※BL妄想につきご注意を。











今朝だって普通に笑ってたよ。


オレの作った味噌汁を飲んで

美味いって言ってくれてたよ。



ねぇ、何かの間違いじゃない?







「ちっちゃな女の子を
助けようとしたんだって」

「翔らしいわよね・・・」






とあるレストランのテラスで

ママ友が数人、集まっていて。



子供連れだったらしくその中の

幼稚園前くらいの女の子が1人

フラフラっと車道に飛び出して。



車に轢かれそうになったとこを

偶然に通りかかった翔ちゃんが

助けたんだ、っていう話らしい。




オレたちの位置から少し離れた

その先のベンチに居るのが多分、


その女の子とお母さんなんだな。



不安そうに娘を抱きしめたまま

こちらの様子を窺ってるような。


何か、いたたまれないって感じ。



オレと目が合うと、その女性は

床につきそうなほど頭を下げた。







「っ、大丈夫よお姉さん。
きっと翔ちゃん、もうすぐ
目を覚ましてくれるから」

「そう・・・そうよね」





母さんと伯母さんのその会話も

オレの耳には『他人事』のよう。



だって、意識不明・・・なんて。


そんなことあるワケないでしょ。




オレはスーっと大きく息を吸う。






「・・・・・・・・」




震える手をグッ、と抑えて


オレは目の前の扉を開いた。







「・・・翔ちゃん・・・」




ベッドの上に横たわるのは、


間違いなく翔ちゃんだった。




心なしか青白く生気がない。





「っ、翔ちゃん・・・
やだ・・・何で・・・っ」




オレはペタンとヒザをついて

翔ちゃんの体に縋って泣いた。




このまま目を覚まさなかったら。


もし翔ちゃんがいなくなったら。



オレはこの先どうすればいいの。







「・・・ぅ・・・ん?」



だけどその時、頭の上から

微かに耳に届いてきた声に

オレはガバッと顔を上げた。






「っ・・・翔ちゃんっ!」

「あれ・・・カズ・・・
・・・なに、してるの?」

「何してるのって・・・」





いつもと変わらない翔ちゃん。


オレの顔を見てふふって笑う。





「なに?何で泣いてるの?」

「だって、だって・・・っ」

「泣かないで。ほらカズは
笑顔が1番なんだから。ね?」




そう言って涙を拭ってくれる手。


いつも通り温かい翔ちゃんの手。



なんだか頭が追いつかなくって

ただ翔ちゃんの手を強く握った。






「って言うか、ここどこ?」




でもその言葉でハっと我に返る。




「あ、せ、先生呼ばなきゃっ」




オレは、ナースコールを押して。



病室の外にいる母さんたちにも

早く教えてあげなきゃいけない。





「ちょ、ちょっと待っててっ」





とにかく翔ちゃんは無事だった。


それだけでもう他は何でもいい。




オレはグイッと涙の痕を拭って。



そして笑顔で病室を飛び出した。