今日初診で見えた40代の患者さんは、健診とどうしていけば歯を維持していけるかを知りたいとのことでした。
聞くところによると、お父さんもお母さんも部分入れ歯を入れており、入れ歯を出して手入れをしているのを見るたびに、ああはなりたくないと思っていたそうです。そして、私もそろそろ年齢的に気を付けなければと思って来院したそうです。
この方の素晴らしいところは、定期的に診てほしいというだけではなく、どうしていったら歯を失わず、入れ歯にならずにすむかを知りたいという明確な考えを持ってやってきたことです。
マメに定期検診に通ってむし歯を削り続けて入れ歯になってしまった人を、私はたくさん見てきました。そういう意味で、早期発見早期治療は必ずしも正しくはありません。
しいて言えば、早期発見早期予防が、歯を失わないための秘訣と言ってもよいでしょう。
むし歯が出来て歯を削って詰めたりかぶせたりするということは、その都度歯が減っていく訳です。
むし歯を削って詰める、かぶせるということは、治療ではなく単なる修復です。
本当の治療とは、原因を見つけて、もうその病気にならないようにすることだと私は思っています。
残念ながら、現在でも日本の歯科医療は削ることが中心になっているのが現状です。
この患者さんのように、しっかりと自分のお口の健康と将来を考え、今ある歯を維持するにはどうしたら良いかと考える方が増えていけば、日本の歯科医療も変わっていくはずです。
2012年にプレジデント社で「リタイア前にやるべきだった・・・・」後悔トップ20 というアンケートをおこないました。その結果、健康部門で一位になったのは、
「歯の定期検診を受ければよかった」でした。
聖路加国際病院理事長・名誉院長 日野原重明先生も、「歯と糖尿病を患うと取り返しがつかない。日頃のケアと食事・運動が、明暗を分ける」とおっしゃっています。
私は長い間歯科医療を行ってきて、やはり歯を失って、あるいは、歯周病がひどく進んでしまってから、歯の大切さを感じる人が非常に多いように感じてきました。
また、定期検診の時行われる歯周ポケットのクリーニングは、歯周病の予防だけではなく全身の健康を維持するためには不可欠です。
というのは、歯周ポケット内の細菌は、歯肉の毛細血管から体の中に入り、全身に運ばれます。その結果、糖尿病、高血圧、誤嚥性肺炎、脳梗塞、肺炎、心筋梗塞、心内膜炎、骨粗しょう症、低体重児出産などがあげられます。
これらの中でも特に以前から歯周病と関係が深いとされていたのが、糖尿病です。
以下は、糖尿病専門医西田亙先生がおっしゃっている内容です。
「最近の研究により、お口の中は全身と密接に関わり合っていることが、明らかになってきました。例えば、糖尿病と歯周病はコインの裏表の関係にあり、歯周病がひどいと血糖値が上昇しますし、糖尿病がひどいと歯周病は悪化します。ですから、歯周病がある場合は、糖尿病の治療だけでなく、歯科医院への通院が必須となります。
日本人は欧米人に比べて、歯を大切にする意識が低いため、50歳を過ぎた頃から、奥歯から雪崩を打つように抜け始めます。奥歯がなければ、十分に噛むことができませんから、野菜を食べることも難しくなります。結果として、果物や軟らかいものなど、血糖値が上がりやすい食事内容に、偏りがちになってしまうのです。
口の中が清潔に保たれ、歯並びがしっかりしている、すなわち「お口が健やかであること(健口)」が、健幸への第一歩です。当院は内科医院ではありますが、皆様と共に、健口を通して健幸に至りたいと考えています。
にしだわたる糖尿病内科 院長 西田 亙癌」
また、がんの免疫療法の第一人者の照沼裕先生も
「がん治療・予防は今や口腔ケアから始まる時代です。口と全身の健康は密接に関係しているといわれて久しいですが、私の専門であるがん医療の分野でも同じことが言えるでしょう。」とおっしゃっています。
私は、患者さんが生涯にわたってお口の中の健康を守るとともに、全身の健康を守れるように、30年近く予防中心の医療を行ってきました。なかなか理解してもらえない時代もあったのですが、最近徐々にではありますが、特に気になるところはないのだけれど、定期検診・予防をやりたいという患者さんがが増えているように感じます。これからも予防の大切さをスタッフとともに語り、患者さんの健康を守っていきたいと思います。