またしても久しぶりになる読破報告。

とにかく本業が忙しいのです。

それでも近頃、例によって、とあるブックチューバさんが、

ライブ配信の中で熱心に紹介していたのが本書。

「絵画ミステリー」というジャンルがあるのかしらないけれど...

すぐに思い起こすのはダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』。

ま、あれは絵画よりもクリスティアニティーに土足で踏み込んだことで

騒ぎとなったのですが、『モナ=リザ』や『最後の晩餐』に秘められた

暗号を解く流れでしたね(白状します、映画しか見てない)。

 

中学時分、美術の教師と致命的に感性が合わず(しかも担任💦)、

やつがれ、そこから絵画とは無縁な人生を歩むことになりました。

ただ本業に携わっているとどうしても聖画の数々と接点が生じ、

加えて英国留学時にロンドンの美術館を巡ったり、

ドイツ各地の美術館を訪れて、多少関心を抱くようにはなりました。

そんなこともあって、小説の題材程度の関わりなら良かろう、と思い

本書を市立図書館で借りた次第です。

 

岡山の大原美術館で監視員をしている40代のシングル・マザー早川織絵に、

ある日突然ニューヨーク近代美術館(MoMA)へ出張交渉をするように

オファーがきます。しかもMoMAのキュレータ、ティム・ブラウン氏直々のご指名。

彼女は実は若き日々オリエ=ハヤカワとして美術学会に名を馳せた

ルソー研究家。なぜ一介の美術館監視員が天下のMoMAから呼ばれるのか。

彼女の過去を振り返る一冊になります。

 

物語はルソーが描いた『夢』という作品(MoMA所蔵)を軸に、

いや『夢』に酷似した『夢を見た』という作品を軸に展開します。

『夢を見た』を所有している美術界の怪物バイラーが、

MoMAのキュレータ、トム(Tom)・ブラウンを招待して

その作品の真贋を見極めよ、と要請します。ところが、その招待状を

トムのアシスタント、1文字違いのティム(Tim)・ブラウンが先に開封、

(というのも宛名が綴りを間違えてトムでなくティム宛にしていた)

それでティムはトムになりすまして、招待状に応じることに。

何せティムが人生を賭けて研究をしてきたルソーの幻の絵画なのです。

ところが(2回目)、現地に着くともう一人黒髪の東洋人女性が

同じ目的で招待されていて、彼女こそ若き日の早川織絵さん。

タスクは、この二人に一週間の時間を与え、『夢を見た』の真贋を

講評してもらう、というもの。より説得力のあった方を勝者とし、

絵画の取り扱い権利(Handling Right)を与えるというのです。

ただ、もう一つ条件が加えられていて、その一週間の間、

1冊の本を1日1章ずつ読んでもらう、というのです。

そこに綴られている物語を読みながら最終日に講評をする。

果たして決戦のゴングは鳴り。。。

 

二人が読む本の内容はルソーの生涯を物語るもので、

言うまでもなく『夢を見た』の制作と深く絡んでいるのです。

少しずつ読み進めながら、ティムとオリエは幻の絵画の真贋、

また読んでいる物語の真偽、自分たちの洞察と判断力の適性を

鑑定していくのです。

ルソーの生涯にも謎が散在、オリエとティムの周辺にも

ミステリードラマ宜しく不穏な動きが見え隠れして、

読者は二人とともに右や左に振り回されます。

事件が起きているわけではないのに、感覚的にはミステリー小説を

読んでいるようにドキドキしますし、

各ページに美しい絵画が飾られていて(巻末に登場した絵画の一覧あり)、

美術館を巡りながら、描かれている絵画の背後にある物語を聞かされる、

そのような感覚に囚われます。

ブックチューバさんも感想を述べていましたが、今の時代ネットで

絵画を検索しながら手軽に美術館巡りができるのも、新たな読書体験かも。

 

原田マハさん自身も幼少の頃、大原美術館に連れられていき、

ピカソの『鳥籠』を鑑賞、自分の方が上手く描けるといって、

鳥かごの絵を描いた経験があるそうです(高階秀爾氏、巻末解説参照)。

物語全体に臨場感があるわけですよ。

 

もう一冊くらい、原田マハさんの作品を読んでみようかな。