古い喫茶店


使いこまれたカウンターの向こう


カップを温めるためにバットに張られたお湯から立つ


ほわんとした湯気が揺れている



年月をかけて飴色に染まった漆喰の壁が


アンティークのランプから零れる


オレンジ色の灯りでぼんやりと照らされ


ひっそりと光と影を垂らしている



黒い髪をあごの辺りで切りそろえた女性が


白い顔をぼんやりと浮かび上がらせながら


手際良く、そして丁寧に珈琲を淹れている



遠くの席から微かにけぶる煙草と


目の前の珈琲の香りとともに


もんやりとした湯気のかたまりが


またひとつあがる



書きとめたいことが多すぎて


だけれど、不躾にじっと見ることも出来なくて


仕方なく手元の雑誌に目を落とす



頭の中が言葉でいっぱいだったから気がつかなかったけれど


店には良い感じに


マイルス デービスがかかっていた