僕の新潮文庫の10冊(3)『夏の闇』 | 榊邦彦 OFFICIAL BLOG new

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けれど一方で、言葉や愛がまったく立ち向かうことのできない不安や困難も、
また、存在しないのではないか……僕は、今そう思っている。
『100万分の1の恋人』榊邦彦(新潮社)

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『100万分の1の恋人』新潮文庫化記念】

「僕の新潮文庫の10冊」の三冊目です。
 


『夏の闇』開高健 
昭和47年、新潮社刊行。文庫では、昭和58年に刊行されています。

ストーリーといったストーリーは、
「ヴェトナムで戦争を見て、それ以来、信じるものを見失った主人公が、パリの安下宿に閉じこもり、食欲・性欲におぼれつつ、惰眠をむさぼり続ける……」
とまあ、そんな感じなのですが、ストーリーは、正直、この際、どうでもいい。

とにかく、圧倒的な文章です。
豊饒な比喩と、息が詰まるようなディテールの連続。

「面白い小説」というのは、「ページをめくる手がとまらない」という気持ちを引き起こすものですが、この『夏の闇』は、圧倒的な世界造形に目がくらんで、「読み終わるのがもったいない」「読みすすめるのをためらってしまう」という、特殊な読書体験をした、稀有な一冊です。

『夏の闇』読了後、『輝ける闇』『花終わる闇』と、「闇三部作」に、のめりこんでいきました。