【台本】「寿柱立万歳」文楽の床本 | さきじゅびより【文楽の太夫(声優)が文楽や歌舞伎、上方の事を解説します】by 豊竹咲寿太夫




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寿柱立万歳ことぶきはしらだてまんざい


春風に

乗つて出で候、三河路みかわじを野暮な太夫と二人連れ、幾夜重ねし旅鳥、浮いた言葉の軽口を、たゝき生活たつきの張り扇、音もたゝすと小鼓に、月の都や花の江戸、千町や万町の塵埃、払ひ清めて御万歳

「エヘン罷り出でたる者は」

「参州三河に隠れもない」

「えらい太夫」

「才智才三」

「万歳にて候」

「サア〳〵太夫さん、まづお客様方にご挨拶を申しませう」

「それがよろしうございます。エ、四方よもの御客様、日頃の御贔屓御引き立て有り難うござりまする。時に才三や、御祝儀の寿をさらばお祝い申そう」

と鼓おつ取り声繕ひ

「ヤンラめでたやなア、鶴は千年の名鳥なり」

「亀は万年の世御寿命保つ」

「鶴にも勝れ」

「亀にも増す」

「今日このお家をば、長者のしんとヨ祝ひ栄えましんまする」

「建て初めの柱をばヨ、綾と錦で包ませて」

「弓と矢をば付けさせてヨ、これが火伏せの柱とて、鬼門を守らせ侯へば」

「一本の柱が一の宮よ」

「二本の柱が二千だか」

「三本の柱が榊の明神」

「四本の柱がシロクヤ天王」

「五本の柱が牛頭ごず天王」

「六本の柱が六八幡とや」

「七本の柱が七尾の天神」

「八本の柱が正八幡」

「九本の柱が熊野三社の大権現とヨ」

「十本の柱が十羅刹じゅうらせつ

「十一本の柱をばヨ十一面観世音」

「十二本の柱をば薬師の十二神とや」

「千本あまりの柱をば御取り立て悦ばれたり」

「誠にめでたう候ひける。弥勒みろく十年たつてののち、諸神の立てたる御家は」

「雨が降れども雨落ちせず」

「風が吹けどもたゞならで」

「ちいと吹いては世をはる風よ」

「こちらへ吹いては御万歳」

「万歳楽まで祝うて千秋繁盛と参り栄へ給ふはコリヤ誠にめでたう候ひけるとは。アヽこれからそろ〳〵御万歳」

「オヤ万歳」

「へゝ万歳」

「オヤ万歳」

「へゝ万歳」

「万歳〳〵〳〵、ソレ万歳楽で御悦びだ、アハヽヽヽヽ」

「太夫さん」

「オヤあらけえね」

「ソレ銭や金の湧くやうだにコレハイ」

「これ様のお屋敷でソレ掴み取りが始まる」

「子供らも御油断召さるな、もつこを持つたら、しよこない米だにコレハイ」

「木鉢を持つたらすくひ込め」

「升を持つたら量り込め」

「美しい姉様にやコリヤ才三なんぞは内証づくなら五両や三両はさつくれべにコレハイ」

「ソレそこらの姉様の頬の周りやお鼻の周りが、おでくらでんのでべその近所の言はれぬ所がへヽヽヽヽ、べつちやらこ」

「オヤまつちやらこ」

「ヘヽべつちゃらこ」

「オヤまつちやらこ」

ホヽヤレ〳〵、まつちやらこにまんぢやらこ、まんざら野暮では

「どうした才三」

「ありやせまい」

「代々栄えて御万の長者よ、エーなほ万歳楽までも、ヤンラ」

「エイおめでたう」

祝ひ疲れて両人は、またの御見を待乳山まつちやま。うきね隅田の都鳥、明日は飛鳥の定めなく、かしこを指して












豊竹とよたけ咲寿太夫さきじゅだゆう


人形浄瑠璃文楽ぶんらく
太夫たゆう
国立文楽劇場・国立劇場での隔月2週間から3週間の文楽公演に主に出演。
モデルとしてブランドKUDENのグローバルアンバサダーをつとめる。

その他、公演・イラスト(書籍掲載)・筆文字(書籍タイトルなど)・雑誌ゲスト・エッセイ連載など
オリジナルLINEスタンプ販売中




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