BS放映「ひかりふる路」を視聴して思いました | 45分で夢の世界へ

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宝塚歌劇や旅行について語ります。

 7月初めの日曜日未明に放映され、やはりリアルタイムで視てしまいました。

 
 時刻としては視聴に厳しい放映。ですが、今回はおそらくプレ放映で、当初の案内の通り8K放送が始まれば、改めて(もうちょっといい時間に)放映があると思います(今回は4K、「ひかりふる」は8Kで収録されています)。
 
 「ひかりふる路」は、改めて視ても非常に緻密に創られた脚本であることに感心します。ただお芝居の密度が濃すぎて、小生のようなどんくさい感性では、最初はところどころついていけませんでした。
 ですが、観劇を重ねるうちに、感動がどんどん大きくなっていったことを思い出しました。
 
 「ひかりふる路」といえば、やはりだいもん(望海風斗)ときいちゃん(真彩希帆)の歌唱の輝きと、それを引き出したワイルドホーン氏の作曲が最大の魅力でしょう。
 なかでも多くの方の印象に残ったのは「葛藤と焦燥」だと思います。この曲で得る「高揚感」の源泉は、輝かしい声の魅力だけではありません。曲の成り立ち(スタイル)にも在ると考えます。
 
 登場人物が互いに相手に対する思いを、「直接にではなく」歌い上げる・・・というスタイル。
 その思いは相反するもので、歌詞としてはぶつかりあうのですが、音楽としては響き合い、ハーモニーまで奏でる。
 相反するだけに、それぞれの思いは、より切なく聴く者に伝わってくる…。
 「葛藤と焦燥」では、舞台中央でも、翔君らによる緊迫したお芝居が展開しており(ここはBS放映より、ディスクの方がカットが素晴らしいですが、)、視覚も含めててんこもり過ぎかもしれませんが、名場面であると言えると思います。
 
 ドラマティックな表現をねらったこの楽曲。高度な表現のできる歌い手と、その歌い手に合った、効果的な表現を湛えた曲創りのできる作曲家が揃ってこそ成立したというのはいうまでもありません。
 
 そして、このような楽曲は、例えばご存知の通り、特にヴェルディのオペラの中にたくさん登場します。
 
 「アイーダ」第一幕のアイーダ・ラダメス・アムネリスの三重唱、第一幕(凱旋の場の)フィナーレ。
 「リゴレット」第三幕の四重唱、トロヴァトーレ第四幕のレオノーラとルーナ伯爵の二重唱、などなどです。
 
 どれも、とても盛り上がる印象的な名場面です。
 
 ではありますが、やはり、
 一般的なのは、相対する人物が、互いに思いをぶつけ合う重唱です。それこそ宝塚の演目でも素晴らしいものがたくさんあると思います。
 
 ですが、
 上のような「相手に対する思いを、直接にではなく歌う」というタイプの重唱は、宝塚ではあまりお目にかかりません。
 小生が思いつくのは、やはりワイルドホーンさんの作品。スカーレットピンパーネルから、「謎解きのゲーム」ですね。アイーダ第一幕のフィナーレと似て、大いに盛り上がって幕が閉じます。
 
 ワイルドホーンさんは、さすがにミュージカルの職人で、オペラや他のミュージカルに使われる手法を、確かに身に付けていらっしゃるのでしょう。スカピンなどは、構成曲それぞれの美しさもありますが、それらのバリエーションにもやはり感心します。表現手法の引き出しを、たくさんお持ちなんでしょう。
 
 宝塚のミュージカルが、音楽的に物足りなく感じられることがあり、なかなか「歌で盛り上がる」ものになりにくいのは、このような「歌のスタイルのバリエーション」をあまり追求してこなかったからかもしれません。
 
 雪組のトップコンビであれば、どんなスタイルであっても自分達のものにし、豊かな表現に昇華させ、私達に提示してくれると思います。
 せっかくのスペシャルな能力を持ったコンビです。劇団は彼女らの可能性を、もっと拡げることのできるような機会を用意してほしい。そして彼女らもそれらに挑戦し、これからも多くの名場面を創っていってほしい。
 
 楽譜に表わされたものを、きちんと現実の舞台の上に立ち上げ、私たちに見せてくれるることのできるコンビです。
 
 そんなことを思ったのでした。
 
 (追記)
 ル・ミュゲ第一幕のフィナーレもそんな感じでしたね。でもあそこも、全員歌うまさんではありました。