万葉集と酒 210

 

二年春正月三日、侍従堅子(おもとひとちひさきわらは)王臣等を召して、内裏の東屋の垣下(みかきのもと)に侍(さもら)はしめ、即ち玉箒(たまばはき)を賜ひて肆宴(とよのあかり)きこしめしき。時に内相藤原朝臣勅を奉(うけたまは)りて、宣(のりたま)はく、諸王卿等(おほきみたちまへつきみたち)、堪(かん)ふるまにま、意(こころ)に任せて歌を作り併せて詩を賦せよとのりたまへり。仍(よ)りて詔旨(みことのり)に應(こた)へ、各〃心緒(おもひ)を陳べて歌を作り詩を賦しき

  諸人の賦すせる詩と作れる歌とを得ず

 

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 始春(はつはる)の初子(はつね)の今日の玉箒(たまはばき)

        手に執る(と)るからにゆらく玉の緒

 

    ※ 玉箒(たまはばき) : 玉の飾りを付けたほうき。正月の初子の日に蚕室を掃くのに使った   

  ※ ゆらく :音を立てる

 

  初春の初子の日の今日の玉箒(たまはばき)は、

  ちょっと手に取っただけで玉の緒が鳴ってすがすがしく楽しい

 

   右一首は、右中辨大伴宿禰家持作れり。但し大蔵の政に依りて奏し堪(あ)へぬのみなり。