幻燈


いろはを逃すため

夕凪と戦い

夕凪の巨大な手に捕まってしまった幻燈


ギリギリと身体が締め上げられる


…気が遠くなってきた


いろは…逃げれたかな


おれっち、役に立てたかな


あぁ…前にもこんなことあったな



東の国の境にある渓谷に

おれっちは住んでいた


渓谷にはなんでも飲み込む

恐ろしい大蛇がいて

そいつに出会った

おれっちの両親や家族は

みんな喰われてしまった


おれっちは、一人ぼっちだった


日々、木の実をとって

大蛇に会わないように

その日をやり過ごすのが

いつしか日課になっていた


大蛇を恐れる自分が

情けなくて

悔しくて…

強くなりたくて

そいつに勝つために

妖術を独学で学んだ


でも

出会った大蛇は

山のように大きくて

いざ目の前にすると身体が震えて

動くこともできなかった


喰われそうになった時…


「ぐわぁぁ…っ」


目の前で

こんな風に

大蛇が悲鳴をあげたんだ



「幻燈…よく頑張ったな」


悲鳴と共に

幻燈の身体を締め付けていた力が緩んだ



…そう…

おれっちは

紅鏡暁に助けられたんだった


こんな時に

紅鏡暁の幻影を見るなんて


おれっちは、なんて弱いんだろ…

人型を保つ妖力すらもうないのに…

小さな子狐の姿に戻る幻燈


…この優しくて温かい手…

知ってる…

おれっちは

優しく撫でてくれる

温かい手が好きだ



幻影じゃない…


紅鏡暁…きてくれたんだ…


紅鏡暁の手に頬擦りし

ぽろぽろ涙を流す幻燈


「貴様…よくも…っ!!

貴様も金にかえてくれる」


怒り狂う夕凪


「…紅鏡暁…っ

ありがとう…

おれっち…」


「…大丈夫だ。

幻燈、今日の夕飯は

お前の捕まえた魚料理にしよう」


あぁ…おれっち

一生懸命、お魚捕まえるよ


また焦がすなよ?


きっと役に立ってみせるから

少しだけ休んだら…きっと…


見上げた紅鏡暁に

涙を流しながら微笑み

気を失う幻燈


「…少しの間

幻燈をお守りください」


近くあった木に

頭を下げる紅鏡暁


葉を集め

魑魅魍魎に見つからないような

木の空洞に

優しく

幻燈を寝かせる


怒り狂い神隠しの森を

手当たり次第に破壊する夕凪に

向き直る紅鏡暁



「お前の相手は、俺だ」