井上夢人 プラスティック | 花の本棚

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読んだ本についての感想を載せています。
本を選ぶときの参考になれば幸いです

井上夢人 「プラスティック」
この作品が面白いと聞いたので買ってみました。

 


 
フロッピーディスクに何名かの視点で書かれた日記や話が書かれている。ある女性の視点の日記には日常生活の中に急に現れた違和感とそれに対する不安が書かれていた。彼女の夫が帰ってくる直前の日記を書いた後に、彼女は自室で何者かに殺害されているのが発見されている。その後彼女と同じマンションに住む男性がドアポストに彼女の日記が書かれたフロッピーディスクが入っているのを発見した。同じマンション内で事件があったことは既に知っており、なぜ自分の部屋にこのフロッピーディスクを投函したのか?これを書いたのは本当に事件で殺害された女性なのか?といった疑問の真相を知るために調査をし始める、というお話。
 
過去のミステリーを復刻しようという企画で発行された作品となります。最初に世に出たのが1994年で、私が買ったのは今年発行された新しい文庫本になります。
今読んでも古さが感じられず楽しめるのが本作の見所です。舞台は当時の時代のままなのでワープロやフロッピーディスクなど現代にはない物も登場していますが、ミステリーとしての構成や真相は現代でも十分に通じるものとなっています。今となっては似たような作品も当然ありますが1994年にこの構想を作ったと考えると凄いと思います。
構成も上手いですが、作中にある細やかな伏線の繋ぎ方が非常に上手いのも見所です。一見関係なさそうな描写も真相を知るとちゃんと理由があるので、隅々まで丁寧に読み込むと一層楽しめるでしょう。
 
作中のキャラの一人が「存在していたとしても、それが自分に何も関係ないのなら考慮した行動をしようとは思わない」と考えていることが描かれていました。この考え方は私も実践しているものであり、非常に共感できます。
私の考えとしては、自分の行動範囲内で存在を認識できないものはこの世にないのと同じ扱いをするようにしています。よくある躾のたとえ話で「アフリカの子供たちは飢え死にしているのだから、食べ物を残してはいけない」という言い方がありますが、両親がアフリカで実際に見たとかでない限りそんな存在しないも同然な生命体の話をしても全く意味がない、というのが私の考えです。それだったら例えば「クラスのAちゃんは親から虐待されてご飯もらえないこともあるのだから、食べ物を残してはいけない」など実際に存在する実例を言ってあげた方が確実に説得力を上げる効果があるでしょう。
私が実際にこれを使った実例として、私が社会人になって最初に配属された部署にて「お前より苦労している人がいるのだから、これくらいの仕事は我慢しろ」と当時の先輩から指摘されたときです。その時の私の返しは「同僚からパワハラを毎日受けながら、毎月60時間以上残業して年収500万程度の私より苦労している人がいるのなら、ここに連れてきてください」でした。結局先輩は該当する人物を連れ来たり実名を挙げたりする行動力も度胸もなく、これによって実例を見せられもしない例え話による主張が如何に脆いかを学びました。
こういった経験があるので、実例を具体的に出せない主張は絶対にしないことにしています。
 
古い作品をあまり読まない私でも楽しめる内容でしたので、気になる方はチェックしてみてください。