少しの間ご無沙汰をしていまいました。
今年の夏もまた記録的な猛暑・酷暑となった日本、皆様は無事に過ごされましたでしょうか。ザルツブルグの今夏は雨が多く、暑い日が少なかったように思います。今はもう秋の雰囲気で、気温も25℃〜15℃前後、過ごしやすく、日によっては肌寒く感じるくらいです。

さて、先週、ブラームスコンクールという国際コンクールを受けてきました。このコンクールはオーストリア南部のペルチャッハという街で毎年行われており、この街にブラームスがよく訪れていた由縁で、ブラームスの作品をテーマとしています。今年は歌曲部門、ヴァイオリン部門、ヴィオラ部門、チェロ部門が開催されました。


後ろにはヴェルダー湖。
ここからの景色を見ながら、ブラームスは交響曲第2番を書いたそう。
ブラームスが散歩した山道。けっこう急な…。樹々が風にそよぐ音、鳥たちの鳴き声、湿った土の匂い、全てがブラームスの歌曲から感じるものでした。




コンクール受験を決めたのは4月、その時はコンクールの開催自体がまだあやふやな状態でした。4月の世界の情勢を思い起こせば、8月がどのような状況になっているか誰にもわかりませんでしたね。結果的に、オーストリアではウィーン等の都会を除いてはコロナウィルス感染者数も落ち着いていて、感染防止対策の下、コンクール全日程が予定通り行われました。今年に限っては、予定通り行われるということ自体に感謝しなければならないのかもしれません。

私も今年の夏はかなり自由時間が多かったので、コンクールに向けてしっかり準備ができました。1次予選からファイナルまで全13曲、時間をかけて深く勉強したと思います。自信満々で行ったものの、、ちーん、、本番の舞台の上で緊張し、練習の通りに数カ所うまく歌えない箇所があり、結果、悔しいことに2次予選へ進むことはできませんでした。でも本番で出来たことが今の実力だと認めています。評価は、審査員の先生方の採点で演奏後すぐにわかるのですが、2次へ進んだ歌手たちの点数と自分の点数では、大きく分けて1つ下のグループになるなぁと目に明らかでした。

残念な結果ではありましたが、コンクールに挑戦したことは有意義な経験だったと満足しています。3月半ばにヨーロッパがロックダウンになり、今後の見通しが全く立たない状況になり、それが自分だけではなく世界全体の人々がそういう状況になって、、。特に芸術家は、今後芸術活動だけで生きていけるのか…、岐路に立たされた人もいます。誰もが不安になったと思います。
そんな状況を眺める中で、私はこの期間とは「ウィルスとの戦い」と並んで、「モチベーションとの戦いではないか」と考えました。具体的な目標や確実な予定が見えていると、人はモチベーションを保って努力しやすいものです。反対に予定が不透明だったり、目標として目指すものが確約されてない状況下、すぐに反応や結果が返ってこない時間に、ひとりで淡々と努力と準備を重ねる、これは容易いことではありません。不安で未来のない毎日は、人からモチベーションを奪います。でもそんな無気力になりそうな毎日を、自分自身がモチベーションを絶やさずに過ごせるか、そのようなことが問われてるんじゃないかな?と、ふと思いました。

少なくともコンクール会場に集まった若い音楽家達は、モチベーションの火を絶やした人達ではなかった。殆どの受験者が、この不安な数ヶ月を充実して過ごしたことのわかる演奏でした。素晴らしい。

この数ヶ月、コンクールに向けて取り組んでいたおかけで、私自身の歌の技術や音楽性は成長し、また心身共に健康でいられました。そこに評価が伴わなかったのが残念過ぎますが…、、改善できることがあるというのは喜ばしいこと。
この数ヶ月に獲得したこと、まだ獲得できていなかったこと、どちらも受け入れてまた精進していこうと思います。