●竹之御所流三光院精進料理の特徴その二『視覚を楽しませる』
「皿の上に乗るものは、全て食せるもので構成される」これは一般的な精進料理に共通する規則です。
一方で竹之御所流においては、皇女向けに発展してきた歴史的な背景もあり、そもそも食することを目的としない快敷(カイシキ)や飾り花と呼ばれるものがお皿を彩ます。
お姫様の視覚を楽しませる、という趣きです。ただあくまで元お姫様に対してのものですから、過剰に華やかにすることはありません。
尼寺であると同時に禅寺として存在してきた比丘尼御所ですから、築き上げられた精神的価値観は「華美」ではなく「雅寂(みやびさび)」なのです。
例えば最初の一皿に乗せられる快敷は、南天の葉になります。これは言霊信仰による祈りの表現です。
古い時代、食中毒はどうして起こるのか解明されていませんでした。悪霊のせいにされていた時代もあったようです。同じ食材を、同じように調理しているのに、体調を崩し、命を落としてしまうこともある。これは深刻な問題でした。
南天の言霊とは、今様に表現すれば親父ギャグと称した方が分かりやすいでしょうか。「難を転じる」という同音異義語に言寄せているのです。今日も無事にお食事が済ませれますように、という祈りの気持ちが、一番最初のお皿に込められているのです。
一方で、全ての快敷や飾り花に意味が込められているわけでもありません。単純に美しく視界を喜ばせる演出にも使われます。
三光院では器も含めた料理を、美しい絵画に例えます。人々を惹きつける絵画に絶対解の意味合いを求めるのは無粋です。理由がなくても美しいものは伝わります。
例えば批判されがちな飾り花に水無月(六月)の紫陽花があります。三光院では薄い水色の可愛らしい紫陽花を、料理を彩る飾り花としてお皿に添えます。
しかし「毒がある植物を食事の皿の乗せるとは何事だ!」「謝罪しろ!」などと、実際のお客さんではほぼいないのですが、問い合わせをいただくことがあります。もちろん特徴でもあり誇るべき食文化との自負があるために、それだけで止めることはないのですが、理解されないのは悲しいことです。
ちなみにですが、京都の大学の研究により、国産の紫陽花からは毒素は検出されなかった事実はお伝えしておきます。三光院でも外来紫陽花は自生していますが、お皿に乗るのは国産の水色の紫陽花と決めています。
そもそも紫陽花で毒素がある部分は葉の部分ですし、何より飾り花は食すものではなく、視覚を楽しませるものなのです。
季節により変わる快敷や飾り花を、どうぞ食べずに楽しんでください。