また風邪をひいた。

 

39℃の熱を出し、寝込んだ。

 

緊張から解放されると体調を崩すのは、今も昔も変わっていない。

 

寝て起きて、代ゼミのパンフレットを見て…を繰り返していた。

 

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2月22日、上智大学の合格発表日。

 

電話で合否確認をするシステムだった。

 

朝起きてから発表時間になるまで、ソワソワしていた。

 

 

 

家電からかければお金がかからないのだが、自室で携帯電話からかけた。

 

結果は何となくわかっていたので、1人で確認したかったのだ。

 

専用電話にダイヤルすると、自動応答だった。

 

受験番号を入力すると、

 

 

 

 

 

理学部

 

 

数学科

 

 

受験番号××××の方は

 

 

 

 

 

 

 

 

不合格です。

 

 

 

 

 

 

ズーン。

 

 

 

 

 

 

わかってはいたが、実際突きつけられると、かなりこたえた。

 

母親に報告し、まだ午前中だったが、熱も辛かったので、二度寝兼、ふて寝をした。

 

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2月23日、慶応義塾大学の発表日。

 

 

この大学は確か、郵送での合否発表だったと思う。

 

 

夕方頃に封筒が届いた。

 

 

開けて、自分の受験番号を探した。

 

 

案の定であるが、番号は無かった。

 

 

数学0点の数学科生なんて、いるか❓

 

 

当たり前…

 

当たり前の結果だった。

 

 

代ゼミのパンフレットの読み込みに、いっそう熱が入った。

 

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2月25日、早稲田大学の発表日

 

 

良くも悪くも、これで全てが終わる。

 

絶対に不合格だ。

 

全科目の点数をかき集めて、ようやく合格最低点くらいの出来だった。

 

いや、不合格でいい。

 

来年度、代ゼミ最強講師陣の授業を受けて、東大に受かるんだ。

 

そのためには、

 

不合格でいいんじゃない。

 

不合格がいいんだ。

 

 

 

 

内心は、切に合格を望んでいるのだが、

 

 

とにかくものごとを悲観的に考えておくことで、いざ悪い結果が確定したときのショックを和らげる。

 

 

sadounivの昔からの自己防衛戦略であり、思考の癖だ。

 

不合格がいい、とか思っているくせに、発表の時間が近づくと、ソワソワしだす。

 

合格したい気持ちの裏返しであることは、否定できるはずもなかった。

 

 

 

午前10時だっただろうか。

 

合格発表の時間になった。

 

早稲田大学も上智と同じく、電話での合否発表であった。

 

 

愛読書である代ゼミのパンフレットを抱えながら、合否発表専用電話にかける。

 

 

プルル

 

 

自動音声「早稲田大学です。受験番号を入力してください。」

 

 

 

sadouniv「1、1、8、2、2」

 

 

 

 

「不合格です」

 

 

「不合格です」

 

 

「不合格です」

 

 

 

上智のときの音声が、未だ発熱中の頭の中にこだまする。

 

 

いや、あえて、こだまさせている。

 

 

心を守るための、防衛戦略だから。

 

 

 

 

 

 

 

自動音声「理工学部」

 

 

 

 

 

自動音声「数理科学科」

 

 

 

 

 

自動音声「受験番号」

 

 

 

 

 

自動音声「1、1、8、2、2の方は、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おめでとうございます。合格です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔がブワーっと熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

抱えていた代ゼミのパンフレットが左手からするりと床に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

2階の自室から一目散に、1階へと降りていった。

 

 

 

あまりに急いでいたので、木造の家中に、ドタドタと足音が響き渡った。

 

 

 

1階で写真を現像している母親に報告するためだ。

 

 

 

しかし、あまりに大きい足音で母親は、

 

何が起きたかを悟っており、

 

 

仕事を中断して、sadounivを迎え入れた。

 

 

受かった❗️受かった❗️早稲田に受かった❗️

 

 

母親と抱き合って喜んだ。

 

 

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確かに、受けた大学の中で、唯一手応えはあった。

 

それでも、本当に合格するなんて、思っていなかった。

 

 

 

某女優の芸能推薦をきっかけに、

 

勝手に「チャラチャラしている」と因縁をつけ、

 

ギリギリまで願書を出さなかったくせに、

 

過去問を一度も解かなかったくせに、

 

合格祈願をしてなかったくせに、

 

受験当日に遅刻ギリギリだったくせに。

 

 

 

それでいて、そんな離島のひねくれ者を受け入れてくれるだなんて、

 

 

なんて心が広い大学なんだろう。

 

 

受験勉強で1番頑張った物理の実力を100%引き出してくれたし、

 

数学はセンターレベルの実力しかないのに、スマートさのかけらも無いゴリゴリ計算でも正解を与えてくれた。

 

よくある言葉を使うならば、抜群に「相性が良かった」。

 

 

これは、確かある教授に後年聞いたのだが、

 

 

sadounivがこの年の合格最低点だったらしい。

 

 

まさに滑り込みだったわけだ。

 

 

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2月25日の昼頃、父親が帰ってきたので、合格を報告した。

 

 

自動音声を聴かせろというので、もう一度合否発表専用電話にかけた。

 

 

自動音声「理工学部数理科学科」

 

「…」

 

自動音声「受験番号11822の方は」

 

「…」

 

自動音声「おめでとうございます。合格です」

 

 

 

「おー、そうかそうか。そしたらお礼に佐渡のワカメでもこうて(買って)送るしな、ありがとさん」

 

 

自動音声と会話をするあたりが、父らしいと思った。

 

 

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昼のニュースでは、東大入試の様子が報じられていた。

 

2月25日は、奇しくも東大入試の1日目だったからだ。

 

 

「あれ、赤門の前にsadounivがおらんなぁ。」

 

無邪気に傷をえぐってくるのも、父親らしかった。

 

 

 

こうして、離島の少年sadounivの大学受験、

 

長く厳しい、真冬の大冒険は、幕を閉じるのであった。

 

~~完~~

 

 

~~目次~~

まえがき

1.高校生sadouniv

2.センター試験

3.願書

4.いざ、東京

5.東京

6.直前期の勉強と「和田秀樹本」

7.数学ガン捨て作戦

8.風邪をひく

9.横須賀を出る日

10.2/12品川プリンスホテル

11.東大足切り

12.上智大学

13.慶應義塾大学

14.私大受験 中休み

15.早起きの誓い

16.高田馬場

17.早稲田大学

18.帰島

19.戦いの後

Now>>20.そして合格発表