君はもう観たか。マイケルの幻の雄姿を。

 最高でした、「This is it」。ツアー前に気合のイメトレをと最終リハのあとにひとり赴いたレイトショー。なんだか子供のころに劇場で観たブルースリーにも似たあの後味。30年ぶりのあの感触。完全に主人公が自分にひょう依しちまったような、あの錯覚。高速でヌンチャク振り回せる気になっていた半ズボンの帰り道。母親にダイエーで買い与えられたいつものグンゼの下はもはや鍛え抜かれ研ぎ澄まされたオイル光りの肉体。今なら俺、誰にも負けない気がする。ああ、一点の曇りもなく、ザッツ気のせい。そして、それほどまでの感動をくれたとてつもない人間が、もうこの世にはいないという寂しすぎる現実。とても大事なところに穴のあいてしまったこの世界。風が吹き抜ける。

 人気もまばらなみなとみらいの夜更けの観覧車を見上げながら、あのときの高揚と喪失感に包まれていました。ムーンウォークができる気になりながら。

 「今夜はビートイット」のラストの演出。興奮気味にマイケルは言った。

「ダンスの最後、僕がジャケットを脱ぐ。それを地面に叩きつける。ジャケットが燃えて僕のキューで演奏がフィニッシュ。暗転。暗いステージに燃えるジャケットだけが光る。」

 マイケル、観たかったよ。この目で君の燃えるジャケットを。

 そして、まがりなりにもポップミュージックを人前でパフォーマンスする立場にある自分としては、映像には残らなんだバンドメンバーからダンサーからコンサート制作スタッフの無念の叫びを受け止めずにはいられませんでした。全世界を揺るがせたあの悲しい知らせがあったとき、彼らはそれをどう受け止めたのか。否、そもそも受け止めることができたのか。察するにあまります。

「脱いだジャケットが燃える?ステージの真ん中で?一つ間違えば5万人が焼け死んじまうぜ。どうやって燃やしてどうやって消す。なんだって?それを考えるのが俺たちコンサートスタッフの仕事だって!?OKマイケル分かったよ実現させてやるさ。そのかわりマイケル、スタジアムを囲めるぶんだけの消防車を用意してくれよ。もちろん全世界50箇所にね(笑)!!」

 と、こんなやりとりがあったと思うのです、きっと。で、舞台装置さんはスタイリストさんと舞台監督とあーでもないこーでもない殴り合い寸前のやりとりをしながらどうにか初日のロンドンに間に合わせたはずなのです。

 それが。

 マイケル、僕にはジャケットを燃やす勇気もその具体策を誰かに丸投げする度胸も予算もないよ。だけどマイケル。君の、コンサートの、一曲一曲の、どまん中から隅々まで、表現の可能性をとことんまで追求する姿勢は確かに受け継いだよ。それから、スタッフへのスピーチで世界平和を本気で訴えるスケールのでかさと純粋さを。

 僕はそれに’80年代のインディーズバンドに教わったDIY精神を注入して、真心ブラザーズ20周年イヤーラストイベント「THE GOODDEST TOUR」に目下、臨んでおる次第であります。セットもダンスも超絶速弾きもないけれどマイケル、ソウルは確かに受け継いだぜ。ムーンウォークのときとは違うぜ。これは絶対、気のせいなんかじゃないのさ。




 ときに、君はもう観たか、「ANVIL」を。

 おいらまだ観ていないのよ。相当イイらしいじゃない。「This is it」に勝るとも劣らないって聞きましたよ。

 マイケルのときの失敗は、現場で感動をひとり持て余してしまったこと。良い表現はリアルタイムで友と分かち合い、アフターで酒と肴(できれば心ふるわせる女子も)を加えて感動を増幅させるがこれ正しきいただきかたと心得る。

 ツアーの中盤戦あたりでまた企画しますか。レイトショーのあと朝までヘビメタトーク。

 一郎くん、首藤くん、スケジュールを…。