朝日新聞・名古屋2013.2.26を入力してくださった方より:
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核融合研  新実験を準備
自治体  協定調印を来月末判断
「地上に太陽を作る」と例えられる核融合発電の実現に向けて、自然科学研究機構・核融合科学研究所(岐阜県土岐市)が新たな実験を始めようとしている。
事実上のゴーサインとなる協定を結ぶのか、地元自治体は3月末をめどに判断するが、市民の中には原発とどう違うのか」と不安視する声もある。

重水素使い超高温に

JR多治見釈から車で約15分。分厚い扉をくぐると、10階建てのビルを吹き抜けにした空間に直径約14メートルの円形の装置がある。
電気を帯びた高温のガス(プラズマ)を作る大型ヘリカル装置だ。
装置の中心部は、リング状のステンレス製真空管に超伝導磁石2本がらせん状に巻き付けてあり、ねじれたドーナツのような形だ。
この真空管に水素などを入れて加熱し、電子レンジで使うマイクロ波を当てると、電子と原子核がバラバラに飛び交うプラズマ状態になる。
核融合発電は、プラズマ状態の原子核がぶつかり合って融合するときに出るエネルギーを使って、発電用のタービンを回そうという試みだ。
核融合は太陽の中心部で起きている反応だ。
太陽の中心部では、非常に高圧な環境の中で水素の原子核が融合し、エネルギーが生まれている。
だが、太陽と同じ環境を地球上で再現するのは難しい。
そこで、太陽より低い圧力でも原子核が激しく運動できるよう、太陽より高温の環境をつくる研究が進められている。
核融合研では、太陽の中心温度の8倍の1億2千万度のプラズマをつくるのが目標だ。
2011年度には、水素を加熱して8千万度を逮成。
今後、水素より風い重水素を加熱し、目標達成をめざす。実験は9年計画で、早ければ15年度にも始めたいという。

「核」に住民から不安

7日、岐阜県多治見市の文化会館に400人を超す市民らが集まった。
核融合研の新しい実験について賛否両方の意見を聴くために市が主催したシンポジウムだ。
「核」という言葉から、質疑応答では不安がる声も多く聞かれた。
核融合発電はウランなどの核燃料を使う原子力発電と違い、海水中の重水素とリチウムからつくる三重水素(水素の仲間の放射性物質)を燃料に使う。
核分裂反応が暴走したり、使用済み核燃料のような高レベル放射性廃棄物が出たりしない点が特徴とされる。
もともと核融合研では、リチウムや三重水素を燃料にした核融合実験は計画していない。
ただ、今回取り組もうとしている重水素を使った実験でも放射線(中性子)と三重水素がわずかに発生するため、この点が論議の的になっている。

中性子は実験室の機器や壁を放射性物質に変えるため、一定期間は管理が必要になる。
これについて小森彰夫所長は「実験で出る放射能レベルは低く、コンクリートは1年、ステンレスの機器も40年で、法令上は放射性物質として扱う必要はなくなる」と話す。
三重水素は川などの環境中や人聞の体内にもある物質。
実験では、年間で最大0・14ミリグラム発生するが、90%以上は除去装置で回収でき、最終的に施設外に出る濃度は体内の濃度より低いとしている。
小森所長は「機器が壊れて実験室内に年間の最大量がすべて漏れ出しても、法令で定められた濃度限度を下回り、健康への影響はない」と話す。

重水素を使った実験は、当初、01年に始める計画だった。
準備が進んでいた1998年、三重水素を含む排水を研究所が公共下水道に流す計画であることが発覚。
周辺住民の反対の声が強まった。
対立は公害調停にまで発展したが、納局不調に終わり、以降、10年以上、実験は見送られた。
この間、07年ころには、研究所が排水を日本アイソトープ協会に引き渡すことなどを定めた安全管理計画を作るなどし、地元の理解を得た。
一時は協定の調印も近いと見られたが、東日本大大震災の発生で再び慎重な意見が強まっていた。

シンポジウムに参加した「多治見を放射能から守ろう!市民の会」の井上敏夫代表は「福島原発事故の教訓として、これ以上放射能を発生させてはならない」と主張する。
核融合研と周辺自治体が安全管理の徹底を約束する協定を結べば、事実上、実験に合意することになる。
岐阜県と土岐、多治見、瑞浪の県内3市は3月末をめどに結論を出す方針で、「市民の意見も踏まえて判断したい」としている。(鈴木彰子)