を送っていた細川氏の感覚は

、その頃のままなのではないか。当時はまだグローバルな資本の横暴は

問題になっていなかった。

 規制改革が必ずしもすべて悪というわけではない。例えば東電の

地域独占体制を改革して、電力を自由化することは国民の利益となる。

細川氏は、特区を活用して同一労働同一賃金を打ち出した。これは

国際労働機関(ILO)では原則であり、基本的人権と捉えられている。

男・女や正規・非正規、人種などで差別は禁止となるので、一概に悪いとは

言えない。ただ、かつては高い方へ同一化した賃金が、

グルーバル化が進んだ現在では安い方へ同一化する懸念がある。

 細川氏に心配な点があるとすれば、この時代感覚のズレである。

1%vs99%の対立に象徴されるようなグローバリゼーションや新自由主義の

問題に対して疎いのではないだろうか。しかし、それも致し方ない気がする。

そもそも政治の世界に戻るになど更々なかったのだから。このままでは

日本が滅びる。その危機感が細川氏を突き動かしているのだろう。

 余談ではあるが、細川氏が立候補するとすぐ佐川急便からの

1億円借り入れ問題が再燃した。この問題を当時国会で追求していた

自民党の白川勝彦氏や村上正邦氏が「あれは細川氏を政権から

引きずり下ろすためのデッチ上げ」だったと告白している。小沢一郎氏が

政治資金報告書の期ズレを闇献金のように情報操作されて引きずり

下ろされた手口と同じだ。

※白川勝彦氏ブログ「佐川1億円は、完全時効。」

※細川氏佐川問題追及の張本人 あれは「デッチ上げ、無茶苦茶

」(NEWSポストセブン)

 宇都宮氏は、政策的には申し分ない。日本弁護士連合会の元会長であり、年越し派遣村の名誉村長、地下鉄サリン事件に対する弁護団の団長、

サラ金の高利を大幅に引き下げるグレーゾーン金利を撤廃させる

貸金融法を成立させた宇都宮けんじ氏は、まさに弱者の味方であろう。

 TPPや国家戦略特区にも明確に反対の立場を表明し、

働きやすい職場環境をつくるブラック企業規制条例や

長時間労働やサービス残業を止めさせる過労死防止条例など、

規制緩和とは真逆の弱者を救うための具体的な規制強化を打ち出している。

 ただ、心配な面もある。それは知名度の低さで、当選する確率が低い。

いくら素晴らしい政策でも当選できなければ絵に書いた餅である。

そして、仮に当選できたとして自民・公明が多数を占める都議会の中で

自らの政策を実行できるだけの政治力があるかどうかは未知数だ。

 2月9日の東京都知事選は、日本の将来がかかる重大な選挙である。

下馬評では舛添氏が有利だが、投票率が60%を超えれば、

誰が勝つかわからない。

 ダボス会議に先駆け、国際NGOのオックスファムが、世界の経済格差は

制御できる範囲を超えており、世界で最も裕福な85人の資産は、

世界人口の半分の資産合計に匹敵すると指摘する報告書を発表した。

多国籍企業や最富裕層が、自らの利益に資するように政治に働きかけ、

経済ルールを操り、民主主義を損なうようなやり方で富を蓄積、

他のすべての人々を犠牲にしていると報告している。安倍首相が

目指す世界そのものではないか。原発も重要な争点だか、TPPや

国家戦略特区も破滅的な影響が出る大問題であることを認識した上で

都民の皆さんには、大事な選挙に臨んでいただきたい。

(安部芳裕 プロジェクト99%代表)

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