【『100万分の1の恋人』新潮文庫化記念】
「僕の新潮文庫の10冊」の三冊目です。
『夏の闇』開高健
昭和47年、新潮社刊行。文庫では、昭和58年に刊行されています。
ストーリーといったストーリーは、
「ヴェトナムで戦争を見て、それ以来、信じるものを見失った主人公が、パリの安下宿に閉じこもり、食欲・性欲におぼれつつ、惰眠をむさぼり続ける……」
とまあ、そんな感じなのですが、ストーリーは、正直、この際、どうでもいい。
とにかく、圧倒的な文章です。
豊饒な比喩と、息が詰まるようなディテールの連続。
「面白い小説」というのは、「ページをめくる手がとまらない」という気持ちを引き起こすものですが、この『夏の闇』は、圧倒的な世界造形に目がくらんで、「読み終わるのがもったいない」「読みすすめるのをためらってしまう」という、特殊な読書体験をした、稀有な一冊です。
『夏の闇』読了後、『輝ける闇』『花終わる闇』と、「闇三部作」に、のめりこんでいきました。