第10章「修学旅行」23話

わたし達は手を繋いで、まだあふれ出てくる笑いを堪えながら、細い路地裏を歩いた。
横道に入ると、風がなくて歩きやすい。
少し行くと、右手に背の高いホテルのビルが見えた。
正面玄関はこちら側から見て、あの建物の裏側のようだ。

ホテルの建物を見たら、わたし達は自然と笑いが消えた。
楽しくて足早に動いていた足も止まった。
その建物は、わたし達の旅の終わりを告げていた。
繋いでいたこの手も、もう離さなくてはいけない。
急に淋しくなった。

「……着いたね。」
「あぁ……」
「あの神父さんの言うとおりだった…ね。」
「うん……、ほんとだ……」

廉くんの顔を見上げたら、淋しくて、少し泣きそうになった。
「なんか…、今日はずっと一緒だったから、淋しくなっちゃうね……」
「うん…、俺も……」
泣きそうだったからか、廉くんはそっと頭を撫でてくれた。
その優しい撫でる手が、余計に胸を締め付けた。

こんな風に一緒に歩くことは、しばらくできないだろう。
でも、また帰ったら、きっとすぐに会えるのに……
短い別れなのに、こんなに淋しくなっちゃうなんて、なんだか変かもしれない。
廉くんが指を絡ませてくれている自分の手を見たら、引き返してしまいたくなる衝動にすら駆られた。
でも…、きっとはるちゃんも内藤先生も待ってる……
このままここにいても、廉くんに雪が積もっていくだけだ。
見上げれば、廉くんと視線が絡んだ。
切ない目をしてる……
わたしは急に廉くんの温もりが欲しくなって、口が勝手に動いた。

「あの…、廉くん………」
「……ん?どうした?」
「あのね……」
「………?」
わたしは恥ずかしさのあまり、廉くんから目線を逸らした。

「……キス…して……」
「……えっ?」
「だから…、その……、キスして……ほしい………」
自分でも、自分の顔が茹タコみたいに真っ赤になっているのがわかった。
自分からおねだりしている事の恥ずかしさで足が震え、また涙が出そうになった。

廉くんは突然の事に驚いたのか、一瞬戸惑ったようだった。
でも、さっきの教会の方向へわたしの体を少し引き戻し、開いている方の手でわたしの頬を引き寄せると、そっとくちづけしてくれた。
冷たかった頬や唇が、廉くんの体温であったかくなる。
廉くんはわたしの唇を甘噛みして、くちづけを解くと、力いっぱいわたしの体を抱きしめて、耳元で囁いた。
「……そんなこと、俺以外のヤツに言っちゃダメだよ。」
「……うん」

そんなことわかってる。
廉くんにしかしてほしくない……
廉くんにしか言わないよ……
だって…、大好きだから……

「……俺の事、好きになってくれてありがとう。」
「廉くん……」

それはわたしも同じなのに……
嬉しくて…、あの遠い舞台にいた廉くんが、そんな事言ってくれるなんて信じられなくて……
このままずっとこうしていて欲しいって、自分の心が叫んでるのがわかった。


★キラキラ★キラキラ★★キラキラ★キラキラ★


廉くんはゆっくりと腕の力を緩めると、わたしの体をくるっと180度回転させた。
「あいちゃん、先に行って。俺、後からゆっくり追いかけるから。」
「え……?」
「いや…、二人で話しながら歩いてたら、仲いいのがバレるかと思って……」
「あ…、そっかぁ……。わかった、先に行くね!」

わたしは、廉くんと一緒にいた楽しかった一日を断ち切るように、ホテルの入り口まで走った。
さっきまで廉くんが繋いでいてくれた手が、雪と風にさらされて冷えていくのがわかる。
廉くんが後ろの方で、わたしに向かって「転ぶなよー!」と笑った。

ホテルの正面玄関まで行くと、ジャージ姿に長いダウンジャケットを羽織った人がうろうろと落ち着きなく歩く人影が見えた。
……内藤先生だ!
寒いのに外でずっと待っていてくれたんだ…!
「せんせーっ!」
落ち着きなく動きまわっていた足が止まり、振り返った。
わたしが手を振ると、内藤先生はぱあっと顔を綻ばせ、駆け寄ってきた。
「……滝本は!?」
「えっと…、後から……」

わたしが言いかけたところに、背後から廉くんの声がした。
「先生、ちゃーんといるんで大丈夫っすよ!」
にかっと笑った廉くんの顔を見てほっとしたのか、内藤先生は急に泣き出し、わたし達を熊のような大きな体でぎゅうっと一遍に抱き寄せた。
廉くんと全然違って、煙草臭く、顎が当たるとチクチクする。
鍛え抜かれた太い腕は見た目のとおり凄い力だった。
「だあーーっ!!よかったあああっ!!心配かけやがって、このォォォー!!!」
「ギャーーーッ!!やめろおおおっ!!抱きつくんじゃねええっ、お前のせいでうなったんだろうがぁっ!ヒゲが気持ちわりーんだよっ!!せっかくさっき……!!臭ぇんだよボケぇぇぇぇっ!!」

廉くんは嫌がって大暴れしていたけど、まるでお父さんに抱きしめられたみたいで、わたしはうれしかった。

すると、廉くんの叫び声で気がついたのか、ホテルのロビーからはるちゃんと、杉山先生が出てきた。
杉山先生はイライラしているのか、顔が怒りで引きつっている。
その怒りのオーラに気がついたのか、内藤先生は腕を緩めた。
はるちゃんがわたし達の後ろに駆け寄り、そっと顔を近づけ、耳打ちした。
「内藤先生、責任感じて、学年主任の杉山先生にそのまま喋っちゃったみたいなの…!」
「ええっ…!?」

すると廉くんが急によろめいた体をいつものように真っ直ぐに伸ばし、そのまま90度に頭を下げた。
「内藤先生、俺の不注意ですいませんでしたっ!!」
「……はっ!?」
「俺がちゃんと点呼してればこんな事にならなかったのに…!しかも、勝手な行動までしてしまいすいません。今朝、親友が急に熱出してたので、それで頭がいっぱいでぼーっとしてました。」
「えっ…、いや、滝本……!?」
杉山先生はゆっくり歩み寄ると、苛立った顔のまま腕を組んで、舌打ちした。
「まーた滝本かっ!!内藤先生、どういう事なんですか?私にご自分が悪いように言って、この子達をかばっていらしたの?」
「い…、いえ……。そんな事は……」

廉くんは内藤先生を遮って、また演技を続けた。
「ええっ…!内藤先生、俺の事かばってくれてたんすか!?杉山先生、悪いのは俺っす!本当にすいませんでした。」
廉くんがそんな嘘ついてくれたのは、わたしが小樽で内藤先生が心配だったことを打ち明けたからに違いないと思った。
わたしも思わず声が出ていた。
「あの…、違うんです!内藤先生は本当に悪くなくて…、わたしの不注意なんです!」
「お前ら………」
内藤先生の目から、ぽろっと涙がこぼれ落ちた。
杉山先生は簡単にそれを信じた。
「アンタ達二人っ、来なさいっ!!」

わたしと廉くんは腕を引っ張られ、杉山先生の部屋まで連行されたうえ、一時間説教を受けた。
久しぶりに一時間も正座させられて、さすがに足が痺れた。
でも、全然嫌じゃなかった。
だってその後、先生の部屋で廉くんと二人でごはんを食べさせてもらえたから。
廉くんと一緒に食べるごはんはやっぱり美味しくて、そして日常に帰った気がした。

そして次の日、わたしとはるちゃんは屋根に雪が積もった函館朝市で、廉くんに教えてもらったとおり選んで、美味しそうな蟹を自宅宛に送ってもらった。

こうしてわたし達の修学旅行は終わった。

横三角お話の続き:第10章「修学旅行」こぼれ話1


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廉のヤツ、自分でつきあってる宣言するって言っていたくせに、言わなかったじゃねーか!と思ってる方いらっしゃると思います…。ヘタレな子ですいません。次章かその次くらいでやらかすと思いますので、気長に待ってあげてください(´Д`;)
この場で言えなかった廉の心境は、ちょっと先ですが次章の2話目にちょろりんと書きたいと思っています。


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