遅くなっちゃったなって思いつつ、ゆっくりとした足取りで家に向かって歩いてた。

激しい動きは禁止されてるし、確かに急に動くと眩暈起こしそうで怖いから。

利き腕じゃないとはいえ、左腕の自由がきかないのは不便だからパスケース新しいのにしても使えるかなとか、取り留めのないことを考えながらぼんやりしてたら急に誰かが声をかけてきた。



「……こんばんは」
「え?」



……この声…まさか?

嘘だろって、信じられない気持ちで振り向いたら、そこに居たのは俺が今、一番会いたくなかった人だった。

その人は、にこやかな表情をしてたのに俺の姿を見た途端、一瞬で表情が曇って心配そうに話しかけてきた。



「朝……しばらく会わないと思ったら怪我してたんだな。大丈夫?」
「えっと……はい。ちょっと腕やっちゃったから休んでで……」



少しは…俺の事を気にかけてたの?

でも目の前にあからさまに怪我した人が居ればこれくらい言うよね?

これ以上この場に居るのは耐えられない気がした俺は、すぐにでもここから立ち去ろうとしたのに、その人は言葉を選ぶようにしながら話を続けた。



「なぁ……」
「はい?」
「名前……教えて?」
「えっ?」
「なんかさ……朝会えないと物足りなくて。そういえば名前も聞いてなかったし」



予想外の言葉に、俺は言葉を失ってぽかんとするしか出来なくて。

俺に興味なんか無いんじゃないの?



「俺は櫻井翔。そっちは?」
「……俺…相葉雅紀…です」
「そっか……相葉くん。相葉くんが言う運命かどうかは分からないけど……もう少し相葉くんの事が知りたいって思う」
「?!」



………そんな事あるの?

あんなに冷たい態度しか取らなかったのに、いきなりそんな事言うの?

信じられなくて……でも…その言葉が萎れて折れた心に光を灯す気がして………





………俺、諦めなくて良いのかな?