佐伯啓思の賢者に備えあり アベノミクス1年、真の課題はこれから | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

佐伯啓思の賢者に備えあり アベノミクス1年、真の課題はこれから
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安倍政権が誕生して約1年になる。1年前は民主党政権であった。経済は停滞し、外交は進展せず、震災復興や原発は先行きが見えず、といった状態だった。
 


安倍政権の最大の成果は、何と言っても、この停滞したムードを一気に取り払った点にある。実際、この1年で社会のムードは大きく変わった。民主党時代のあの沈滞した雰囲気は一気に取り払われた。
 


社会のムードを変える、というのは政治的なリーダーの大変に重要な仕事であって、その点では安倍首相は優秀なリーダーだということになる。


実際、前回の安倍首相の途中退場の記憶が残っているので、この首相がこれほどまでに果敢で大胆なリーダーシップを発揮すると予測した者はほとんどいなかっただろう。
 


しかし、内実をもう少し見れば、それほど無条件で楽観できるものでもない。
 


たしかに、「アベノミクス」の超金融緩和の第1の矢と財政出動の第2の矢によって経済はよくなっているようにみえる。とりわけ株式市場は民主党政権時代よりも70%ほども株価を押し上げた。


各種の景気指標も景気の回復基調を示している。デフレ脱却もめどがついてきた。これらは、「ともかく何でもやる」という安倍流経済政策の成果であろう。
 


しかしまた、「アベノミクス」が相当に不安な綱渡りを強いられていることも事実である。超金融緩和がうまく2%程度のインフレを実現して、そのあたりで止まってくれる保証はどこにもない。


むしろ、それが金融市場で過剰な流動性による投機を刺激する可能性はかなりある。株価はほんの少しの事態に反応するので、その動きそのものが不安定なのである。
 


また、財政出動はどこまで景気を押し上げるのか、これも予想しがたい。もしも、景気回復が持続的なものにならなければ、財政赤字の累積が大問題になる。そして、最後に第3の矢であるが、現在のところ、第3の矢が本当に経済成長を生み出すかどうかは不明である。
 


第1の矢によって金融市場を活性化し、第2の矢によって景気を押し上げるという、かなりアクロバティックなやり方は、いずれも短期的な効果を狙ったものだから、それが持続的な効果を持つには第3の矢の成長戦略が軌道にのらなければならない。


何やら、第1弾、第2弾のロケットに火をつけてはずみをつけ、第3のロケットにうまく点火すれば本体のロケットが飛んでゆくといった按配で、今、第3ロケットの点火待ちといった状態であろう。
 


言い換えれば、アベノミクスは時間との戦いといってもよい。第1の矢、第2の矢がそれなりに効果を持っている間に、第3の矢が効果を表して成長軌道が見えてくればすべてよし、というわけだ。


そのために与えられた時間はおそらくあと1、2年であろう。それがうまくいかなければ株式市場は一気に冷めてしまう。本当は綱渡りが続いているのだ。
 


アベノミクスに対する期待はきわめて高いのだが、それは当初、首相が述べていたように、デフレ克服、景気回復のための緊急手段と理解すべきであろう。真の課題は、その次にある。


すでにその中に入りつつある少子高齢化社会へ向けた対応、グローバルな金融市場の不安定性への対応、そして巨大地震への防災を含めた新たな国土計画の構想、といった長期的展望こそが真の課題なのである。


アベノミクスがそれなりに効果をあげている間に、これらの将来的ヴィジョンを描く必要がある。それが見えて初めて、アベノミクスの打ち上げたロケットも軌道に乗るだろう。
(京都大学教授)
ビジネス情報月刊誌「エルネオス」
URL:
http://www.elneos.co.jp/
12月号巻頭言より
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