◆書評 : 王輝『文化大革命の真実 天津大動乱』(ミネルヴァ書房) | 護国夢想日記

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◆書評 ◇しょひょう ▼ブックレビュー ■ BOOKREVIEW 
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 共産主義のおぞましさ、その非人道的な本質を知らされて中国に絶望する心理
  「反革命集団」なるものをでっち上げ中央に報告して成績を上げていた幹部ら   

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王輝『文化大革命の真実 天津大動乱』(ミネルヴァ書房)
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評 宮崎正弘

 浩瀚である。本書を読み終えて、石平氏の『わたしは毛主席の小兵士だった』を思い起こした。毛沢東革命を神聖視し、やがて裏切られ、共産主義のおぞましさ、その非人道的な本質を知らされて中国に絶望する心理の変化を詳細に綴ったのが石平氏だった。
 


本書の著者も革命を絶対視し、上の命令をなんの疑いもなく実行し、つらい調査の仕事を率先して引きうけ幾多の報告書を書いた。

 貧困な村に「腐敗」の実態調査へ行かされる。「寒風が土ほこりを巻き上げ、草も木も茶色に枯れ果て、荒涼として真冬さながらだった。村にはいると印象はさらにひどくなった。人々の顔は土気色で、眼は死んだ魚のように、まるで生気がなかった。


あるときは、村にはいるとすぐに、墓も前で泣いている人が目に入った。老人も弱者も病院も障害者も、飢えに耐えられず、多くの人々が亡くなり、どの家でも死者が出ていた」。これは文革への序走段階、衝撃的記録が開始される。

 大躍進は失敗していた。
「食糧不足、住民の流出、栄養失調による浮腫の蔓延」など悲惨な状況だったが、党中央は「三反」「五風」を標榜して幹部の「違法乱紀、脅迫的命令」の是正に着手した。


三反とは「反官僚主義、反浪費、反形式主義」。五風とは「共産風、誇張風、命令風、出鱈目な指揮風、幹部特殊化風」。そして多くの人がえん罪で裁かれ、刑務所に送られ、あるいは自殺した。

 著者が目撃したのは天津で、時の大幹部、陳伯達が視察先でささいな瑕瑾をみつけ三つの「反革命集団」なるものをでっち上げ中央に報告して成績を上げるというおぞましき実態である。


やがて毛沢東絶対視を克服した著者はこのときの調査に協力したことを反省し「胸を締め付けられる」が、あとの祭り。多くは「陳伯達の意図に沿って行動し、盲進盲従し、自らの部下のために弁解せず、陳伯達によるありもしない話と批判を真に受けた」(陳伯達はその後、林彪に連座して失脚)。

 このネガフィルムに酷似した状況がある。習近平は同様な基調のスローガンを並べて「腐敗幹部」の粛正に動き始めた。「形式主義、官僚主義、享楽主義、そして奢摩主義。これら四つの風を是正しなければならない」と習近平は言った。


反腐敗キャンペーンはライバルの複雑な告発合戦に発展し、高級たばこを吸っていたり、レストランでアワビと食べたり、カラオケ店に出入りしただけでも証拠ヴィデオがネットに流れ出すと職務停止、失脚の処分をうける。いまの中国の官僚は戦々恐々である。
 


ところが本書の結論に「文化大革命という歴史上前例のない動乱は、まさしく中国人民を覚醒させ、そこから改革開放という輝かしい道を歩ませる」とあって首をかしげる。

  (本稿は『正論』十月号よりの転載です)