もし、大谷翔平選手が英語でしゃべっていたら

WBC決勝前の大谷翔平選手のスピーチを英語にすると

―(期間限定公開)―

by SAKURAnoG

 

皆さん、こんにちは。今回は大谷翔平選手がWBC(World Baseball Classic)決勝前にチームメイトに対して行った激励スピーチを題材に語っていきたいと思います。ただし、学校のテストとかにはちょっとお役に立たないかもしれません(笑)。期間限定での公開です。

 

では、問題です。 下の大谷選手のスピーチを英語に訳してください(笑)。

でも、ちょっとトライしてみましょう。少し難しい単語が2,3出てきます。 憧れる:admire 超える:surpass くらいですね。 あとは、固有名詞と野球用語を知れば、ほぼ高校生程度の英語で訳す事ができます。なんだか、怪しげな英会話入門書の謳い文句みたいですが、ちょっと、やってみてください。答え合わせをしてみると、英語ってこうやって話すんだ、ということが実感できると思います。

野球用語:ファーストfirstbase)。センター center field 。外野 outfield

ゴールド・シュミット:Goldschmidt

マイク・トラウト:Mike Trout

ムーキー・ベッツ:Mookie Betts

それでは、Here we go!

 

1.英訳編

大谷選手のスピーチ

「えー、僕から一個だけ。あのー、憧れるのをやめましょう。ファーストにゴールド・シュミットがいたりとか、センター見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたりとか、まあ野球やっていれば誰しもがこう聞いたことあるような選手たちがやっぱりいると思うんですけど、今日一日だけは。やっぱ憧れてしまったらね、やっぱ超えられないんでね。 僕らは今日超えるために、やっぱトップになるために来たんで、今日一日だけは、えー、彼らへの憧れを棄てて、勝つことだけを考えていきましょう。さあ、行こう。」

 

(英訳)

Well, let me just say one thing. Let’s stop admiring them…you will see many great names that you have heard of if you play baseball…like Goldschmidt at the first base, Mike Trout in the center field, and Mookie Betts in the outfield…

 

But just for today…. If you admire them, you can’t surpass them, you know. We are here to surpass them, to be at the top. Just for today, let’s throw away our admiration for them, and just think about winning.  Here we go!

(訳:筆者)

 

どうでしたか? 正解とだいぶかけ離れた英語になっていても、気にしないでください。やってみることが大事なのです。これから、ちょっと横道にそれながらも、英単語の意味や使い方にも触れて説明をしていきたいと思います。

 

2.解説編

✩「僕から一個だけ」

「ひとこと言わせてください」ということなので、“Let me just say one thing.”

“one thing”は、まさに一個、ひとつのこと、という意味です。ここでは、“just”の位置に注意してください。“just”は後続の“say one thing”全体にかかっています。これが、普通の言い方です。① “Let me say just one thing”ではなく、② “Let me just say one thing.”です。この“just”の位置については、あとでもう一度触れます。

Los Angeles Times ※では、ここは“From me just one thing,”と訳されています。これも原文に忠実でいいでしょう。

Los Angeles Times: “‘That’s what everyone wanted to see.’ How Shohei Ohtani fanned Mike Trout to win WBC  March 21, 2023 By Jorge Castillo)

 

✩「憧れるのをやめましょう」

“Let’s stop admiring them.” いきなり先行する名詞なしで“them”と出てきますが、ここは想像が付く範囲なので、いいとしましょう。目的語がないと不自然に感じる人もいるようです。

そしてここでは、“stop + 動名詞(admiring)” を見ていきます。

学校の文法で習いますね。動名詞(動詞+“ing”、~すること)。不定詞(to +動詞)と同じ意味になることもありますが、“stop”の場合は、後に続く形によって意味が異なります。“stop admiring”は、憧れることをやめる、“stop to admire”は、一旦立ち止まって(よく考えて)憧れる、ですね。意味が真逆になるので、注意しましょう。

このように、目的語が不定詞か動名詞かで、意味が違ってくる動詞は、他に

1.remember/forget

2.regret/be ashamed

3.try などがあります。

これらの動詞の後では、不定詞は発話時点での未実現、動名詞は事実(起きたこと)を表します。

次の例文で覚えましょう。

1.remember/forget

・Remember to lock the door. (忘れずにドアに鍵をかけてね)←鍵をかけることを忘れないで←この時点では、まだかけていない

・I remember seeing the man three years ago.(その人には3年前に会ったことがある)←あったことを覚えている←過去に会った

ちなみに、“remember”は、「覚えている」「忘れない」どちらの意味もあります。

“forget”も意味は逆ですが、用法は同じです。

・I forgot to lock the door.(鍵をかけるのを忘れた)←鍵はかけていない

 “I forgot locking the door.” だと(鍵をかけたことを忘れていたよ)

・I will never forget meeting you for the first time. (初めてあなたに会ったときのことを忘れることはないでしょう)←昔、会っている

2.regret/be ashamed

・I regret to say that I cannot come. (残念ですが、行けません)←発話の時点ではまだ行ってませんね(というか、行かない)。不定詞はこれから起きる予定のことに対して使うとおぼえておいて大体まちがいありませんが、不定詞でも動名詞でも意味がほとんど変わらない動詞もたくさんありますし、不定詞しか取らないもの、動名詞しか取らないものもありますので、混乱しないようにしないといけないのですが、とりあえずは、ここに出てきた意味が異なる場合だけ頭に入れておきましょう。

ちなみに“come”は、「行く(go)」ことを相手の立場に立って「来る(come)」と言うのですが、英語ではよく見られる表現です。また、“I regret to say○○”というのは、言い出しにくいことを言う時に使う枕詞みたいなもので、ちょっとあらたまった表現になります。「以下のことを言わないといけないことが悔やしいです、残念ながら〇〇です」という意味です。

・He regretted being idle in his youth.(彼は、若い頃遊んでばかりいたのを悔いた)←実際に怠けていた

同じような意味の“be ashamed(of)(恥に思う)”も同様の使い方をします。「恥を知れ」というときの「恥」です。 ちょっとそれますが、それと違って例えば「すっぴん見られちゃって恥ずかしい!」と言うときの「恥ずかしい」ではありませんので注意しましょう。こういう場合の「どぎまぎする恥ずかしさ」は“be embarrassed(恥ずかしい)”といいます。[“embarrass”(「いやーん、恥ずかしい!」と思わせる)という他動詞の受動態で表現します(そんなこたぁ、どおでもいいけど)]。  また、「人前でそんなこと恥ずかしくて言えない」と言うときの「恥ずかしい(臆病で恥ずかしい)」は“shy”を使います。“I'm too shy to say such a thing in the presense of others.”という感じです。
 

・He was ashamed to admit his mistake.(彼は誤りを認めるのを恥だと思った)←恥だと思って誤りを認めなかった。

・He was ashamed of being beaten by a beginner. (彼は初心者に負けたことを恥じた)←実際に負けてしまった。

3.try

・I tried to talk to her, but I couldn’t.

・I tried talking to her, but she pretended not to hear me.

なんか、悲しい例文ですね(泣)。もう、訳は必要ないでしょう。(“pretend”:ふりをする)

[例文出典:「英文法解説」改定三版 §245.-(2) P370, 371 江川泰一郎著 金子書房、1991]

[例文の和訳は筆者による]

 

✩「ファーストにゴールド・シュミットがいたりとか、センター見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり」

“…like Goldschmidt at the first base, Mike Trout in the center field, and Mookie Betts in the outfield…”

これは、簡単そうで結構難易度が高い訳になります。ここでは、日本語と英語では話題の中心(言いたいこと)の位置が逆になる、ということに注意してください。日本語で「ファーストにゴールド・シュミットがいたり」というのは「ファースト」ではなく、次に出てくる「ゴールド・シュミット」が言いたいことで、彼がファーストにいるのか、セカンドにいるのかは問題ではありません。

こういう場合、英語では「言いたいこと」=「話題の中心」である“Goldschmidt” が最初に出てきて英訳回答のように “Goldschmidt (is) at the first base.”となります。

「センター見たら」は“if you look at (the) center (field)”ですが、このような、単調さを回避するための添え言葉みたいなものは本質的な意味や重要性はないので、本件のようにすっぱりと切り落として、ストレートに表現するのも一つの方法です。

 

✩「誰しもが聞いたことあるような選手たち」

“you will see many great names that you have heard of if you play baseball”

“name”は「名前」ですが、“big name”や“great name”というかたちで「有名人」「スター」という使われ方をします。

ここは、“heard of”の“of”を忘れないようにしましょう。“hear”は「聞こえる/耳にする」“hear of”は“~のことを聞く”です。どう違うかというと、“I heard him calling me.” (彼が呼んでいるのが聞こえた) で “I’ve heard of him” は(彼の噂/名前は聞いたことがある)という感じです。

これは“know”という動詞にも同様に当てはまります。「リトグリ(Little Glee Monster)のこと知ってる?」は ①“Do you know LGM?”ではありません!②“Do you know of LGM?”となります。ちなみに①は「あなた、リトグリと知り合いなの?」という意味になります。“Oh, I know LGM!”なんていうと「おお、リトグリなら知り合いだぜ」という事になってしまいます。

 

✩「野球やっていれば」

 “if you play baseball”

“you”は今目の前にいる「あなたたち」というよりも一般的な「人」に近い意味になります。「(あなたが)野球をやっている人ならば」という感じです。“if”は、「もし」ではなく、「~ならば」という感じですね。ちなみに「あなたたち」というときは“you”ではなく、“you all”とか“you guys”といいます。

次のポイントは、①“play”です。日本語に引きずられて現在進行形 (you are playing baseball) としないようにしましょう。ここは、文法書などに書いてある現在形の用法の「習慣的動作」を使います。野球は習慣ではないのですが「いつも野球を(職業/アマチュアとして)やっている」という意味で現在形で表します。

 

✩「今日一日だけは(憧れるのをやめましょう)」

“But just for today”

ここは、最初“Just for one day…”や“only for one day today…”としていたのですが、念のためネイティブの方に聞いてみました。

ところが面白いことに、「今日一日だけは」の訳については、ネイティブの方の間でも意見が割れました。“Just for one day…”や“only for one day today…”は、6人のうち、3人が「自然」、3人が「やや不自然」とのこと。おそらく翻訳文なので違和感を感じる方がいるのでしょう。日本語でも、何も知らずに英語からの翻訳を読むと、違和感を感じる事があるのと同じで、その違和感を許容するかどうかに個人差があるのです。6人のうちほぼ半分の方が “just for one day”を“just for today”に訂正されました。“for one day”を「一日だけ」という意味で使うのはOK(例:“The museum will only be open for one day”)だけども、「今日一日は」とか「今日一日だけは」という意味では違和感を覚えるらしいです。3人とも“Just for today”に訂正されました。

ここは“But just for today”(でも、今日だけは)を正解とします。つまり、日本語では「今日だけは」とも「今日一日だけは」とも言いますが、英語ではどちらも“just for today”というのが一般的なようです。

ここでの“For”の使い方は、あとでもう一度同じ表現が出てきますので、そちらで説明します。

 

✩「トップになるために来たんで」

“We are here to surpass them, to be at the top.”

“to be at the top”は直前の“to surpass them”を言い換えたもので、どちらも“We are here”にかかります。

ここのポイントは“We are here”という表現です。“We have come”としたくなるのですが、英語ではよく「行く」や「来る」を“be there” 、“be here”で表現します。恋人に「すぐ行くから、待っててね」と言うときは“I’ll be there soon”と言います。Carole Kingの歌に“You’ve Got A Friend” という歌があります。“All you have to do is call And I'll be there”

「ただ 呼んでくれれば いいのよ すぐに 行くから」(Song written by Carole King)

友を思う強い気持ちがあふれたこころ暖まる歌ですね。

 

✩「勝つことだけを考えていきましょう」

“just think about winning”

前に出てきた“just”の位置です。“think about just winning”としないように注意しましょう。“just”はその後の“think about winning”全体にかかります。これが、この日本語「勝つことだけを考えていきましょう」に対応する英語表現です。日本語と違うじゃないか!「勝つことだけ(just winning)を考えよう」と言ってるじゃないか!と思わないでください。日本語の一語一語を正確に英語に置き換えることで、正しい英語が出来上がるのではありません。日本語のある表現に対応する英語の表現は何なのか、ということです。

残念ながら、これは答えを知っていないとわからない。だから、英語的な表現、正しい英語を身に着けるためには、話し言葉も書き言葉も、たくさんの文章に接することが大切なのです(耳が痛っ!)。

少なくとも英語初級の方は、英語と日本語が1対1で対応しているのではない、ということを頭に叩き込んでおいてください。

 

日本語と英語の対応について興味のある方は、僕のnoteのブログ「COFFEE BREAK:リンカーンのゲティスバーグ演説について」の『第2、前置詞「of」は「の」と訳してはいけない』を覗いてみてください。⇓

https://note.com/sakuranog/n/n1c05fe87429b

 

✩今日一日だけは(、えー、彼らへの憧れを棄てて)

同じ言い回しが2度出てきましたが、どちらも“Just for today” (今日だけは)でいいと思います。理由は前に述べたとおりです。

ここで、“For”の意味は「~に関しては」くらいの意味です。「“So much for today” 〘略式〙今日はこれで終わり」「“For further information, visit our online catalogue.” さらに詳しい情報に関しては私たちのオンラインカタログにアクセスしてください」【GENIUS「FOR」㉒ [関連] 「~に関して」P772】というように使われます。

 

✩「さあ、行こう」

“Here we go!”

「さあ」って、英語で何ていうの? 「さあ、わかんない」とか「そんなの訳せるわけないじゃん!」とか思ってませんか? 日本語を英語に直すときに一番難しいのが、この言葉のニュアンスを伝えることです。

ここは “Let’s go!” でも間違いじゃないんですが、「さあ」のニュアンスがちょっと足りない気がします。ここは、決意をこめて言っているところなので、それを表現したいですね。表掲の“Here we go!”が、このシーンにピッタリの言葉になります。まさに「(決意を込めて)さあ、行こう!」です。

同様の「Here+主語+動詞」には、①“Here you are” ②“Here I am” ③“Here we are” などの表現があります。いずれも、期待して待っている人に「さあ、」と言ったり、自分の決意を込めて「さあ、」と言ったりする場面で使われます。

①    さあ、どうぞ。ほら、これだよ。さあ、ここですよ。

②    さあ、いつでもやってやるぞ。ほら、これが僕だよ。

③    さあ、着いたよ。

「さあ、どうぞ」には“Here it is”という表現もあります。「ほら、これだよ」という感じです。

また、②の“Here I am”は、miletさんの「Final Call」という歌にも出てきますね。「さあ、準備OKよ。いつでもいいわよ。」といったニュアンスでしょうか。miletさんの「Final Call」については、詳しくは僕のブログ⇓ をどうぞ。

https://ameblo.jp/sakuranog/entry-12792299324.html

 

いかがでしたでしょうか? 大谷翔平選手、素晴らしいですよね。ピッチャーとバッターの2刀流、しかもどちらも超一流。

WBC決勝戦3(JAPAN)対2(USA)で迎えた最終回9回2DOWNでの、チームメイトTROUT選手との対決。絵に描いたようなシーンでした。間違いなく伝説となる人物ですね。大谷選手と同時代を生きていることに感謝です。

それでは、またお会いしましょう。