【奪還=タイトルと兄弟 アーストレスVSバミューダIII

 結局、暴風雨隊とは試合前に会えなかった。 試合前にトレーニング場で会おうと連絡を入れていたのに姿を見せず、音沙汰もなかった。 もしや、今日の試合、棄権するつもりか!?
『ガチャ』
 私はマスクをかぶったカレクックと共にリンピオ側の控室の扉を開けた。
「モアモアモア・・・ 来たかリンピオのエース・スカイマン!」
「スカイマン、貴様と対戦を希望しているのに何故組まなきゃならんのだ!」
 控室入りの予定時間丁度に来たのに、先に控室に来ていたのは暴風雨隊の方だった。
「オーナーの御意向だ。 今日ばかりだと思う、我慢してくれ。 よろしく頼む。」
 私は、暴風雨隊が棄権しなかったことに安堵した。 とりあえず試合ができそうだ・・・
「フフフフ・・・ コイツらが暴風雨隊か?」
「おい、そのフザケタマスクマンは何者だ!?」
 私とは正反対に、カレクックが暴風雨隊に挑発し始めた。
「私のセコンド・・・」
「インド出身のガーネーシャマンだ。」
 カレクックは咄嗟にそう名乗った。
「く、口が悪いが頼りになるヤツだ。 彼もよろしく頼む。」
 私は暴風雨隊をなだめようとしたが・・・
「悪魔超人に勝つ勝算はあるのかな? お2人さんは?」
 カレクックは暴風雨隊を挑発する。
「キカキカ~ 我らの対戦相手の分析は完璧だ。 我ら2人でバミューダIIIとやらを葬ってやる。 お前らは高みの見物でもしておきな。」
 オルテガの威勢の良い発言に、カレクックの追撃は止まらない。
「残虐超人なのに同じ悪行超人の悪魔超人に挑む決心があるのだな?」
「誰であろうと我らの前に立ちふさがる者は倒してやる。」
 モアイドンが身を乗り出した。
「そうか、失礼・・・ 南米の残虐超人は悪魔超人を崇拝していると聞いたもんでな・・・」
「き、貴様何者だ! オレ達と同じ残虐超人だな!?」
 私は止めるしかなかった・・・
「もめるのはよせ! チームなのだから・・・ むっ、もう時間だ。 支度をするぞ!」
 『青コーナーから“アーストレス”の入場です!!!!』
 場内にアナウンスが入り、暴風雨隊のテーマがかかった。
「ケッ、変な金魚のフンを連れてきたもんだ! セコンドなんていらねぇよ!」
「モアモア・・・ 観客席で応援でもしとけ!」
 オルテガとモアイドンは控室を出て行った。
 アーストレス・・・ ヘバスがバミューダIIIに対抗して付けた適当なチーム名だ・・・ “アース”は“地球”で、“トレス”は“3”・・・ スペイン語で“1、2、3”は、“ウノ、ドス、トレス”だ。
私は颯爽とリングに走りたかったが、先頭を行くモアイドンがゆっくりと歩き、道を通せんぼする。 やはり弟達とのタッグとは違い、自らのリズムを作ることができない・・・ 私の側にはカレクックが付き添ってくれているのが、せめてもの救いだ。
『先日、弟2人を異次元空間に葬られたスカイマン。 本日は復讐鬼となって、南米を震撼させた暴風雨隊とチームを結成! 魔界からやってきた真性悪魔超人・バミューダIIIを倒すことができるかぁ~っ!!』
 適当なことを言う。 弟達は、まだ生きているハズだ。 私が救い出して見せる!
『赤コーナーから“バミューダIII”の入場です!!!!』
 ようやく、リングに辿り着くと場内が真っ暗になった。 クラシックが流れる。 これはワルキューレの騎行? レーザービームが3方向から照射される。
『前チャンピオン、スーパー・マスクブラザーズを一瞬のうちに解散させてしまった、恐るべき悪魔超人軍団の入場です!』
 ん!? 良く見るとそのレーザービームはバミューダⅢの顔の穴を通過している。 ヘバスの演出か? 不気味な雰囲気でゆっくりと歩き出し、リングに向かってくる・・・
『悪魔なのにマントを翻し、どこか紳士的な振る舞いのバミューダIII・・・ 華麗な残虐殺法に心揺さぶられます!』 
 両チーム、6人がリング上に勢揃いした。 バミューダIIIは、背中合わせに腕組をし、なにやら神経を集中しているらしい。
『青コーナ~ チャレンジャーチーム ア~ス~ト~~レ~ス~ 180センチ89キロ~ 45万パワ~ メキシコ出身~ スカ~イマ~~~ン!』
 リングアナのコールとともに、観客から大きな拍手喝采が沸き上がる。 同情の声援も聞こえ、逆に情けなくなってくる。
『280センチ890キロ~ 340万パワ~ チリ出身~ モ~アイ~ド~~~ン!』
 巨体のモアイドンが腕を上げる。 照明に手が届きそうなくらいデカイ。 このリングで超人強度が極端に下がってなければいいが・・・
『銀河系プロレス~クルーザー級チャンピオン~ 183センチ105キロ~ 60万パワ~ メキシコ出身~ オル~ティ~ガァ~~!』
 クルーザー級のくせに体重はヘビー級並みか・・・ オルテガは、バック宙をしてモアイドンの肩に乗った。
「キカキカ~!」
 2人はバミューダIIIに対して首を切るパフォーマンスで挑発している。
『赤コーナ~ チャンピオンチーム バ~ミューダ~スリ~ 201センチ420キロ~ 200万パワ~ 魔のバミューダ海域出身~ バ~~ミュ~~ダァ~~ワン!』
「オレの名はデルタだ! 魔界の名門ホール一族のエリート! 魔界の貴公子だ!!」
 ヤツの顔にはバミューダ・トライアングルを思わせる三角形の穴が空いている。
『201センチ420キロ~ 200万パワ~ 魔のバミューダ海域出身~ バ~~ミュ~~ダァ~~ツゥ!』
「オレの名はエックス! 悪行超人のドン、悪魔超人の恐ろしさを見せてやるぜ! エーックス!!」
 ヤツの顔には名前の通り、“X”の穴が空いている。 上げていた両腕をクロスさせ、大見得を切ったポージングだ。 全くホール一族とは何もんなんだ?
『201センチ420キロ~ 200万パワ~ 魔のバミューダ海域出身~ バ~~ミュ~~ダァ~~スリ~~!』
「オレの名はクローズ! サタン様、我ら三つ子に力を与えたもぉ~れぇ!!」
 ヤツの顔は穴が閉じたように縦長の穴が空いている。 三つ子? ヤツらは兄弟なのか? 3人とも同じ体格とは不気味だ。 リングアナのコールとともに、観客からチャンピオンに大きな拍手喝采が沸き上がる。 どうやら観客は乱入者をチャンピオンと認めているようだ・・・
「私が出る!」
 私は暴風雨隊に告げた。 一刻も早く弟達を救い出したかったのだ。
「マモマモマモ~ッ! そうこなくっちゃ、スカイマン。」
「モアモアモア、我らの攻略法が正しいか実験できるなぁ~ なぁ、相棒!」
「!?」
 私は暴風雨隊の不気味な思惑を感じながらも、先陣を切ることにした。
『アーストレスはスカイマン。 バミューダIIIはバミューダスリーことクローズがリングに残ります。』
 私はカレクックの表情を見た。 彼は微動だにしなかった。 私は無言の檄と思い、リング中央に進んだ。 さっきまで兄弟救出のため躍起だっていたのだが、カレクックのマスク越しの顔を見たら不思議と冷静さを取り戻すことができた。 何故だろう・・・

『カァァァ~ン!!』
「正義超人の実力、見させてもらうぜ!」
 クローズはそう言ってゴングと同時にロープに飛んだ。
『バ~ン!』 『バ~ン!』
 私もその動きに反応して反対側のロープに飛んだ。 ヤツはロープの反動を利用して宙に舞った。 ジャンピング・ラリアットを狙っている?
『バシッ!!』
『開始早々の攻防は、スカイマンの技が勝った~っ!! カウンターのフライング・クロス・チョップがクローズを襲ったぁ~っ!!』
 私はクローズの更に上を飛び、上から叩きつけるようにフライング・クロス・チョップを叩き込んだ。
『サッ!』
『ズバンッ!!』
『クローズが立ちあがったところにアーム・ホイップ! スカイマンの連続技が決まった~っ!!』
『ズバンッ!!』 『ズバンッ!!』
 私はアーム・ホイップでクローズを手玉に取った。
『スカイマンの芸術的なアーム・ホイップ3連打です!!』
 更に4発目を狙う!
「こんな小技、返してくれる!!」
 クローズは空中で力任せに外しにかかった。
『ズダダンッ!!』
『こ、これは凄い! アーム・ホイップを切り替えされたスカイマン。 バックに回ってタイガー・スープレックスだぁ~っ!!』
「くうぅぅ・・・」
『芸術です! アートです! これほどまでに美しいフォームの技の連携を私は見たことがありません!』
『ドカッ!!』
『今度は至近距離からのドロップキック!! スカイマンの技は、美しさと力強さを合わせ持っています!』
 私のドロップキックで、クローズは自軍のコーナーまでぶっ飛んだ。
「正義超人のくせになかなかやるなぁ・・・」
 そう言ってクローズにタッチしたエックスが中に入って来た。
「よぉ~し、こちらもタッチだ!」
 オルテガが手を伸ばしてきた。
「モア~? おい、オルテガ! 攻略法を実験するんじゃなかったのか?」
 モアイドンがビックリしている。
「うるさい! オレがスカイマンより優れていることを見せつけてやるのだ!」



その19へ続く・・・

この物語はフィクションです。 以下略・・・