中国から、国のエネルギー政策の根幹をなす原発を輸入する | 産経新聞を応援する会

産経新聞を応援する会

庶民万民を宝とされ「おほみたから」と呼ばれた皇室は日本のみ 陛下のもとに全ての国民は対等 法の下に対等です 人権は尊重されて当然ですが利権ではありません 産経新聞の応援を通して日本を普通の国にしよう

【九州から原発が消えてよいのか】第10部(3)中国から輸入? 悪い冗談に現実味/“非科学的”な規制委の態度、いなくなる技術者                産経新聞

lif1507010003-p1.jpg
運転停止に追い込まれた近畿大の原子炉=大阪府東大阪市(甘利慈撮影)運転停止に追い込まれた近畿大の原子炉=大阪府東大阪市(甘利慈撮影)

 出力1ワット。日本の原子力研究と人材育成に半世紀にわたって重要な役割を担ってきた原子炉が昨年2月5日、停止した。蛍光灯すら点灯できない原子炉に、原子力規制委員会が、出力何十万キロワットという商用原発と同様に、安全対策を求めたからだった。

 この小さな原子炉は、近畿大の原子力研究所(大阪府東大阪市)にある。炉は円柱状で直径4メートル、高さ2メートル。起動から核分裂反応が連続する臨界、そして停止という一連の作業を実習できる。九州大や大阪大の学生も含め、年間約200人の学生がここで学ぶ。

 その原子炉に平成25年12月、原子力規制委員会が、非科学的としか言いようがない方針を示した。

 商用原発と同様に、地震や竜巻、周辺の化学工場の爆発、飛行機の落下に至るまで多岐にわたるリスクを想定して、安全性を証明するよう求めた。

 「原子炉といっても、豆電球ほどの熱も出ないんですよ。当然、核燃料が溶け落ちるメルトダウンも、絶対に起きない」

 近大原子力研究所所長の伊藤哲夫はこう語る。
 それでも、原子力関係者にとって規制委は“絶対”の存在だ。近大の原子炉は停止に追い込まれた。再稼働には、規制委の安全審査に合格するしかない。

 近大は昨秋、規制委に審査を申請した。審査には膨大な書類が必要となる。教授ら5~6人が授業の合間に作っているが、全体の約2割しか進んでおらず、再稼働の見通しはまったく立っていない。

 こうした実験・研究炉は、京都大も大阪府熊取町の実験所に2基持つ。こちらも、昨年5月までに運転を停止した。日本の学生は、国内で原子炉を学ぶ機会を奪われた。

 近大は、実習の場を韓国に求めた。昨夏、ソウルの慶煕大の原子炉を使わせてもらい、起動から制御までの作業を学生に実習させた。近大は今年も同様に学生を派遣するが、期間は計1週間程度で、人数も20人程度に限られる。自前施設を使えない辛さがここにある。

 伊藤は「原子力関連の人材育成は国をあげて取り組むべき重要な課題だ。優秀な学生が、希望をもって勉強ができる環境を早く取り戻したい」と訴えた。

 × × ×

 資源小国日本にとって、冷静に考えれば原発は欠かせない。

 2030(平成42)年の電源構成比(エネルギーミックス)の政府案でも、原発は総発電量の20~22%を占める。

 一つの原発を運営するには、保守点検を含め数千人の技術者が必要とされる。福島第1原発の廃炉作業も数十年がかりだ。原発の運営も廃炉も、高度な技術を有する人材を、次々と育てなければならない。

 しかし、東京電力・福島第1原発事故の後、商業用原発ばかりか実験・研究炉まで運転停止に追い込まれる状況に、技術者の卵は「原子力は将来に展望がない」との印象を抱く。

 原子力の平和利用を目的に経済界などでつくる「日本原子力産業協会」は毎年、就職活動中の学生を対象に、原子力産業セミナーを開いている。参加者は、福島の事故前まで右肩上がりを続け、22年度は1903人に達した。しかし、事故後の24年度は388人と5分の1にまで落ち込んだ。26年度も393人とまったく回復していない。

原発業界が敬遠される大きな理由の一つが、規制委の姿勢だ。

 もともと規制委は、福島第1原発事故を教訓に、原発の安全な運転を目的とする組織として、平成24年9月に設立された。

 原子力規制委員会設置法第1条にはこう記される。

 「確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、(中略)もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」

 にもかかわらず、規制委は再稼働にブレーキを踏むことに血道を上げている。原子炉の大小に関係なく、一律の安全基準を求める姿勢は思考停止であり非合理だといえる。その姿勢が、原子力のみならず、放射線治療など医療分野の停滞も招く。

 九大工学研究院エネルギー量子工学部門教授の池田伸夫は「研究用原子炉は貴重な道具なんです。運転停止が長引けば、中性子を使った研究がすべて止まってしまう」と危惧する。

 × × ×

 国外に目を転じれば、福島第1原発の事故後も、電力の安定供給に向けて、原発を必要とする潮流は変わらない。

 原発新増設に最も力を入れているのが中国だ。

 中国はロシアの技術をベースに今年4月時点で23基の原発が稼働する。これは世界で稼働する原発431基(1月時点)の5%に当たる。経済発展とともに、エネルギー不足に悩む中国では、技術の国産化をねらって原発ラッシュが続く。

 現在、26基の建設が進んでおり、今年中にさらに6~8基の建設が始まる。エネルギー問題に詳しい民間シンクタンク「テピア総合研究所」によると、発電事業者の計画ベースも含めると約280基の設置場所が決まっている。

 中国は、海外への輸出にも動く。

 パキスタン、アルゼンチン、ルーマニア…。中国のメディア「人民網」などによると、今年に入ってからだけで、これだけの国が中国製原発の導入を決めたという。

 今後、中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)と組み合わせた原発輸出も視野にあるとみられる。

 韓国もまた、原発輸出大国を目指す。

 2009年12月、世界中の原発関係者を驚かせるニュースが駆け巡った。アラブ首長国連邦(UAE)が初めて建設する原発を、韓国系企業が受注した。ライバルのフランスメディアは、ナポレオンが敗れた「ワーテルローの戦い」になぞらえた。

 もちろん、原発推進は中国や韓国だけではない。

 米原子力規制委員会(NRC)は、2012年2月に、南部ジョージア州のボーグル原発3、4号機の建設を認可し、翌3月には南部サウスカロライナ州のV・Cサマー原発2、3号機の新規建設も承認した。

 日本も巻き返しを図る。トルコに対し、首相の安倍晋三によるトップセールスで原発輸出に成功した。

 2000年代、世界で先進技術をもつ原発メーカーといえば、仏アレバ、米のゼネラル・エレクトリック(GE)とウェスチングハウス(WH)、そして日本の東芝、日立製作所、三菱重工業だった。その後、東芝がWHを買収し、日立とGEが原子力部門を統合した。アレバも原子炉事業の売却交渉に入ったとされる。

今後、中国や韓国メーカーも巻き込み、さらなる合従連衡が想定される。国内の原発が動かず、技術者育成も進まないままでは、この激流の中で、日本は長年培った技術を手放すことになりかねない。

 テピア総合研究所の主席研究員の窪田秀雄は「新しい炉の建設がなければ、技術の維持や発展は難しく、産業基盤が失われていく。人材が払底し、技術がなくなれば、原発が必要になったときに、海外から輸入せざるを得なくなる」と語った。

 わが国に対する安全保障上の脅威が高まっている。中でも、中国の海洋進出は深刻な問題だ。その中国から、国のエネルギー政策の根幹をなす原発を輸入する。これをブラックジョークと笑い飛ばせない現実がある。(敬称略)